1999年8月2日


静岡市情報公開審査会
 会 長 (氏名略)様

アスベストについて考える会
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「非公開理由説明書」に対する意見の提出について


 平成11年5月18付け静生循第91号による「非公開理由説明書」に対する意見を、次のように提出いたします。


1 対象となっている理由説明書

 平成11年5月18付け静生循第91号による「非公開理由説明書」(平成11年6月1日付け静情審第45号によって送付されたもの。)


2 意見の要旨

(1) 静岡市情報公開条例第10条に示されている情報は公開しないことができる情報であり、この各号にあげられた情報であるからといって、直ちにそれが非公開と判断すべき理由となるわけではない。  理由説明書では、この条文にあげられた理由が漠然と示されているだけで、一般の人が立ち入る建築物において行われた吹付けアスベスト工事の届出に対して、市が、この条文に該当して非公開とするべき情報であると判断した理由は明確にされてはいない。

(2) 市は、法人の所有する建築物については、届出人及び注文者の意向を尊重して、公開、非公開についての判断をこれらの関係者の判断にゆだねている。  一般の人が立ち入る可能性がある建築物において行われた吹付けアスベストの工事は、利用者などの一般の住民の健康に影響を及ぼす可能性があるので、公共建築物に準じた取り扱いがなされるべきであって、個々の法人の判断に、公開、非公開の判断が左右されるべきではないと考える。 

(3) 吹付けアスベストの工事に係るこの届出書は、計画段階での作業内容を示したもので、工事が終了した段階での報告ではないので、実際に行われる作業によっては、住民や利用者の健康に影響を及ぼすことも十分考えられる。  この届出書は、工事の内容をあらかじめ知り、内容について説明を受けたり、工事後に、適正な方法で工事が行われたかどうか確認する必要が生じた場合には、利用者や住民の健康を守るために重要な情報となる。したがって、同条例第10条第2号のただし書きに該当するものと考えて公開とするべきである。

(4) 吹付けアスベストの除去工事等においては、労働法上、表示の義務がある。一般的な見地からも、工事が行われていることを周知徹底することは、近隣の住民や利用者の安全に対する配慮として当然行われるべきものである。  特に一般の人が立ち入る可能性のある建築物については、所有者や施工者等が、工事の内容について公表し、安全に配慮して工事が行われていることを説明する社会的責任を負っているものと考える。

(5) 以上のように、これらの建築物のもつ公共性とアスベスト工事の特殊性にかんがみて、市は、公益的見地から、異議申立てをしている部分の情報については、「特定工事の場所」や「注文者の氏名又は名称」等も含めて公開するべきである。


3 意見

 別紙のとおり


(別紙)

「非公開理由説明書」に対する意見


1 はじめに
2 建築物の公共性
3 工事の公共性
4 表示の義務
5 他の事例
6 結論として


1 はじめに

非公開と判断した理由は明確とはいえない

 静岡市情報公開条例(以下「条例」という。)第10条は、「実施機関は、公開の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書の公開をしないことができる。」と定めている。
 この条文の各号で定めている情報は、いうまでもなく公開しないことができる情報であって、これらの条項に挙げられた理由がある場合でも、原則公開という前提のもとに、公開するべき情報であるかどうかの判断が必要になる。
 条例第10条第2号に該当することについて、理由説明書では次のように述べている。

    (2) 条例第10条第2号に該当することについて
     本件公文書の届出者である工事施工者と注文者の間には他の業者には知られたくない商取引上の関係が存在しているとともに、特定工事の場所がわかる部分の公開によって注文者所有の建築物が公になった場合、利用客である一般市民に対して不安を煽ることとなるなど、公開することによリ当該法人等の競争上若しくは事業運営上に不利益を与え又は社会的信用が損なわれると認められるため。

 ここではこの条文に挙げられた理由があることが漠然と示されてはいるが、「公開することにより当該法人等の競争上若しくは事業運営上に不利益を与え、又は社会的信用が損なわれると認められる」とした理由が具体的に示されているわけではない。
 「他の業者には知られたくない商取引上の関係が存在している」、「利用客である一般市民に対して不安を煽ることとなる」などの届け出た側の理由を漠然と示すだけでは、市が、どのような理由で、一般の人が立ち入る建築物におけるアスベスト工事の届出であるにもかかわらず、なおも非公開とすべきと判断したのかという点についての説明としては、はなはだ不十分であるといわざるを得ない。

