アスベスト根絶ネットワークの機関誌アスネット35号に投稿

静岡県のアスベスト対策の現状(その2)
県職員住宅の解体をきっかけとして

 

アスベストについて考える静岡県民の会 ヘパフィルター   

 

昨年末、県職員住宅取り壊しの一期工事は終わった。

倉庫のスレートや風呂場の天井に使われていたアスベスト成型板は、防護服を着た作業員によって手作業で取りはずされ、浜松市内の管理型処分場に埋め立てられた。
労働基準局には、分厚い「石綿含有建材の撤去施工計画書」が業者から提出され、手元には、計百回に及ぶアスベスト濃度測定の記録と、「石綿含有建材撤去等特記仕様書」が残っている。
いずれも県内では初めてのことばかりだ。

半面、工期が遅れたとの居住予定者の不満は依然として残っている。
説明会に参加した県職員の家族の間では、名前が調査されているという噂が広まって、発言者が心配しているという話まで出た。
10月でさほど暑くはない時期ではあったが、防護服を着て手はずしで行ったことで、作業者の負担がかえって大きくなったという不満も見ていてわかった。
あれだけのものをなぜそこまでやらなければならなかったのか、アスベスト成型板という最前線の問題にいきなり直面して、 一番難しい問題に取り組まざるを得なかった困難さが今さらながら実感される。

ここでは、特にこの困難さがあったからこそできたことを報告して、今までの支援に対する感謝に代えたい。

  1. 地震時のアスベスト対策等を要望

    アスベスト対策について県に質問する中で、重要な問題点と 総合的な対策の必要性が明らかになったので、十二月十日、県知事宛てに要望書を提出した。

    主に、阪神・淡路大震災の後で発生したアスベストの飛散を、重要な環境問題の一つとしてとらえ、 県の地震防災対策の一環として緊急に取り組むように求めている。

    具体的には、昨年制定された『静岡県地震対策推進条例』の改正を求め、その中にアスベスト の飛散防止対策を盛り込むことによって、吹き付けアスベスト等を使用する建物の調査、除去等の 対策の推進、融資制度等の整備、県民への危険性の周知、撤去処分方法の検討等、普段からの 総合的な対策を求める内容になっている。

    県は、大気汚染防止法の改正も踏まえ、昨年11月頃から関連する課長をメンバーとする連絡会を 発足させており、環境局長は、今後の取り組みを検討すると回答している。話し合いの過程で、 労働基準局も含めた検討会が行われる可能性も示され、縦割り行政の弊害を是正する効果も生じている。

    このような成果は、常に少数意見を行政に反映させることを重視し支援してくれた白鳥県議が、 建設委員会でアスベスト問題を重要課題として取り上げ、対応を迫ってきた力によるところが大きい。

    今の時点で具体的には、アスベストの使用実態を把握するため、一般企業5千社を対象にした アンケート調査を実施する予定という。

  2. アスベストを安定型処分場に?

    この経過で、廃棄物対策室では、吹き付けアスベスト除去などで生じる廃棄物は特別管理産業廃棄物 に該当するが、安定型処分場にも処分できると回答し、『廃石綿等処理マニュアル』も知らなかったことが 問題になった。
    改正後の廃棄物処理法の理解が間違っていたことになるが、最終処分場のリストもなく、 業者から出された報告書も保健所に出されたまま取りまとめたこともなかったという。

  3. 吹き付けひる石にアスベスト

    また、県営住宅のほぼすべてに使われている吹き付けひる石には、製造時期によって最大21%もの アスベストが含まれている商品があることがわかり、調査を求めている。

  4. ズサンな囲い込み工事

    吹き付けアスベスト除去工事の調査をするうちに、静岡市では、平成2年度に約850戸の市営住宅で、 吹き付け岩綿の囲い込み工事が行われていることが明らかになった。

    この工事は、昭和63年に、建設省の監修で『既存建築物の吹き付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術指針・同解説』 が出された後で行われたが、作業者はマスク等の保護具を一切使用しておらず、居住者のカーテン、 家具などの生活用品もそのままで、養生もほとんどされていない状態で行われた工事だった。

    この工事戸数は43棟の内の半数ほどにあたる。他の半数について、市の住宅課では転居の際などに 処理済みと回答しているが、現在どのような状態であるのか確認できていない。

    この工事には1億円に上る補助金が建設省から出されていることがわかっている。議会資料によって、 粉じんが落ちてきて困るという訴えから工事が始まった経過ははっきりしているが、 建設省からのマニュアルによることもなく行われた工事にこれだけの補助金が出され、 結果的に作業者や居住者の健康を害した事実はないのかどうか、 工事方法自体の適否や決定した経緯、また、この囲い込み方法で地震などの際に居住者の安全が 確保できるのかどうか、問題になる。

    市会議員の松谷氏は、3月の議会で、地震の後の環境問題に焦点をあて、 アスベスト問題を取り上げることを決め、支援者等の勉強会も予定されている。
    市議の活動によって市の対応がどう変わってゆくのか注目したい。

  5. 代替化の促進

    県に代替化の促進を求める過程で、国において代替化の促進がどの様になされてきたのか関心を持った。
    アスベスト製品製造工場等が減少しつつあり、アスベストの含有率も減っているのに、 昨年のアスベスト輸入量が19万トン以上になると聞いて、代替化が実際にはほとんど 進んでいないのではないかという疑問を感じたからだ。

    このため、1月の初め、環境庁大気規制課に、今まで行われた代替化促進のための施策の内容について 質問している。
    環境基本法や、大気汚染防止法等から見て、特に環境問題についての国民からの質問には、 積極的に回答する義務があると考えている。

    アスベストの危険性と代替化の方針はすでに認められているのだから、それを具体化する政策をどこで、 どのようにとってきたのか、どこが代替化を促進する責任を負っているのか、 将来発生する可能性のある被害者のためにも、現時点ではっきりと確認しておく必要はあると思う。

    アスベスト規制法の制定が直ちに期待し難い今の状況では、代替化を推し進めることで 英米のように使用量を減らす方向もあるので、自分達なりのやり方で代替化を求める動きに 参加してゆきたい。
    現在、労働省、建設省、厚生省にも質問する内容を検討している。

  6. 今後の動きについて

    今までいろいろな局面で、できることは、必要があると判断される限り、 結果や効果はあまり考えずにやってきた。それは、やってみること自体、意思表示をすること自体に 意味があると考えてきたからだ。今後もこの姿勢はできるだけ維持してゆきたい。

    昨年6月、アスベストの低濃度暴露の危険性がはっきり証明できないことを知り、 多くの困難に直面して自分達がやっていることの意味付けができずに苦しんでいた時、 ネットワークから送られてきた手紙には、粘り強くやってゆけば必ず何らかの成果が出ると書かれていた。
    この言葉がこれからも自分達を支えてゆくことは変わりない。
    震災後、厳しい条件下で、アスベストの被害を防ぐために活動された多くの方々の努力に対し、 それによって得られた結果と教訓をできる限り生かし、引き継いでゆくことで、 少しでもお返しができればと願っている。

    今後も、皆の力をお借りしながら、いろいろと模索しつつ、アスベストの問題を通じて、 行政の負っている責任、我々の政治参加のあり方と意味などについて考えてゆきたい。


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