静公審第23号
平成12年 9月14日
静岡県知事 石川嘉延 様
静岡県公文書開示審査会
会長 角替弘志
静岡県公文書の開示に関する条例第12条の規定に基づく諮問について(答申)
平成11年4月13日付け循生第20号による下記の諮問について、別紙のとおり答申します。
アスベスト関係事業所立入検査結果の一部開示決定に対する異議申立てについての諮問(諮問第95号)
1 審査会の結論
静岡県知事が非開示とした部分のうち、立入検査した事業所名、所在地、電話番号、ばい煙番号及び工場番号並びにアスベストの測定業者名は開示すべきである。2 異議申立てに至る経過
(1)平成11年1月21日、異議申立人は静岡県公文書の開示に関する条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、静岡県知事(以下「実施機関」という。)に対し、平成9年度に実施したアスベスト関係事業所の立入検査結果の開示を請求した。3 異議申立人の主張要旨(2)実施機関はこの開示請求に対応する公文書として、次の3件の大気立入検査結果(以下「本件文書」という。)を特定した。
ア 平成9年12月19日付け生活環境課長あて「大気立入検査結果について」
イ 平成10年2月2日付け生活環境課長あて「大気立入検査結果について」
ウ 平成10年3月2日付け生活環境課長あて「大気立入検査結果について」(3)平成11年2月4日、実施機関は本件文書のうち、@立入検査した事業所名、所在地、電話番号、ばい煙番号及び工場番号、A事業所担当者の氏名及び印影、B粉じんの処理業者名、Cアスベストの測定業者名(以下「本件非開示部分」という。)については条例第9条第3号に該当するとの理由で非開示とし、その他の部分については開示するとの一部開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、異議申立人に通知した。
(4)平成11年3月31日、異議申立人は本件処分を不服として行政不服審査法第6条の規定により実施機関に対し、異議申立てを行った。
4 実施機関の説明要旨異議申立ての趣旨は本件処分を取消し、本件文書の全部開示を求めるというものである。異議申立人が異議申立書等で主張している異議申立ての理由を要約すると次のとおりである。
(1)本件開示請求の趣旨
大気汚染防止法上、知事が特定粉じんを排出する事業所などに立入検査を行う権限が与えられているのは、アスベストによる住民の健康被害や環境汚染を防止する目的からである。本件開示請求は、アスベストを排出する事業所において法律上求められている対策が十分に行われていることを確認するとともに、知事の権限が適正に行使され、適切な監督や指導が行われていることを確認するために行ったものである。
一般に、有害物質に関する情報は、住民が自分たちの安全を確保するために必要な情報であることから、その他の企業情報よりも特に非開示の範囲を限定する必要がある。大気汚染防止法によるアスベストの規制の内容から判断して、特定粉じん発生施設を所有する法人の所在や名称を公表することが企業に対する過度の要求とは思われない。むしろ法を遵守していることを積極的に示す必要がある。基本的な情報を隠したり、不充分、不適切な形で情報が提供されることが、風評被害をもたらす原因になったり、断片的な情報が流された場合に過度の反応を招く原因を作り出すことに繋がっており、有害物質についての情報や環境情報を積極的に公表していこうとする今日の社会的要請からもかけ離れている。
県はリスクコミュニケーションを推進する立場から、住民に対して正しい知識や適切な情報の提供に努め、地域住民の納得のうえに立った健全な企業活動が行われるよう配慮すべきである。
(2)条例第9条第3号(事業活動情報)該当性
特定粉じんを排出する事業所が法律を遵守していることを住民に知らせることが、法人の名誉や社会的評価に支障を与えるものとは考えられず、企業活動を妨げる結果を生み出すような可能性があるとは考えられない。特に非開示理由で示されているのは、単なるおそれや可能性にすぎず、これをもって本号に該当するということはできない。
仮に、知事の監督権限が適切に行使されず、周辺住民の健康を脅かしたり環境を汚染する結果を生じるおそれがある場合には、本号ただし書のア(人の生命、身体又は健康を事業活動によって生ずる危害から保護するため、開示することが必要であると認められる情報)又はウ(ア又はイに掲げる情報に準する情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの)に該当する。現実的な危害が発生してから情報を提供しても意味がなく、条例がこのような現実的な危険性が発生していることを条件としているわけではないし、将来においてもそうしたおそれは予測されないと安易に判断すること自体に問題がある。また、開示された文書によれば、「石綿の測定方法が不適正」と記載されているにもかかわらず、本号ただし書に該当しない理由として「法に定める排出基準を十分に下回っており」、「立入検査結果からも違法行為等がない」ということはできない筈である。