個々の法人の判断にゆだねることは適切か

 これに関して、公開の時点では、市は、公開請求された届出のうち、公的機関が所有する建築物については、所有者や届人の承認を求めることなく全部公開とし、法人が所有する建築物においては、届出者の了解を得られたものは全部公開、了承を得られなかったものは特定工事の場所や注文者の氏名等を非公開としたと説明していた。
 このため、全く同じ届出書の同じ種類の情報であっても、公開されたり公開されなかったりする場合があり、なおかつ、届出人が同じであっても、建物の所在地や所有者の違いによって、公開されたり公開されなかったりする場合が出ている。
 市は、法人の所有する建築物については、届出人及び注文者等の意向を尊重して、公開、非公開についての判断を個々の関係者の判断に任せたということになる。
 ところで、理由説明書に「利用客である一般市民に対して不安を煽る」とあることからわかるように、対象となっている建築物は、一般の人たちが「利用客」として日常的に出入する建築物である。
 一般の人が立ち入る建築物で、アスベストの除去及び封じ込め工事が行われているのに、今回のように、公開、非公開の判断を、届出人や注文者等の判断にそっくり委ねてしまうことが妥当であるかという点が問題になる。


2 建築物の公共性

一般の人が出入りする建築物

 一般的に建築物の所有者は建物の安全性について所有者責任を負っているが、一般の人が利用する建築物においては、特に、利用者の安全に配慮する必要性から、公共建築物に準じた取り扱いが求められるものと考えられる。
 中でも、特にデパートや映画館、ボーリング場など、大勢の一般客を集めて商業活動を行っている場合には、利用者に対して、安全に配慮して営業活動を行っていることを示す義務があると考えられる。

民間建築物における吹付けアスベスト調査

 吹付けアスベストについては、10年ほど前、学校や公営住宅をはじめ、広範囲の建築物に使用されていることがわかり大きな社会問題となったことがある。当時、文部省や環境庁などからの通達により、公立学校や公共の建築物に使われている吹付けアスベストの調査が行われ、補助制度などが作られて除去工事がすすめられたが、同時に、建設省からも、民間の建築物で、一般の人が立ち入る可能性のある建築物について、調査をして報告をするようにという内容の通達が出されていた。(「昭和63年1月25日 建設省住開発第21号建設省住宅局建築指導課長から各都道府県建築主務部長宛て通知「民間建築物における吹付けアスベストに関する調査について」)。

 この通達の調査の対象となった建築物は、「昭和31年から昭和49年までに施工された民間建築物のうち、室内又は屋外に露出してアスベストの吹付けがなされているもので、体育館、劇場等多数の者が利用するもの」とされていた。
 調査表にあげられた建物の用途は、「劇場、映画館、演芸場、観覧場、集会場、病院、ホテル、旅館、体育館、ボーリング場、スケート場、水泳場、百貨店、展示場、キャバレー、ナイトクラブ、舞踏場、料理店・飲食店、事務所、工場、駐車場、複合ビル、その他」となっていた。
 通達は、これらの建物について、ヒアリングなどによる設計図書による確認や現場での調査を行い、適切な維持管理、飛散防止対策を指導するように求めている。
 このように、民間の建築物であっても、多数の人が利用する建物については、公共建築物に準じた調査が行われ、適切な維持管理や飛散防止に留意することが求められていた。

定期報告の対象建築物

 一般の人が利用する公共性の高い建築物の代表的なものとして、建築基準法第12条第1項に該当する建築物がある。
 これらの建築物は、大規模で、大勢の人が出入する特に公共性の強い建築物であることから、防災上等、利用者の安全を守る観点から、定期報告をはじめとした様々な法的な義務付けに従うことが求められている。この定期報告書には「吹付アスベスト」の項目があり、「吹付アスベストが施工されているか」「吹付けられている部分のおおよその面積」「吹付け表面の損傷の有無」などについて、調査して報告することとされている。

既存建築物の防災改修に係る融資制度

 この建築基準法第12条第1項に該当する特定の建築物については、耐震判定に係る融資制度や建築物の防災改修に係る融資制度など、地震対策や安全対策を講じる上で必要な資金に対し、融資などの助成制度が作られている。
 この「既存建築物の防災改修に係る融資制度」は、阪神・淡路大震災で吹付けアスベストが使用されていた建物の倒壊と解体工事によって、アスベスト粉じんが飛散して大気環境を汚染し、住民の健康に影響を及ぼすことが懸念された経過を踏まえて、1995年4月以降、定期報告の対象建築物等で、耐震改修をはじめとした適切な維持保全計画の一環として行われる吹付けアスベスト工事についても対象に加えられ、一定の要件のものに政府系金融機関から長期低金利の融資が受けられるようになった。

