アスベストの使用の是非をめぐって、日本で盛んに言われている「管理して使用すれば安全という考え方」(「コントロールドユース」という考え方)は、WTOという国際社会の場では受け入れられなかった。カナダは、クリソタイルのリスクは検出できない(アンディテクタブル) 、クリソタイルは管理して使用すれば安全であるとした。言いかえれば、クリソタイルを安全に使用できる方法があって、その方法を使えば禁止するのと同じようなレベルの安全性を確保できる、したがって、フランスが全面的に禁止したのは行過ぎた規制であって、保護貿易主義的である、と主張したのである。
それに対して、ECは、アンディテクタブル、つまり、検出できないということはリスクがゼロとは違う、コントロールドユース、管理すれば安全に使用できるという考え方は非現実的なものであって、一定の製造現場では可能かもしれないが、それ以外のセカンドユーザー、建設現場やビルのメンテナンスで取り扱うことになる人、気がつかないで扱ってしまう人、日曜大工が好きな人、そういう人たちがクリソタイルを日常的に使用することによって発生するリスクを無くすことはできないと主張した。
そのような人たちのリスクを下げることは、コントロールドユースの方法では不可能であって、そのリスクを無くすためには禁止以外にはないとフランスが考えたことは、自国の国民の安全を守るための措置として加盟国に与えられている権利であると主張した。
パネルと上級機関は、法的な解釈の点においては違いがあったが、ともに、アスベストの危険性やコントロールドユースの考えかたについての見解は一致しており、クリソタイルの低濃度暴露の危険性を認め、コントロールドユースの考え方は現実的でないとして、カナダの訴えを認めなかった。
日本で、アスベストの使用を認めている政策の基本的な柱となっている、「管理して使用すれば安全」という考え方が、国際的なレベルでは、現実には実現不可能なものとして支持されなかったということ、このことは、日本が、アスベストに関する国内政策の今後の方向性を決めていく上で、きわめて重要な問題を提示している。
(2002.1.12)(参考)
・WTO(世界保健機構)のクライテリア203:クリソタイル−では、「日本は主要な消費国」とされている
Manufacturing of chrysotile products is undertaken in more than 100 countries, and Japan is the leading consumer country.
−Environmental Health Criteria 203: Chrysotile Asbestos−SUMMARY