静情審第53号
平成11年12月15日
静岡市長 小嶋善吉様
静岡市情報公開審査会
会長 勝山國太郎
静岡市情報公開条例第12条の規定に基づく諮問について(答申)
平成11年4月19日付け静生環第68号による下記の諮問について、別紙のとおり答申します。
「特定粉じん排出等作業実施届出書」の部分公開決定に対する異議申立てについての諮問
(諮問第5号)
「特定粉じん排出等作業実施届出書(平成10年2月4日受付G−2)」及び「特定粉じん排出等作業実施届出書(平成10年9月10日受付F−3)」の「特定工事の場所がわかる部分、注文者の氏名又は名称」については、公開することが妥当である。2異議申立てに至る経過
(1)平成11年1月21日、異議申立人は、静岡市情報公開条例(平成7年静岡市条例第55号。以下「条例」という。) 第6条の規定により、静岡市長(以下「実施機関」という。)に対し、「大気汚染防止法第18条の15に規定する届出書平成9年度及ぴ10年度に届け出られたもの」の公開請求(以下「本件公開請求」という。)を行った。3異議申立人の主張要旨(2)平成11年2月3日、実施機関は、本件公開請求に対応する公文書として、平成9年度及び平成10年度に届け出られた7件の「特定粉じん排出等作業実施届出書」を特定し、届出ごとに決定を行ったが、そのうち、「同届出書(平成10年2月4日受付G−2)」及び「同届出書(平成10年9月10日受付F−3)」(以下「本件公文書」という。)については、次に掲げる部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、その理由を次のとおり付して、異議申立人に通知した。
「特定工事の場所がわかる部分、注文者の氏名又は名称、特定建築材料の使用箇所に係る見取図」
条例第10条第2号に該当
法人等の事業活動情報で、公開することにより当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上若しくは事業運営上に不利益を与え又は社会的信用が損なわれると認められるため
条例第10条第1号に該当
犯罪の予防、その他公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがあると認められるため(犯罪の目標となることが予想される施設等の所在に関する情報)
(3)平成11年2月8日、実施機関は、異議申立人に本件処分による公文書を総務部総務課市政情報室において公開した。
(4)平成11年4月9日、異議申立人は、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に対し異議申立てを行った。
(1)異議申立ての趣旨4 実施機関層主張要旨異議申立ての趣旨は、本件処分を取り消し、条例第10条第1号に該当すべき情報(「特定建築材料の使用箇所に係る見取図」)を除き公開するとの決定を求めるものである。
(2)異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書等で主張している異議申立ての理由を要約すると、次のとおりである。
ア 静岡市情報公開条例第10条に示されている情報は公開しないことができる情報であり、この各号にあげられた情報であるからといって、直ちにそれが非公開と判断すべき理由となるわけではない。理由説明書では、この条文にあげられた理由が漠然と示されているだけで、一般の人が立ち入る建築物において行われた吹付けアスベスト(石綿)工事の届出に対して、市が、この条文に該当して非公開とするべき情報であると判断した理由は明確にされてはいない。
イ 市は、法人の所有する建築物については、届出人及び注文者の意向を尊重し て、公開、非公開についての判断をこれらの関係者の判断にゆだねている。一般の人が立ち入る可能性がある建築物において行われた吹付けアスベストの工事は、利用者などの一般の住民の健康に影響を及ぼす可能性があるので、公共建築物に準じた取り扱いがなされるべきであって、個々の法人の判断に、公開、非公開の判断が左右されるべきではないと考える。
ウ 吹付けアスベストの工事に係るこの届出書は、工事の内容をあらかじめ知り、内容について説明を受けたり、工事後に、適正な方法で工事が行われたかどうか確認する必要が生じた場合には、利用者や住民の健康を守るために重要な情報となる。したがって、条例第10条第2号ただし書に該当するものと考える。
エ 吹付けアスベストの除去工事等においては、労働法上、表示の義務がある。一般的な見地からも、工事が行われていることを周知徹底することは、近隣の住民や利用者の安全に対する配慮として当然行われるべきものである。特に一般の人が立ち入る可能性のある建築物については、所有者や施工者等が、工事の内容について公表し、安全に配慮して工事が行われていることを説明する社会的責任を負っているものと考える。