(3)本件処分で非開示理由としていない理由の追加の違法性
条例は非開示の決定を通知する書面に理由を記載することを求めており、異議申立て後に非開示理由を追加したり変更することは認められない。非開示理由が異なれば、異議申立ての趣旨や理由が異なってくること(全部開示ではなく、一部開示を求めることなど)が想定される。したがって、審査会としては実施機関の追加主張を取り消させるか、あるいは非開示理由を訂正したうえで改めて決定をさせるべきである。
(1)条例第9条第2号(個人情報)該当性5 審査会の判断(本件処分では非開示理由として本号該当性を説明していないが当審査会あての理由説明書で本号該当性を追加)
事業所担当者の氏名及び印影は、「個人に関する情報であって、特定の個人が職別され、又は識別され得るもの」に該当し、ただし書のいずれにも該当しない。(2)条例第9条第3号(事業活動情報)該当性
本件公文書に記載された事業所においては、法に定める排出基準値を十分に下回っているにもかかわらず、事業所が特定され得る情報を開示した場合には、当該事業所が発ガン性のあるアスベスト製品を製造又は排出していることのみが強調されるおそれがあり、風評による工場の立退き運動や因果関係のない疾病に対する補償請求などが起こりかねず、「法人の事業運営上の地位その他社会的地位が損なわれると認められるもの」に該当する。また、法に定める排出基準値を十分に下回っており、現に人の生命等に危害を与えておらず、かつ将来においてもそのおそれも予測されないのでただし書アには該当しない。立ち入り検査結果からも違法行為等はなく、ただし書イにも該当せず、ただし書ウにも該当しないことは明らかである。
当審査会は、本件文書を審査した結果、以下のように判断する。よつて、「1 審査会の結論」のように判断する。(1)本件文書の内容
本件公文書は、大気汚染防止法第26条の規定による知事の立入検査の結果を検査機関が実施機関へ報告した文書であり、検査実施施設の一覧表(総括表)、立入検査票、特定粉じん発生施設の稼動状況、アスベスト自主測定結果(書類検査の場合)又は石綿測定結果(実測検査の場合)及び指摘事項確認書からなっている。
なお、大気汚染防止法の目的は、事業所における事業活動、建築物の解体等に伴うばい煙、粉じんの排出等の規制により、大気の汚染に関し、国民の健康を保護するとともに生活環境を保全し並びに人の健康に被害が生じた場合の事業者の損害賠償責任を定めることにより被害者の保護を図ることにあるとされている。(2)事業所担当者の氏名及び印影を非開示とする理由の追加
実施機関は、本件処分のうち事業所担当者の氏名及び印影は条例第9条第3号に該当するとしていたが、理由説明書では条例第9条第2号に該当するという理由を追加して主張した。
このような非開示理由の追加を無制限に認めることは、処分における理由付記の趣旨を没却しかねないことになり好ましいことではないが、一方それを認めないとした場合、本件処分の取消が行われた後で再度の処分及びそれに対する不服申立てが繰り返されることも想定される。このようなことから、非開示理由の追加を認めた上で当審査会が審査することが不服申立てを円滑に処理するためにやむを得ない場合があると考え、本件では非開示理由の根拠条項の追加を認めて、以下判断する。(2)条例第9条第2号(個人情報)該当性
条例第9条第2号は、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得る」情報については、同号ただし書の「ア 法令等の定めるところにより、何人でも閲覧できる情報」、「イ 公表を目的として実施機関が作成し、又は取得した情報」、「ウ 法令等の規定に基づく許可、免許、届出等の際に実施機関が作成し、又は取得した情報で、開示することが公益上必要であると認められるもの」に該当するものを除き、開示しないことができる旨を定めている。
本件非開示部分のうち事業所担当者の氏名及び印影は、個人の勤務先及び職種に関する情報であって、特定の個人が識別できるものであるから、条例第9条第2号本文に該当する。また、これらの情報を開示すべき公益上の必要は認められず、ただし書のいずれにも該当しない。(3)条例第9条第3号(事業活動情報)該当性
