1997年3月24日
静岡市建設部長 様
アスベストについて考える静岡県民の会
日頃、私たち静岡市民の生活の向上のため、ご尽力いただきましてありがとうございます。
私たちは、県職員住宅の解体工事をきっかけとして、アスベストについての様々な問題について知り、アスベストによる被害から身を守り、自分たちの環境や健康を維持してゆくためには、私たち自身も、できるだけ努力してゆかなければならないと考えるようになりました。
このような経過から、静岡県に対しては、既に同封の要望書などで対策をお願いしてきました。
静岡市に対しても、環境保全課などを通じて、これまでの対策についてお聞きし、同様のお願いをしてきたところです。
市では、このほど、議会などでもアスベスト問題が取り上げられ、対策について検討されているとお伺いしておりますが、議会での回答や今までお聞きしているところでは、十分な対策をお考え下さっているかどうかよくわからないので、この機会に、これまでの状況についてお伺いし、今後の対策をお願いしたいと思います。
建設部には、市営住宅の問題と、市の施設の解体や改修工事における、アスベストを含有する建材の取り扱い方法などを中心としてお伺いしたいと考えております。
中でも、市営住宅の問題は、居住者の安全性という観点から、このままで放置できない問題であるばかりか、緊急に検討するべき問題であると考えられるので、別紙の内容について至急対策をお願いしたいので、お忙しいところ誠に恐れ入りますが、ご検討いただきますようお願い申し上げます。
なお、市の工事におけるアスベストを含有する建材の取り扱い方法については、後日改めてお伺いすることになると思いますので、よろしくお願い致します。
(別紙)
平成2年度に行なわれた、市営住宅の吹付け岩綿囲い込み工事について、まずはじめに、工事における問題点を確認し、今回検討をお願いしたい内容を示します。
その後に、そのような対策をお願いする根拠と理由を記しますので、これらの点について検討された上、今後どのような対策をたられるのか、できる限り早く明らかにして下さい。
わが国においては、1980年代末、アスベストが大きな社会問題になり、公立学校をはじめ、全国各地で一斉に吹付けアスベストの除去工事などが行われました。
しかし、残されている資料が乏しい上、工事の内容についてさほど大きな社会的関心がもたれてこなかったため、その頃行われた工事の実態はよくわかっていません。
特に、囲い込み工事については、除去業者以外の一般の建築業者が請け負って行った場合が多いということもあって、どこでどのような工事が行なわれたのか、ほとんど明らかになっていません。
このような中で、静岡市営住宅の囲い込み工事が行なわれていたことがわかってきました。
そのため、これによって当時の状況がうかがえるという意味もありましたが、それば かりではなく、この囲い込みが非常に広範囲に行なわれ、工事内容にいろいろな問題があったことからも、当初から大きな関心を持って受け止め、市の対応を注目してきました。
この工事は、平成2年度に、安倍口団地ほか6団地、43棟において、追加工事を含めて約860戸あまりの、一部の部屋の天井に吹き付けられていた、アスベスト含有の岩綿を囲い込み処理したものでした。
この最も大きな問題点は、工事箇所の詳細と、該当する建物の工事箇所以外の各部屋が、現在どのような状況であるのか明らかになっていないことですが、この点以外にも、次のような問題点をあげることができます。
その経過は議会答弁書によってはっきりしているが、工事は、昭和63年6月に、建設省住宅課などの監修によって出されている「既存建築物の吹付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術指針・同解説」の内容を参考にすることもなく行なわれ、作業者や居住者の安全対策がとられていなかった(このマニュアルには、1頁に「吹付けロックウールのうち、アスベストを含むものは本指針で対象とする」と書かれている)。
この室内の吹付けの劣化がひどかったことは、議会資料からも明らかだが、濃度測定の結果からも確認できる。
平成3年度に行なわれた、市の城北下水処理場(昭和48,9年に建築)の吹き付けアスベスト除去工事では、クリソタイルの含有率が「多量」となっている「機械棟」等の室内でも、工事前の濃度測定の記録は0.5本/リットル未満かその前後となっている。
ところが、市営住宅の場合、アスベストの含有率は4.8±0.5%であるのにもかかわらず、濃度測定では、工事前の測定値で、最大値7.5本/リットルという測定値がある(該当する市営住宅の建築年度は、昭和45年から52年)。
なお、この城北下水処理場工事では、処理工法の選定にあたって、「将来にわたっての維持保全、建物解体時におけるアスベストの処理、処理後における劣化・損傷等の処理問題がない。そのため処理後の使用及び利用者等の環境に対して配慮する必要がない。」との理由によって、「封じ込め工法」や「囲い込み工法」よりも結果的に経済性に優れる「除去処理工法」を採用する、としている。(静岡市水道局下水道部下水道建設課等による「城北下水処理場内装改修実施設計検討書」21頁)
工事に伴って、マスク、除塵装置などが使用されておらず、養生がほとんど行なわれていない(タンスの上にビニールをかけたりしていた)、また、居住者の家具(特にカーテンなど)が取り払われていないなど、アスベストの危険性が上記マニュアルなどで、明らかになっていたのにもかかわらず、作業者や居住者の健康に対する配慮がされていなかった。
