平成11年12月22日

決定書

異議申立人
(住所 氏名 略)

静岡市長 小嶋善吉


 上記異議申立人(氏名略)(以下「異議申立人」という。)から平成11年4月9日付けで提起された静岡市情報公開条例(以下「条例」という。)第7条第1項の規定による「静岡市環境保全課が平成11年2月3日に実施した特定粉じん排出等作業実施届出書(平成10年2月4日受付G−2)及び同届出書(平成10年9月10日受付F−3)(以下「本件公文書」という。)における「特定工事の場所がわかる部分、注文者の氏名又は名称、特定建築材料の使用箇所に係る見取図」の都分(以下「本件非公開都分」という。)を非公開とした部分公開決定処分(以下「本件処分」という。)についての異議申立てに対して、次のとおり決定する。


主文


 本件処分のうち、本件公文書の「特定工事の場所がわかる部分、注文者の氏名又は名称」部分を非公開とした部分を取り消し、これを公開する。


異議申立ての要旨


 異議申立人は、本件非公開部分のうち「特定建築材料の使用箇所に係る見取図」を除き本件処分の取消しを求め、次のように主張した。

1 異議申立ての趣旨

 異議申立ての趣旨は、本件処分を取り消し、条例第10条第1号に該当すべき情報(「特定建築材料の使用箇所に係る見取図」)を除き公開するとの決定を求めるものである。

2 異議申立ての理由

 異議申立人が異議申立書等で主張している異議申立ての理由を要約すると、次のとおりである。

    (1)静岡市情報公開条例第10条に示されている情報は公開しないことができる情報であり、この各号にあげられた情報であるからといって、直ちにそれが非公開と判断すべき理由となるわけではない。理由説明書では、この条文にあげられた理由が漢然と示されているだけで、一般の人が立ち入る建築物において行われた吹付けアスベスト(石綿)工事の届出に対して、市が、この条文に該当して非公開とするべき情報であると判断した理由は明確にされてはいない。

    (2)市は、法人の所有する建築物については、届出人及び注文者の意向を尊重して、公開、非公開についての判断をこれらの関係者の判断にゆだねている。一般の人が立ち入る可能性がある建築物において行われた吹付けアスベストの工事は、利用者などの一般の住民の健康に影響を及ぼす可能性があるので、公共建築物に準じた取り扱いがなされるべきであって、個々の法人の判断に、公開、非公開の判断が左右されるべきではないと考える。

    (3)吹付けアスベストの工事に係るこの届出書は、工事の内容をあらかじめ知り、内容について説明を受けたり、工事後に、適正な方法で工事が行われたかどうか確認する必要が生じた場合には、利用者や住民の健康を守るために重要な情報となる。
     したがって、条例第10条第2号ただし書に該当するものと考える。

    (4)吹付けアスベストの除去工事等においては、労働法上、表示の義務がある。一般的な見地からも、工事が行われていることを周知徹底することは、近隣の住民や利用者の安全に対する配慮として当然行われるべきものである。特に一般の人が立ち入る可能性のある建築物については、所有者や施工者等が、工事の内容について公表し、安全に配慮して工事が行われていることを説明する社会的責任を負っているものと考える。

    (5)以上のように、これらの建築物のもつ公共性とアスベスト工事の特殊性にかんがみて、市は、公益的見地から、異議申立てをしている部分の情報については、「特定工事の場所」や「注文者の氏名又は名称」等も含めて公開するべきである。


決定の理由


1 実施機関は、条例第12条の規定により、平成11年4月19日、本件異議申立てについて、静岡市情報公開審査会(以下「審査会」という。)に諮問した。

2 平成11年12月15日付け静情審第53号をもって答申のあった本件異議申立てに対する審査会の判断は、次のとおりである。

    (1)本件公文書及び本件非公開部分について大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)は、同法第18条の15の規定により、特定粉じん排出等作業を伴う建設工事(以下「特定工事」という」。)の施工者に対して、作業開始日の14日前までの、都道府県知事(又は同法第31条第1項の規定に基づき事務の委任を受けた市の長)への届出を義務づけている。
     本件公文書は、この届出に係る届出書(添付書類を含む。)であり、特定工事の施工者が作成、届出し、静岡市長が受理、取得したものである。
     また、本件公文書には、大気汚染防止法第18条の15及び同法施行規則第10条の4に定められた届出事項(@届出者の氏名又は名称等、A特定工事の場所、B作業の種類、C作業実施の期間、D特定建築材料の種類・使用箇所及び使用面積、E作業の方法、F作業の対象となる建築物の概要等、G特定工事の工程の概要、H注文者の氏名又は名称、I届出者の現場責任者の氏名等、J下請負による場合の下請負人の現場責任者の氏名等)に係る記載があるが、本件非公開部分は、それらのうちのAに係る記載の一部及ぴHに係る記載の全都並びにDに係る添付図面にあたる。