オ 以上のように、これらの建築物のもつ公共性とアスベスト工事の特殊性にかんがみて、市は、公益的見地から、異議申立てをしている部分の情報については、「特定工事の場所」や「注文者の氏名又は名称」等も含めて公開するべきである。
実施機関の説明を総合すると、おおむね次のとおりである。
(1)本件公文書における事務の背景5 審査会の判断ア 特定粉じん(大気汚染防止法施行令第2条の2により「石綿」と規定されている。)は、石綿製品等を製造する工場・事業場から大気中に飛散するだけでなく、吹付け石綿等を使用する建築物の解体等の際にも飛散するおそれがあり、平成7年1月の阪神・淡路大震災後には、震災で被害を受けた建築物の解体撒去の際飛散する石綿による大気汚染が大きな社会間題になった。
さらに、吹付け石綿等が使用されている建築物の多くが築後30年程度を経過しており、今後建築物の建て替えのための解体等が増加すると予想されることから、石綿飛散防止対策の徹底を図っていく必要があるため、平成8年5月に大気汚染防止法が改正され、建築物の解体等に伴う石綿の飛散防止について法的規制措置が講じられ、平成9年4月1日より施行された。イ 本件公文書による届出は、大気汚染防止法第18条の15の規定に基づいて、届出が必要な建築物の解体作業等を行う事業者(以下「工事施工者」という。)に対し、その作業の内容が作業基準に適合するものであるか否かを審査するため、あらかじめ必要事項を届け出させるものである。これにより、市は特定粉じん排出等作業の行われる場所その他の必要な情報を把握するとともに、作業内容を審査し、特定粉じん排出等作業による大気汚染の防止を図ることになる。なお、審査の結果、基準に適合していないと認められる場合には、あらかじめ作業を開始する前に計画の変更を命じ、適正な作業を行わせることができ、違反した者には罰則規定が適用される。
また、この届出は、建築物の所有者等の工事発注者ではなく、作業工程を管理している工事施工者が行うこととされている。(2)条例第10条第2号に該当することについて
本件公文書の届出者である工事施工者と注文者との間には他の業者には知られたくない商取引上の関係が存在しているとともに、特定工事の場所がわかる部分の公開によって注文者所有の建築物が公になった場合、利用客である一般市民に対して不安を煽ることとなるなど、公開することにより当該法人等の競争上若しくは事業運営上に不利益を与え又は社会的信用が損なわれると認められる。 また、本件公文書による届出は、適正な作業が行われているか否かを審査するためのものであり、注文者の氏名又は名称や特定工事の場所を問うものではないことと作業基準どおりの作業が行われた場合には大気汚染のおそれはなく、一般市民への健康影響はないものと考え、条例第10条第2号ただし書アには該当しないものと判断した。
(3) 条例第10条第1号に該当することについて
特定建築材料の使用箇所に係る見取図については、犯罪の目標となることが予想される施設等(「特定粉じん排出等作業実施届出書(平成10年2月4日受付G−2)」にあっては、金庫等、「同届出書(平成10年9月10日受付F−3)」にあっては、事務所を含むバックヤード部分等)の所在に関する情報が合まれているため、条例第10条第1号に該当するものである。
以上のとおり、本件処分は、違法、不法な点はない。 なお、本件処分を行うにあたっては、注文者である法人に対し、第三者意見聴取(照会・回答)を実施し、「公開しないでほしい」等の意見を得ている。
(1)本件公文書及ぴ本件非公開部分について6 審査会の処理経過大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)は、同法第18条の15の規定により、特定粉じん排出等作業を伴う建設工事(以下「特定工事」という。)の施工者に対して、作業開始日の14日前までの、都道府県知事(又は同法第31条第1項の規定に基づき事務の委任を受けた市の長)への届出を義務づけている。
本件公文書は、この届出に係る届出書(添付書類を含む。)であり、特定工事の施工者が作成、届出し、静岡市長が受理、取得したものである。
また、本件公文書には、大気汚染防止法第18条の15及び同法施行規則第10条の4に定められた届出事項(@届出者の氏名又は名称等、A特定工事の場所、B作業の種類、C作業実施の期間、D特定建築材料の種類、使用箇所及び使用面積、E作業の方法、F作業の対象となる建築物の概要等、G特定工事の工程の概要、H注文者の氏名又は名称、I届出者の現場責任者の氏名等、J下請負による場合の下請負人の現場責任者の氏名等)に係る記載があるが、本件非公開部分は、それらのうちのAに係る記載の一部及ぴHに係る記載の全部並びにDに係る添付図面にあたる。
(2)判断部分について