 このように、これらの特定の建築物については、民間の建築物であるとはいえ、罰則を含めた規定によって、様々な防災対策をとることを厳しく求められている。その一方で、それらの対策を進めるための資金援助として、融資制度をはじめとする優遇措置が講じられている。
 今回の非公開の対象となっている建物が、定期報告を求められている建築物であるかどうかは不明ではあるが、もしそうである場合には、一般の人が立ち入る建築物の中でも特に公共的な性格が強い建築物として、公共建築物と同様の取り扱いをすることが求められるべきである。


3 工事の公共性

一般市民への健康影響

次に、理由説明書では、条例第10号第2号のただし書きに該当しない理由について次のように述べている。

     また、本件公文書による届出は、適正な作業が行われているか否かを審査するためのものであり、注文者の氏名又は名称や特定工事の場所を問うものではないことと作業基準どおりの作業が行われた場合には大気汚染の恐れはなく、一般市民への健康影響はないものと考え、本号ただし書きアには該当しないものと判断した。
 アスベスト工事は、危険な物質を撒き散らす恐れがある特殊な工事であるため、利用者や近隣の住民に影響を及ぼす可能性がある。一般の人が立ち入る建築物でアスベスト工事が行われる場合には、利用者をはじめ従業員や周辺住民に対する配慮が特に重要となる。

届出書の内容で工事の安全性は判断できない

 大気汚染防止法の改正により、1997年4月から実施されているこの届出制度は、吹付けアスベストを使用した建物の解体、改修作業によって、大気環境を汚染したり、周辺住民などの健康に被害を与えることを防ぐために作られたものである。一定の作業基準に従って工事が行われるようにするため、原則として作業の開始の日の14日前までに、工事の場所や方法を他の資料とともに届け出ることになっている。

 しかし、工事が適切に行われたことを確認するための制度ではないので、この届出が提出され、適切な工事の方法であると認められたからといって、実際の工事が、この届出にしたがって適切に行われるかどうか、また、行われたかどうかは、この届出書の内容だけで判断することはできない。
 また、工事が届出書どおりに適切に行われた場合でも、万が一、何らかの突発的な事故や使用された機器の故障などの不備によって、アスベストが周辺に漏れ出すこともありえないわけではない。

 建物の所在や名称を明らかにしない場合、どのような方法で工事が行われることになっているのか、事前に担当者に確認したり、工事についての説明を求めたり、または工事後に、届出に従った工事が行われたかどうか確認することができないことになる。
 市が届出後、工事の途中経過や結果についての報告を受けているわけではないので、届出段階での工事方法が基準に従っているからといって、周辺住民や一般市民の健康に影響がないと判断することはできない。

身体又は健康を守るための情報

 過去の例を見ても、工事が不適切に行われたために周辺にアスベストが漏れ出したり、工事の途中で危険な吹付けアスベストが発見され、飛散が防止できなかったりした例がある。また、アスベスト廃棄物の保管や処理方法が不適切であったために近隣に影響が出た例などもが数多く報告されている。
 以前に吹付けアスベストが大きな社会問題になった際にも、ずさんな工事が横行し、隔離が不十分であったために、除去されたアスベスト粉じんが大量に漏れ出して工事が中止となったり、学校の生徒に、除去後残されていたアスベスト廃棄物の掃除を手伝わせたりしたことがあった。
 近年でも、工事方法は適切と考えられていたのに、設計図書にはないことになっていた開口部からアスベスト粉じんが漏れ出して、工事とは関係のない他の部屋を汚染した事故が発生している。

 大規模な工事の場合は、吹付けアスベストの範囲が広いことに加え、隔離される範囲も広くなるなど、工事が困難になる上、工事に要する時間も長くかかるため、周囲に与える影響も相当大きくなると考えられる。
 このようなことからすれば、一般の人が立ち入る可能性のある建築物において、アスベストの工事が行われる場合には、十分な飛散防止対策がとられ、適切に工事が行われているかどうかを確認するための情報は、私たちの健康や環境を守る上で重要な情報となる。

 したがって、これらの情報は、同条第2号アの「事業活動によって生じ、又は生じるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するために公開することが必要であると認められる情報」及び、ウの「ア又はイに掲げる情報に準ずる情報で、公開することが公益上特に必要であると認められるもの」に該当すると考えられるので、非公開情報に含めることはできないと考えるべきである。


4 表示義務

周知の必要性

 アスベストの工事が行われる場合、アスベスト繊維が全く外に漏れ出さないように工事を行うことはできないので、周辺環境に対して、どうしてもある程度の負荷を与えることになる。また、大掛かりな工事の場合には、工事が長期間に及ぶ上、吹付けアスベストを除去した廃棄物を周辺の場所に保管する場合もあるので、その間、利用者や通行人が不用意にアスベストを吸入したり、保管中の廃棄物のそばで子供たちが遊んだりするようなことがないように、できる限り注意を払うことが必要になる。

