アスベスト根絶ネットワークの機関誌アスネット36号に投稿

私の目から見たアスベスト問題

アスベストについて考える静岡県民の会 ヘパフィルター   

 静岡県に、初めてアスベストについての対策を求める要望をしてから、この5月10日で1年になった。

今自分が何をすればいいのか、何ができるのかを考えて過ごした日々だったが、それは同時に自分がなぜこのようなことをしているのか、その意味を知りたいと思い続けてきた1年でもあった。

そして、いわゆる先進諸国で、危険性がはっきりしていることから、すでに10年以上も前から使用禁止などの措置が取られ、代替化が進んできているアスベストが、わが国で、いったんは大きな社会問題になりながらもなお、ほとんど関心を持たれることもなく以前と同じように使用されている実態が、なぜ今もなお続いているのか、それを知りたいという思いで突っ走ってきた1年でもあった。

 この間、静岡県にアスベスト対策についての要望、環境庁と通産省にアスベストの代替化の政策についての質問、静岡市に市営住宅の囲い込み工事の調査の要求などをしてきた。ともに近日中の回答が予定されている。

この内容と回答については、問い合わせをする際の便宜や、アスベストについて関心を持ってもらうための何らかの助けになればと、最近「アスベストについて考えるホームページ」を開設したので、そちらをごらんいただければと思う。

ここでは、今後の意見交流のきっかけになることを願って、現時点でこの問題をどうとらえているのかについてふれてみたい。

 

・代替化の政策


 環境庁には、昨年出された報告書に、これまで各省庁でアスベストの代替化を促進するための取り組みがなされてきていると書かれているので、その政策とはどの様なものか、代替化についてどう考えているか聞いている。

 通産省では1990年頃から、代替品についての調査研究が行われているが、その報告書は静岡県にはどこにも送られている形跡がなく、中小企業情報センターなどにもおかれていないという。環境庁では現在「ガラスウール」について研究が行われているということだが、このような調査研究がどのように代替化の促進につながっているか知りたい。

 

・繊維恐怖症


 この通産省の報告書には「石綿の代替化、含有率の低減化を推進し、これらを通じて石綿使用の総量の低減化を図ることが必要である」と書かれている。その一方で、「一般の人々の間にある『繊維恐怖症』は、建物内暴露によって生じる既存の公衆衛生上の被害に対し不釣合に大きい」という箇所も再三引用されている。

 私たちはアスベスト繊維に恐怖を抱いているのではなく、安全なものに代替できるのなら、なぜそれを躊躇するのか、その理由を知りたいと思っているのである。

報告書には、他国で1990年当時でも石綿スレートの代替化が可能とされ、それらの代替製品の製造のために、わが国からアスベスト代替品の輸出が順調に伸びているとも書かれている。

そのわが国において、現在でもなお20万トンにも及ぶ量のアスベストを使ってスレートなどを製造しているのはどうしてなのか。特殊な摩擦材の分野でアスベストの代替化が難しいというのなら、それ以外のものは代替できると考えてはいけないのだろうか。

 環境蓄積性があって、閾値がないといわれ、それ自体の発がん性よりも他の物質の発がん性を促進する効果が大きいといわれているアスベストが、どうしたら壊されないことを期待できるかを問題にすることもなく、「壊されない限り安全」といわれ、現実に壊されている実態に関心を持たれないでいることが納得できない。

 

・建設工事共通仕様書


 建設省では、官公庁施設建設の契約の際に利用するため「建設工事共通仕様書」を作っているが、この中にはアスベスト製品も含まれている。

しかし、この共通仕様書を使っている静岡県や静岡市でも、アスベストは以前問題になってから使っていないと答えており、建設省自体もこのような危険性のあるものは使わないようにしていると言っているという。

それならばなぜ、アスベスト製品は共通仕様書に含まれているのだろうか。

普通、自分で危険性があって使わないようにしているものを他の人に勧めたりするだろうか。ましてや公共機関なのである。危険性を知らない人もいるのに、危険だと知っていながら使用を促すようなことをしてはいけないと思う。

 

・環境共生住宅


 建設省では1994年頃から、良質で低価格な住宅の供給を重要課題として、住宅建設コストの低減化に取り組んでいる。その中ではコストを従来の3分の2にしようという政策もあり、このような政策にしたがってゆくと、価格が低い屋根材の彩色石綿板などが優先的に使用される実態があると、住宅メーカーでは話している。

また、建設省は環境への負荷を低減する住宅として「環境共生住宅」の普及を推進しているが、省エネルギー住宅を主に対象にしており、建材の安全性はあまり取り上げられていない。

しかし、廃材の処理やリサイクルの問題など、建築産業の環境対策も課題として取り上げているのだから、アスベストのように環境によくない建材が、住民の健康も考えず安価という理由でどんどん使用されている実態を黙認しながら、「環境共生住宅」について論じることはできないと思う。

 

・JIS


 アスべスト製品はJISの規格品に含まれている。

労働省の通達に「石綿は可能な限り、有害性の少ない他の物質に代替させる」とあるようなもので、使用することが環境や一般の住人の健康にとってよくないとわかっているもの、さらにリサイクルや廃棄の際にも環境を汚染することがわかっているものを、代替品がありながらなぜJISで認定しなければならないのだろうか。労働行政や環境行政が、他の省庁の政策に反映されないとすれば、この国の労働行政や環境行政は一体どうなっているのか、そしてJISとは何なのか問いたい。

 

・リスクの問題


 他にも危険な物はいくらでもある、それに比べれば一般環境のアスベストの危険性は問題にならないくらい低いと考えている人もいるようだ。今やリスク計算の時代と考えて、リスク評価に全精力をつぎ込んでいる向きもあるかもしれない。しかしそれは正しい方向なのだろうか。

 発癌性がはっきりわかっていることから、すでに10年以上も前から規制が行われていて、他国での被害が年間数千人とも言われているような物質が、代替が可能であるような時代に、なお年間20万トン近くも使われているようなわが国にとって、このような科学的な方法が一体どれほどの価値を持つのか。

さらに普通に暮らしている人の生活の中から、自動車事故のリスクとアスベストのリスクとを、単純に分けて比較することにどれだけの価値があるのだろうか。

私たちは重複したリスクを同時に負っているのだから、とにかく小さなリスクでも下げられるリスクはできるだけ下げるようにすることが大切だと思う。

 危険性をなるべく科学的に取り上げようとすることは意味があると思うが、目の前のすぐにでもできる対策を引き延ばすために、一見科学的に見える曖昧な基準を、まだ規制が大きく遅れている国で導入しようとすることの危険性を重視したい。

 (ホームページのURLは、http://www.ag.wakwak.com/~hepafil/です。わからない場合には、YAHOOなどで検索して下さい。)

 


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