「なりゆきまかせ」と言うと人は無責任に感じるが、なりゆきに任せておいて責任をとらなければならないこともある。だから「なりゆき」を侮ってはいけない。
考えてみれば、今の家族にしてもなりゆきで成立しているようなものである。
人類の誕生だって同じようなものかもしれない。だから、私がこんな意見を出すことになってしまったことに、何も理由が発見できないからといって、それほど自分に対して不信感を持たなくてもいいのかもしれない・・・。
こんなことをぼんやりと考えながら、でもやっぱり、「なりゆき」というのは本当に恐ろしいものだなあと感じつつ出した意見です。
1998年4月6日
科学技術庁原子力安全局
(前文略)
(意見)
「発電用原子炉施設に関する耐震設置審査指針」など、安全性の審査の基礎となっている指針の、科学的な合理性や根拠となる考え方について疑問が提示されている場合には、その指針の考え方自体に誤りがないということが、まず審査の前提として示されなければならないと考える。
兵庫県東部地震をはじめ、指針の策定後に発生している地震についての分析結果も踏まえた上で、幅広い議論を経た、新たな指針が策定されるべきであって、安全性の審査は、そのような社会的な合意に基づいた指針にそって行われることが必要である。
今回はそれが間に合わないのであれば、少なくとも、ここであげられている審査基準や法令のほかにも、他の論文や意見など、安全性の向上のために役立つと考えられるものはできる限り斟酌した上で、安全性について判断することが必要である。
(理由)
審査の判断の重要な基礎となっている「発電用原子炉施設に関する耐震設置審査指針」に対して、各方面から疑問が提起されている(1998年1月16日朝日新聞、日本科学者会議原子力問題研究委員会意見1995年12月)。この指針は20年も前のものであり、その間検討が加えられているとはいえ、基礎となっている論文自体も古くなっているという批判は否めない。
このように、指針の合理性を説明せずに、指針に合致していることだけで審査基準に適合しているから安全であると結論づけることは、安全性の審査として十分であるとは言えない。
国民全体の安全に大きな影響を及ぼしうる原子力発電の設置についての安全性の審査が、疑問が提示されている指針にそって行われていることに大きな問題がある。
審査書37頁「活断層」(38頁「敷地周辺の活断層」)について
(意見)
審査書には、「上記の諸文献については、最新の知見が取り入れられ、活断層に関する既往の種々の文献が集約されているものと認められる。(中略)したがって、これらをもとに敷地周辺の主な活断層の有無とその活動性等を検討していることは、妥当なものと判断する」とある。
しかし、活断層がない場所でも直下型の地震が発生している事実があることを考慮に入れれば、活断層の存在とその活動性の検討を行うだけで、安全性についての検討がなされていると考えることには重大な誤りがある。
潜在的な活断層がある可能性や、今はないが今後の地震によって活断層ができる可能性も認めた上で、地震の発生想定をし直すことが必要である。
(理由)
審査は、活断層の存在とその活動性の状況がどのように検討され、そのための調査がどのように行われているのかという観点から行われている。
しかし、この前提となっている、「現在活断層がある地点で直下型の地震が発生する」という考え方自体に重大な間違いがあることが問題になっている(石橋克彦著「原発震災」?岩波「科学」1997年10月号、朝日新聞1998年1月16日)。
1927年の北丹後地震や1948年の福井地震など、活断層が認識できないところで、M7を越える直下型の地震が発生している事実があることなどを考慮すれば、今回の審査のように、活断層があるかどうかということを調査し、その活動状況を検討しただけで、安全性についての判断ができていると考えることにはとうてい無理がある。
審査書47頁「基準地震動」について
(意見)
基準地震動の最大振幅を算定する基礎となっている「金井の式」は、近距離地震の場合においては正しい結果を与えないなど、いくつかの重大な欠陥があることが指摘されている。このような批判がある数式を、推定のための基礎として用いている基準地震動の策定方法に問題がある。
最近の学説や最新のデータなどをもとにした、妥当性があると認められる知見に基づいて地震動が策定され、それをもとにした安全性の審査が行われることが必要である。
(理由)
「金井の式」は、「断層の中心から評価地点までの距離を用いて計算するために、断層が近距離にある場合、仮にその断層が長くなり大きなマグニチュードの地震が発生したとしても、中心からの距離が遠くなり、逆に小さな地震動を与える場合がある、という矛盾を抱えている」ことが、日本科学者会議原子力問題研究委員会などによって批判されている(「平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会報告書」批判?1995年12月)。
この点以外にも、揺れの強さは震源からの距離よりも地盤の状態による影響をより強く受けるはずであることや、複雑な地質を均一の地質として見た上で計算式が成り立っていることなどの問題点が専門家から指摘されている。そのような問題点は、兵庫県南部地震など、最近の地震によっても明らかになっていると聞いており、批判には説得力がある。