また、工事対象の住宅は、居住者が生活していた場合がほとんどとされているが、その後すぐアスベストが充満した室内に居住者が生活したことを考えると(工事は平成2年11月30日から平成3年2月26日にかけて行われ、冬季で窓を開閉する機会が少なかった)居住者は、その後しばらくの間、相当高いアスベストの濃度の中で生活したと推測される。
このような飛散防止の対策を全く怠った工事によって、作業者や、居住者にアスベストによる害を与えている可能性がある。
(作業後の測定は、工事後2か月もたってから行われているものもある。そこに人が生活している以上は濃度が下がったことを確かめてから入居させるべきだが、それが無理だったとしても、工事後2か月もしてから調査すること自体にも問題がある。)
したがって、事前調査が確実に行われておらず、吹付け岩綿が使用されている箇所が現在も残されている可能性がある。
また、居住者にアスベストの危険性や、工事の内容、工事を行う理由などについて、十分な説明がなされなかったと考えられる。
建設省は、補助金の支出にあたって、この工事が同省で出されているマニュアルに従っているか、もしくは、最低限でも、吹き付け岩綿の状況について劣化がないことを十分確認する必要があり、飛散防止について指導する必要があったと考える。
議会資料によれば、国と県と相談の上で決めているという記載があるが、もし、工事方法について国や県と協議しているのであれば、協議の内容やこの工法が決定された理由や経過について問題になる。
これは、その当時の補助金を含め2億円あまりの工事費に加えて、今後余分な支出をしなければならないことを意味し、市の財政に与える影響も無視できない。
以上の問題から、次の対策を求めます。
特に、囲い込みを行った建材に痛みがないか、囲い込みの内部で、吹付けられた部分が壁紙とともにはがれている箇所がないかどうか 工事記録には、壁紙の接着が難しかったとの記載がある。)
昭和63年2月1日付け環大規第26号衛企第9号 環境庁大気保全局大気規制課長及び厚生省生活衛生局企画課長通知「建築物に使用されているアスベストに係る当面の対策について」の別紙「建築物内に使用されているアスベストに係る当面の対策について」、「U 当面の対策における基本的事項」の5に、「囲い込み…等の処置を施した場合等適切な管理が必要と判定される場合には」「定期的に状況の判定を行い、アスベスト繊維が遊離する状態でないことを確認するとともに記録すること」とある。
前述の昭和63年6月建設省住宅局監修、(財)日本建築センターから出されている「既存建築物の吹き付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術指針・同解説」には
アスベストを含有する室内の濃度は、住居者が生活している状態ではかなりの高濃度になることが明らかにされている(大学の講義室の調査で、人的活動状態17本/リットル、ファン稼働状態21本/リットルという調査結果がある)。
アスベストの発癌性については、量−反応関係が認められており、安全な閾値がないと考えられているので、濃度が高くなるにしたがって、発癌のリスクが高くなる。
市は、どの部屋のどの部分に囲い込み工事が行われており、どの場所に使われていないか、除去されたのか、もしくは、今も使われているかなどの資料を持っていないため、各部屋の現状がどうなっているかはわからない状況になっている。
もし、事前調査から漏れている部屋があった場合には、居住者は、平成2年当時でも、事前調査で最高7.5本/リットルものアスベストが飛散している、非常に劣化した状態の吹き付け岩綿の使われている室内において、その後も毎日の生活を送っていることになり、健康に与える影響は、今後もますます高くなると考えられる。
住居を他の人に貸す場合、居住者にとって危険な物が建物に使用されていないか、使用されている場合、適切に管理されていて被害を与える恐れがないかどうか、十分確認する必要がある。
このことは、市民の健康を第一に考える公共機関としても当然行うべき義務だが、公共機関でないとしても、お金を取って物を貸している建物の所有者や管理者の負うべき最も基本的な責任であると考えられる。
特に、市は公共機関として、民間の模範となるべき立場にある。
今回の議会答弁などによれば、転居の際などに調査しているので安全であるとの発言がされているが、それでは、転居もなく、ずっと同じ住宅に住んでいる人は調査を受ける機会がないことになり、それらについては現状が把握できていないことになる。
先に述べたように、「入居者に不安を与えることになる現場調査が十分に行えなかった」との記載があるので、事前調査から漏れている住宅が残されている可能性がある。
居住者はアスベストが使用されていることも知らず、アスベストの危険性についての知識も十分でなく、囲い込み工事が過去に行われているかなどについても、知っている人は少ない状況であると考えられる。
このため、掃除などの機会に、居住者自身の行為によって、アスベストを飛散させていることも考えられる。
このような居住者の健康にとって重要な問題を、市民から指摘を受けながら、居住者に知らせることもなく調査もせずに放置しておいて、もし万一、使用されている箇所が残っていたり、囲い込み工事の後が適切に保持されていなかった場合、市は相当大きな非難を受けることになる。
地震の際など、アスベストが使用されている建物であることを伝えることによって被害を防ぐことができる場合もあるので、居住者に対して必要な情報を与え、情報を公開して、被害を少なくするために、市はできる限り努力する義務がある。
以上