アスベスト根絶ネットワークの機関誌アスネット37号に投稿

アスベストをめぐる政策の現状


   アスベストについて考える会      


県有施設の吹き付けアスベスト 

     一九九七年一〇月、静岡県に出していた要望書の回答が示された。
     回答までの約十ヶ月間、県は数回の担当者会議を開き対応を検討してきた。 大気汚染防止法の改正と重なったこともあって、パンフレットづくりや解体業者に対する説明会など、十分ではないまでもアスベスト対策は少しずつすすめられてきた。県や市町村所有施設の吹き付けアスベストに関する調査もその一つである。この調査で、三九の県有施設と、県内の約半数の市町村が所有する建物に、アスベスト含有の吹き付けが今も使われている可能性があることがわかった。

     これまで、県内の公的施設では吹き付けアスベストはすでに除去されていると言われてきたが、それは事実ではなかった。一九九七年度末の時点で、アスベスト含有の吹き付けが今も使われていることが確認された県有施設には次のようなものがある。

     一九七七年竣工の県立こども病院では、かなり広い範囲の天井裏の鉄骨部分と屋上機械室に、アスベスト含有のロックウールが吹き付けられていた。クリソタイルの含有率は九〜一六%。昨年八月に濃度測定が行われ、結果は一階外来〇・五未満本/リットル、二階検査室〇・七本/リットル、屋上機械室一・〇本/リットルだった。

     めったに人が入らないという屋上の機械室以外は露出していないので、現状では危険性は小さいようにも思われたが、よく聞くと点検口から作業員が入るという。梯子を持ってきてもらって、点検口を開けて中を見たら驚いた。アスベストが吹き付けられた太い鉄骨が、点検口の狭い入り口を塞ぐように取り付けられている。作業員はそこをくぐり抜けて中に入り、アスベストの鉄骨がむき出しになった天井裏で作業をすることになる。含有率の検査はすでに一九九四年一二月に行われていたが、県はアスベスト含有が確認された以後も、作業員にマスクを付けるなどの指導はしていなかったという。

     企業局水道課では、十カ所あまりでアスベスト含有の吹き付けが見つかった。いずれも広範囲に使われているばかりか、含有率もかなり高く、一九七三年建築の中島浄水場でクリソタイル三三・一%とアモサイト二七・九%含有、七四年建築の畑ポンプ場でクリソタイル八・〇%とアモサイト四四・二%含有というように、アモサイトが多量に使用されている。昨年一一月に分析結果が出て判明したわけだが、除去工事だけでも数億円かかる見込みということで、担当者も頭を悩ませているようだ。

     また、数カ所の県立学校でもアスベスト含有のロックウールが使われていた。含有率は一〇%程度。これらはすべて九七年度中の除去工事を予定しているという。

     このほかに含有の可能性があるとされた場所には県立中央図書館もある。この建物は一九六八年建築だが、設計図書にロックウール・ニックウールなどの記載があり、アスベスト含有が疑われるという。大勢の人が利用する図書館の閲覧室やレクチャールームの天井に広範囲に使用されているおそれがあることは、利用者や職員にとって深刻な問題である。教育委員会では対策を検討中という。


通産省回答

     一月のはじめ、アスベストの代替化政策とJISについて通産省に聞いた。
    話し合いに加わったのは、住宅産業窯業建材課、工業技術院材料規格課の担当者、アスベスト根絶ネットワークとアスベストについて考える会、各二名ずつの計八名である。

     焦点になったのは、アスベストの輸入・製造・使用実態、通産省の代替化についての考え方、及び一九九五年のJIS改定の際、規格の名称から「石綿」の表示がなくされた問題についてである。

     話し合いの結果、通産省は代替化の必要は認めながらも、その前提として重要なアスベストの輸入・製造などの現状を把握していないことがわかった。私たちの質問に対して説明ができないばかりか説明のためのデータを持っていないなど、業界任せの実態が明らかになっている。

JIS

       アスベストは、労働安全衛生法の規定などによって有害物質の表示が義務づけられるなど、他の物質とは異なる特別な取り扱いが求められている。
     にもかかわらず、一九九五年のJIS改定で、それまでの「石綿スレート」などの名称から「石綿」の文字が消され、「繊維強化セメント板」などと変更されたうえ、アスベストを含有していない製品と同一の規格として統合された。これが工業標準化法第一条の、「取引の単純公正化及び使用又は消費の合理化を図り、あわせて公共の福祉の増進に寄与すること」というJISの目的に反しているのではないかという点が問題にされた。

     この点について、工業技術院では、改定当時JISの規格数が多すぎるという批判があり、同一規格をまとめるべきだとする社会的な要請が強かったため、同一の性能を有するものを同一の規格としたと繰り返し説明している。そればかりか、むしろ、代替製品である無石綿の「けい酸カルシウム板」を加えることによって、代替化の促進に貢献していると自負していると答えている。

     アスベストが、表示義務をはじめ、厳しい法規制の対象になっているということを知らなかったわけではないだろうが、このような説明が労働法関連の規定をあまりにも軽視したものであることは否定できない。

     また、有害であるとわかっているアスベスト製品をJISに含めることの妥当性については、現実に使用されているアスベスト製品を規格からはずすことになれば、安全性を備えていない製品の流通を許すことになり、逆に好ましくない結果が生じると主張している。

     改定の際、原案作成委員会の中心となったのはスレート協会など業界団体で、規格の解説には、「石綿は限られた天然資源であり、資源の有効利用の観点から、品質水準を維持しながら石綿使用量低減化の研究が重ねられている」と書かれている。業界の主導体制のもとで改定作業がすすめられたのはこの記述を見るだけでも明らかだ。工業技術院は、改定の際に代替化を推進する側の意見も出されたと言っているが、事実はどうであったのか。委員会での審議の内容を公表したうえで、納得できる説明が求められている。

環境行政とアスベスト

       通産省に先立ち、昨年六月、環境庁にも代替化について聞いている。

     環境庁も代替化のための政策が必要であることは認めているが、具体的な政策の中身を聞くと、代替品の開発普及状況の調査やガラスウールなどの代替品についての研究をあげるばかりである。調査研究だけが代替化の政策ととらえられているようではあまりにもお粗末である。私たちは、環境庁主導で取り組んでいる率先実行計画の中に、有害建材であるアスベスト製品の不使用も加えたらどうかと提案したが、それも実現の方向には向いていないようだ。

     このような経過も含めて、三月はじめ、中央環境審議会に「第三回環境基本計画の点検のための意見」を提出した。欧米に比べて十年も二十年も遅れているといわれているアスベストなどの有害物質対策に取り組むため、未然防止の原則を具体化した、積極的な代替化政策が必要であることを述べたものである。参加と情報公開の実現に配慮しつつ、建設省、通産省をはじめとする各省庁が国民と一体になって代替化に取り組むことは、まさに時代の要請になっている。アスベストはその試金石であると考えたい。

         (詳細はホームページでどうぞ。http://www.ag.wakwak.com/~hepafil/)

 


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