条例第9条第3号は、「事業に関する情報であって、開示することにより、競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれると認められる」情報については、「ア 人の生命、身体又は健康を事業活動によって生ずる危害から保護するため、開示することが必要であると認められる情報」、「イ 人の生活を違法又は不当な事業活動によって生ずる支障から保護するため、開示することが必要であると認められる情報」、「ウ ア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの」を除き、開示しないことができる旨を定めている。
ア アスベスト取扱事業所の事業所名、所在地、電話番号、ばい煙番号及び工場番号
これらの情報を開示すると、当該事業所がアスベストを取り扱っておりアスベスト粉じんを発生させていることが明らかになるが、アスベストを取り扱うこと自体は法令により禁止されているものではなく、そのことだけで風評被害が起こり、同業者との競争上の不利益が生じたり、社会的な信用を失うとは認められないから、条例第9条第3号本文に該当しないと判断する。
イ アスベスト取扱事業所以外の事業所名及び工場番号
本件文書には大気立入検査の結果が記録されているが、この検査は大気汚染関係の全体調査であり、アスベスト取扱事業所以外の事業所名も記載されている。 このような前提が了解されれば、これらの事業所は、単に通常行われる大気立入検査の調査対象であるということが明らかになるだけであり、事業活動において格別の支障が生ずるものではないから、条例第9条第3号本文に該当しないと判断する。
ウ アスベスト測定業者名及び粉じん処理業者名
これらはアスベスト取扱事業所がアスベストの測定委託及び粉じんの処理委託をした事業者の名称であるが、アスベストの測定及び処理をどの事業者に委託するかということは、当事者間の契約の自由により決定されるべきであり、一般に実施機関が関与すべき正当な理由がない事柄である。
そうすると、検査にあたりこれらの情報を知ることができたにすぎない実施機関がアスベスト取扱事業者の意思と無関係にこれらの情報を開示すれば、事業運営上の地位を損なうこととなるから、条例第9条第3号本文に該当する。次にただし書の適用について判断する。
本件においては、アスベスト測定業者及び粉じん処理業者の事業活動が人の生命、身体、健康を害しているものではなく、また、違法又は不当な事業活動とも認められないことから本件非開示部分が条例第9条第3号ただし書ア又はイには該当しないと解されるので、ただし書ウについて検討する。
アスベストは大気汚染防止法上、人の健康に係る被害を生じるおそれのある物質であり、特定粉じんとして、その種類ごとに工場または事業場の敷地の境界線における大気中の濃度の許容限度が定められ、特定粉じんの発生施設を設置している者はこの敷地境界基準を遵守しなければならないと規定している。
このようなことから、敷地境界基準の遵守状況によっては周辺住民等の健康に直接影響を及ぼす危険性があることを考慮すれば、将来、住民に対する危害の発生があり得ることも一概に否定できない。そのようなことから公的な資格を与えられているアスベストの測定業者を明らかにし、測定結果の信憑性を担保することは公益上必要であると認められる。しかしながら、アスベスト取扱業者がその処理を誰に委託したかということは、当該取扱業者の施設においてどの程度の粉じんが発生しているかということとは無関係であり、また、産業廃棄物行政において排出者責任の明確化等のために排出者と処理業者の関係を公にしようとする動きがあることは認められるが、具体化されるまでには至っていないことからすれば、現状において事業運営上の地位を損ねてまで粉じんの処理業者名を開示する公益上の必要があるとは認められない。
従って、アスベスト測定業者名は条例第9条第3号ただし書ウに該当するが粉じんの処理業者名は該当しないと判断する。
6 審査会の処理経過
審査会の処理経過は、次のとおりである。
年 月 日 処 理 内 容 審査会
平成11年4月13日 諮問を受けた。
平成11年4月15日 実施機関に理由説明書の提出を求めた。
平成11年5月17日 実施機関の理由説明書を受理した。
平成11年5月19日 異議申立人に理由説明書の写しを送付し、意見書の提出を求めた。
平成11年6月19日 理由説明書に対する異議申立人からの意見の提出があった。
平成11年7月19日 理由説明書に対する異議申立人からの意見書を受理した。
平成12年4月25日 審議 第112回
平成12年6月20日 実施機関から本件処分の理由等を聴取した。 第114回
平成12年7月18日 異議申立人から本件処分に対する意見を聴取した。 第115回
平成12年8月22日 審議 第116回
平成12年9月14日 審義(答申) 第117回
静岡県公文書開示審査会委員名簿(会長及び会長代理以外は五十音順)
氏 名 職 業 等
会 長 角替弘志 常葉学園大学教育学部教授
会長代理 小野森男 弁護士
委 員 大村知子 静岡大学教育学部教授
委 員 矢野正子 静岡県立大学看護学部長
委 員 山中崇弘 静岡新聞社常務取締役