    (2)判断部分について

     異議申立人は、本件非公開部分のうち、条例第10条第1号に該当することを理由として非公開とされた「特定建築材料の使用箇所に係る見取図」については、その公開を求めていない。また、実施機関は、同見取図以外の都分に同条同号を適用していないものと認められる。
    したがって、当審査会は、本件非公開部分のうち、同見取図を除く部分(「特定工事の場所がわかる部分、注文者の氏名又は名称」(以下「本件異議申立部分」という。))について、条例第10条第2号に該当するか否かを判断すれぱ足りるものと考える。

    (3)本件異議申立部分の条例第10条第2号該当性について

    ア 基本的な考え方

     条例第10条第2号は、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、その競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え、又は社会的信用が損なわれると認められるものについては、公開しないことができる旨、定めたものであり、当審査会では、本件異議申立部分を公開することが、条例第10条第2号の要件に該当するか否かを客観的に判断すべきものであると考える。

    イ 具体的な判断について

     本件異議申立都分のうち、「特定工事の場所がわかる部分」には特定工事が行われる建築物の名称及び所在地が、「注文者の氏名又は名称」には当該特定工事の注文者である法人名及びその代表者の職・氏名が記載されており、これらは当該法人がその事業に使用する建築物において行われる特定工事に関する情報であるから、本件異議申立部分は、条例第10条第2号本文に規定する「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」であるものと認められる。

     次に、本件異議申立部分の条例第10条第2号本文の要件該当性について検討する。
     実施機関は、条例第10条第2号適用の理由について、「本件公文書の届出者である工事施工者と注文者との間には他の業者には知られたくない商取引上の関係が存在しているとともに、・・注文者所有の建築物が公になった場合、利用客である一般市民に対して不安を煽ることとなるなど、公開することにより当該法人等の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え、又は社会的信用が損なわれると認められる」と主張する。

     ところで、建築工事の場合は通常、建築基準法第89条に基づく確認の表示が義務づけられており、工事現場に建築主(注文者)や施工者等が表示されるものである。このことから、工事の場所や注文者、施工者といった情報自体は、秘匿性のある情報とは言えないものと考えられる。  また、実施機関は、本件公開請求に対応する7件の「特定粉じん排出等作業実施届出書」のうち4件について、その全部を公開したが、その中には法人所有の建築物に係るものが含まれている。このように同時に請求された同種の公文書についての公開、非公開の判断が分かれる本件処分が妥当性をもつためには、本件異議申立部分に条例第10条第2号を適用すべき特段の理由が認められなけれぱならない。

     さらに、公開によって知られるところとなる事実は、法人が発注したアスベスト除去の工事の実施にあたり、適法な届出がなされたということのみであり、これはそれだけでは当該法人に不利益な評価となるものではなく、むしろ、公開により正確な情報が伝達され、公正な社会的な評価につながるものであると考えられる。

     したがって、実施機関が条例第10条第2号適用の理由として主張する「他の業者には知られなくない商取引上の関榛」及び「一般市民に対して不安を煽ること」には、いずれもその論拠が認められない。
     よって、本件異議申立部分については、これを公開しても条例第10条第2号本文の要件に該当しないものであり、同条同号ただし書の判断に及ぶまでもなく、本件公文書の「特定工事の場所がわかる部分、注文者の氏名又は名称」については、公開することが妥当であると判断する。

3 当庁は、この審査会の答申結果を妥当であると判断し、主文のとおり決定する。

本書は決定書の謄本である。
平成11年12月22日
静岡市長 小嶋善吉



このページについてのお問い合わせは
ヘパフィルター(E-mail:hepafil@ag.wakwak.com)
までお願いします。

(C) 1999 HEPAFIL

ホームページ 目次 前ページ(答申) メール