異議申立人は、本件非公開部分のうち、条例第10条第1号に該当することを理由として非公開とされた「特定建築材料の使用箇所に係る見取図」にっいては、その公閑を求めていない。また、実施機関は、同見取図以外の部分に同条同号を適用していないものと認められる。 したがって、当審査会は、本件非公開部分のうち、同見取図を除く部分(「特定工事の場所がわかる部分、注文者の氏名又は名称」(以下「本件異議申立部分」という。))について、条例第10条第2号に該当するか否かを判断すれば足りるものと考える。
(3)本件異議申立部分の条例第10条第2号該当性について
ア基本的な考え方
条例第10条第2号は、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、その競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え、又は社会的信用が損なわれると認められるものについては、公開しないことができる旨、定めたものであり、当審査会では、本件異議申立部分を公開することが、条例第10条第2号の要件に該当するか否かを客観的に判断すべきものであると考える。
イ具体的な判断について
本件異議申立部分のうち、「特定工事の場所がわかる部分」には特定工事が行われる建築物の名称及ぴ所在地が、「注文者の氏名又は名称」には当該特定工事の注文者である法人名及びその代表者の職・氏名が記載されており、これらは当該法人がその事業に使用する建築物において行われる特定工事に関する情報であるから、本件異議申立部分は、条例第10条第2号本文に規定する「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」であるものと認められる。
次に、本件異議申立部分の条例第10条第2号本文の要件該当性について検討する。 実施機関は、条例第10条第2号適用の理由について、「本件公文書の届出者である工事施工者と注文者との間には他の業者には知られたくない商取引上の関係が存在しているとともに、注文者所有の建築物が公になった場合、利用客である一般市民に対して不安を煽ることとなるなど、公開することにより当該法人等の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え、又は社会的信用が損なわれると認められる」と主張する。
ところで、建築工事の場合は通常、建築基準法第89条に基づく確認の表示が義務づけられており、工事現場に建築主(注文者)や施工者等が表示されるものである。このことから、工事層場所や注文者、施工者といった情報自体は、秘匿性のある情報とは言えないものと考えられる。 また、実施機関は、本件公開請求に対応する7件の「特定粉じん排出等作業実施届出書」のうち4件について、その全部を公開したが、その中には法人所有の建築物に係るものが含まれている。このように同時に請求された同種の公文書についての公開、非公開の判断が分かれる本件処分が妥当性をもつためには、本件異議申立部分に条例第10条第2号を適用すべき特段の理由が認められなければならない。
さらに、公開によって知られるところとなる事実は、法人が発注したアスベスト除去の工事の実施にあたり、適法な届出がなされたということのみであり、これはそれだけでは当該法人に不利益な評価となるものではなく、むしろ、公開により正確な情報が伝達され、公正な社会的な評価につながるものであると考えられる。
したがって、実施機関が条例第10条第2号遭用の理由として主張する「他の業者には知られたくない商取引上の関係」及び「一般市民に対して不安を煽ること」には、いずれもその論拠が認められない。
よって、本件異議申立部分については、これを公開しても条例第10条第2号本文の要件に該当しないものであり、同条同号ただし書の判断に及ぶまでもなく、「1審査会の結論」のように判断する。
審査会の処理経過は、別記のとおりである。
別記 審査会の処理経過
年月日 処理内容(平成11年)
4月19日 ・諮問を受けた。4月20日 ・実施機関(生活環境部環境保全課)に理由説明書の提出を依頼した。
5月18日 ・実施機関から理由説明書を受理した。
5月26日 〔第25回審査会〕
・諮問内容及び理由説明書の説明を受け、諮問の審査を行った。6月2日 ・異議申立人に理由説明書を送付し、同書に対する意見書の提出を依頼した。
6月7日 ・異議申立人からの申出(口頭)により意見書提出期限を延長した。
8月4日 ・異議申立人から意見書及び口頭による意見陳述申出書を受理した。
8月5日 ・実施機関に意見書を送付した。
9月10日 〔第26回審査会〕
・諮問の審査を行った。10月20日 〔指名委員による意見等の聴取〕
・異議申立人から本件処分に対する意見を聴取した。11月24日 〔第27回審査会〕
・諮問の審査を行った。12月15日 〔第28回審査会〕
・諮問の審査を行った。
・答申を行った。