このような理論的な欠陥が指摘されている計算式を基礎として算定された最大振幅をもとにした地震動によって、耐震設計の安全性を判断していることには大きな問題がある。
審査書35頁「耐震設計上想定すべき地震」について
(意見)
「原子炉施設は、想定されるいかなる地震力に対しても、これが大きな事故の誘因とならないよう十分な耐震性を有していなければならない」とあるが、この地震の想定の仕方について問題がある。
まず第1に、「設計用最強地震」と「設計用限界地震」に分ける考え方が適切であるといえるかという点が問題である。さらに、それを前提としたとしても、それぞれの地震の想定の仕方が適切であるのかという点を問題にするべきである。
そして、過去の地震であるか計算上推定された地震であるかなどにかかわら
ず、考えられる可能性を全て考慮した上で、最も大きな被害が発生する可能性のある事態を想定し、それらの事態にも対応できるのかという観点から、安全性について審査するべきである。
(理由)
現行の地震想定の方法は、想定される地震が異なっているなど判断がしにく
く、最も大きな被害が発生すると考えられる直下型の地震については、M6.5の地震を震源距離10kmと想定するなどを見てもわかるように、結果として、最大限の被害が発生する事態が想定できないという不都合が生じている。
一つには、「設計用最強地震」と「設計用限界地震」に分ける考え方自体が適切であるかという問題がある。
これは、同一の場所で、一体として機能している原子力発電所の施設を、単に耐震の程度の違いだけではなく、地震想定の方法自体を変えているという想定方法が不適切であることから生じている。
このように、地震想定のあり方自体に大きな限界があるので、それを前提とした安全審査の結果が妥当とは認められない。
審査書45頁「直下地震」について
(意見)
「M6.5の地震を震源距離10kmの位置に想定していることは、安全評価上妥当なものと判断する」とあるが、これ以上の直下地震が起こる可能性があることを指摘している専門家が少なくないことから判断して、この審査の仕方では不十分であると考える(朝日新聞1998年1月16日)。
安全であることを確認するための審査は、あらゆる可能性を想定した上で行わなければならないから、専門家がより大きな直下型地震が起こる可能性があることを、合理的な理由をあげて説明している以上は、そのような場合にもなお安全が保てるかどうか審査することは当然のことである。
このような検討がなされずに、耐震性があると判断し、安全であると結論づけることはできない。
より大きな直下型地震の発生も想定した上で、それでも安全性が保たれるのかどうか、耐震性についてあらためて審査し直すことが必要である。
(理由)
東海地震説で有名な地震学者の石橋克彦氏は「地震源での岩石破壊過程は地震ごとに複雑であって、M8級の東海地震の実態は、M7.5の直下型地震が複数連発するような現象になっているかもしれない」「浜岡での地震動の時刻歴や継続時間は、兵庫県南部地震の震度7の地点よりも複雑で長時間で、遙かに厳しいはずである」とし、1854年の安政東海地震の時のように、M7.5の余震が本震と同時に浜岡直下で発生する可能性もあると指摘している。
このような可能性が指摘されている以上は、このような事態も発生しうるものと考えて、その場合でも安全性が保てることを確認しておかなければ、安全性の検討においては十分とは言えない。
審査書194頁「立地評価のための想定事故の解析」について
(意見)
ここであげられている事故想定以外にも、炉心溶融をはじめ、水蒸気爆発や、地震によって引き起こされる原子炉の破壊事故など、想定すべき事故があると考える。
このような、壊滅的な被害が発生する場合も含めた事故想定を行い、そのような場合に、周辺住民の線量や被害がどの程度に及ぶのかを解析して、その結果を検討することが必要である。
(理由)
審査書は、立地評価のための想定事故(重大事故及び仮想事故)として、「原子炉立地審査指針」に基づき、原子炉冷却材喪失及び主蒸気管破裂を想定し、それらの解析の結果、「原子炉立地審査指針」に示されるめやす線量を下回っていたとして、周辺公衆との隔離は十分確保されていると判断して、「原子炉立地審査指針」に適合していると結論づけている。
しかし、他国において過去に発生している炉心溶融などの重大事故の発生の事実があるので、想定事故が上記の事故に限定されていることは現実的でない。
また、他の意見として提出しているように、指針の内容の合理性が説明されていない「原子炉立地審査指針」に基づいて事故想定がなされていることが適切であるかどうか問題にされなければならない。
近時の論文などにおいても、専門家から、地震の際の核暴走や炉心溶融の危険性が指摘されているので(石橋克彦著岩波「科学」1997年10月号723頁)、周辺住民の安全と安心のため、これ以外にも、万一の場合に備え、炉心溶融事故をはじめとする原子炉の破壊事故など、壊滅的な被害が発生した場合も含めて事故想定を行い、周辺住民の線量や被害がどの程度に及ぶのかを解析し、その結果について検討するべきである。