 この場合、最小限、工事が行われていることを周辺に知らせて、できるだけ注意を払うように呼びかることは、近隣関係に対する当然の配慮であると考えられる。ましてや、大型の建築物で、一般の人が立ち入る建築物にあっては、特に慎重に、工事が行われる日時等を周知し、工事中に人が近寄らないようにするための措置が必要となってくる。
 このようなことからすれば、届出られた建築物の所在地や名称等についての情報を、工事の後に公表しないという判断が認められるわけはない。

労働法上の表示義務

 さらに、労働法上、吹付けアスベスト除去などの工事では、労働者保護の観点から、アスベスト工事であることがわかるように、いろいろな掲示をしなければならないことが義務付けられている。掲示板には、「アスベスト除去中」「関係者以外立入禁止」等の表示をすることになっている。

マニュアルの記載

 この点について、届出を義務付けている大気汚染防止法上の作業基準を定めた「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル」には、次のように記載されている。

(作業の表示)
 建築物の解体等に伴う石綿粉じんへのばく露防止対策として、関係者以外の立入禁止(特化則第24条)、石綿の人体に及ぼす作用や取扱上の注意事項(特化則第38条の3)等を見やすい箇所に表示・掲示することとなっている。
 事業者における環境情報の提供は、自主的積極的な取組みとして、環境リスクの低減を図るという視点から有意義であり、今後ますます重要視されるものである。したがって、本マニュアルによる特定粉じん排出等作業を実施する場合、その旨を一般市民にも見やすい箇所に掲示することが望まれる。(平成9年2月環境庁大気保全局−49頁)

 知っていれば防げる被害を防止するために、従業員や周辺の住民、特に利用者に周知しておくことは必要であり、所有者や工事を行うものの当然の義務であると考える。

説明しないことによる不信感

 このように、公表することは当然の義務として考えられるので、理由説明書で示されているように、届出書の「特定工事の場所」や「注文者の氏名や名称」等を公開することによって、「利用客である一般市民に対して不安を煽ることとなる」という考えは間違いである。
 むしろ、今回のように公表されないことによって、一般市民に対して、届出者や注文者等が利用者の安全を十分に配慮していないのではないかという疑問を感じさせり、社会的な責任を果たしていないという不満を感じさせたりすることが考えられる。十分に説明が行われないことによって、信頼関係が損なわれ、誤解や不信感を生む可能性のほうが大きいと考えられる。

 理由説明書にあげられているような、具体的な根拠が乏しい、漠然とした理由によって、当然に公表し、説明されなければならない情報が秘密とされ、その結果、建物の所有者や工事を行う法人等が社会に対して負うべき責任が果たされないことになるのは妥当とは思えない。


5 他の事例

説明と理解を求める動き

 吹付けアスベストの工事をめぐって、住民が自分たちの安全性を守るために、建築物の所有者や施工業者から、工事について事前の説明を受けたり、両者が話し合いをして協定を作ったりする取組みが、各地ですすめられている。
 このような例を見ると、建物の所有者や施工業者も、民間の建築物ではあるが、建築物の所有者としての責任やアスベスト工事の持つ危険性を認識し、企業の社会的な役割の自覚のもとに住民からの要求に応じているように見うけられる。これらの場合、積極的に情報を提供し、安全性について配慮していることや工事が適切に行われること、周辺に迷惑を及ぼすおそれがないことなどをこと細かく説明し、周辺の理解を得て工事を進めようとする態度で臨んでいる。

 これについては、特にここで例示することはしないが、今後、口頭で意見を述べる際などの機会を通じて、詳しい資料を提供し、説明を加えたい。
 このようなやり方は、ごく一般的なアスベスト工事の手順の一環として、今後ますますすすめられることになると思うが、企業の社会的な役割、建築物の所有者としての責任、アスベスト工事の持つ性質からみて、適切な情報の提供と十分な説明に基づいた、利用者や住民の理解のもとに工事を進めることは、全く当然のことであると考えられる。


6 結論として

公益的な見地から公表を

 以上述べたように、一般の人が立ち入る建築物のもつ公共性とアスベスト工事という特殊性にかんがみて、工事を行う届出者や注文者等は、届出の内容について公表し、安全に配慮して工事が行われていることを説明する社会的責任を負っているものと考える。
 これらの建築物においては、公共建築物に準じた取り扱いがなされるべきであって、個々の法人の私的な判断によって、公開、非公開が左右されるべきではない。
 市は、異議申立ての対象となっている届出については、公益的見地から、「特定工事の場所」や「注文者の氏名又は名称」等を含めて公開とするべきである。



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