* エンジン・オイルの真実 *

 現在の高性能スポーツ・カーのエンジンに比べると旧車のエンジンにはターボや可変バルブなどのデバイスが装着されていない上、その出力も 100ps/l などというハイ・チューン・エンジンは殆ど数える程しか存在しませんが、NAエンジンとキャブというオーソドックスな組み合わせで出来る限りの高出力を目指して設計されている上、ポイント点火や冷却系,複数使用したキャブの同調などの手間などは現代のクルマに比べるまでもなく大変であり、しかも、エンジン設計の古さは隠しようもなく、オイル経路やクランクのベアリング数,オイル上がりやオイル下がりを誘発する精度の低い各パーツ,吐出力の弱いオイル・ポンプに片寄りするオイル・パン,オイルの滲み出すパッキン類,異常なオイル消費など現代のエンジンでは考えられない問題を複数抱えています。

 加えてかなりの旧車のエンジンが酷使され、ある程度のO/Hを受けなければならない状況に至っており、オイルの品質については格段の注意が必要です。

 そこで、エンジンの命ともいうべきエンジン・オイルに関して詳しく知っておき、適格なオイルの品質と管理を行ない常に最適の状態で旧車を楽しんで頂きたいと思います。

1.オイルの種類と特性


 まず、オイルには鉱物性と化学合成及び半化学合成の三種類に加えてレースなどで使用されていた植物性があるが、植物性オイルは余りにも耐久性に難があり実用車のエンジンオイルとしては不的確なので、今回はオミットします。 
 
 さて、現在では高性能オイルの主流は化学合成ですが、これは粘度特性を自由自在に設定でき、更に驚異的な温度耐久性を持つという長所が、粘度特性の幅の狭い鉱物性より遥かに優れているためで、中には10W−60などというスーパー・マルチ・グレードも存在します。

 また、耐久性なども鉱物性に比べれば遥かに優れ、洗浄分散作用(汚れの取り込み能力)でも鉱物性に遅れを取りません。 但し、英国などのエンジンに使用されているコルク・パッキンに対しては注意が必要で、その優れた浸透性の為にオイル滲みが発生する等の問題があります。

 対する鉱物性は、オイルのシェアでは主流を誇っており、現在のエンジン・オイル(自動車用だけとは限らない)の6〜7割は鉱物性オイルです。 特徴は優れた洗浄分散作用と安定した粘度特性を持ち、比較的低価格で供給されるためコスト・パフォーマンスに優れるという利点があります。

 但し、オイルの耐久性は化学合成に比べると劣り粘度特性でも#10〜#40までの範囲が殆どで前述した化学合成のスーパー・マルチ・グレードの様な性能は作る事ができません。 が、一般的な自動車用エンジン・オイルとしては十分な性能を発揮しています。

 半化学合成は、両者の長所を兼ね備えた物として存在しますが、化学合成オイルに比べてマイナーな存在であることは否めません。

 オイルの性能は粘度特性と品質で分類されていますが、例えば『10W−40 SG−CD』というような形式で表示されており、これはそのオイルの粘度特性が米国ASE規格で#10から#40の範囲に対応することを示しており、一般でよく言われている「冷えれば#10となり高温では#40の性質に成る」訳ではありません。 ようは、自らがおかれた温度状況に対応して粘度特性を変化させていると考えて下さい。

 又、#10の後ろに付けられたWは冬季の事であり氷点下の使用にも供する、いわゆるオール・シーズンであることを現しています。(けっして冬に#10になるという訳ではありません。)

 例えば、貴方のクルマのエンジンのオイル指定が10W−30であった場合に、単純に考えればその指定通りのオイルを使用してやれば問題ないのですが、エンジンが少々くたびれてきており多少の不調が出ている場合には、ある程度はオイルの粘度を変化させることによって対処することも可能です。

 但し、そのエンジンに定められているオイル指定を逸脱するような番数のオイルを使う事は許されません。

 比較的に高回転域で使用し、更に発熱量が大きいタイプのエンジンなどでは、夏期での機関保護のためにも指定よりも#10〜20番程度の粘度の高い(硬い)オイルを使用したり(10W−50)、冬季のエンジン始動に難がある場合に、粘度の低い(柔らかい)オイルを使用して始動性を高めたり出来るので、ある程度のエンジン・チューニングが可能です。
拘る方の中には冬季と夏期で僅かに異なる指定のオイルを使用している例もあります。

 また、エンジン始動時から僅かに異音を発生させている様なエンジンには5W−40又は0W−30程度の番数を持つオイルなどで、オイルの潤滑を良くし、取り敢えずの対策を施す例もあります。

 その後に続くSG−CDは品質を表し、最初のSGはガソリン機関での規格(API規格)で、潤滑性,温度特性,洗浄分散作用,耐久性,粘度特性などを加味し、SA〜SHまでの8段階に分類され、当然の事ながら高品質なほど過酷な条件での使用に耐えるように作られており、高価になっていきます。
(因みに最高グレードはSHです)

 尚、自動車用のエンジン・オイルとしてはSE〜SHまでを使用するべきです。

2.オイル選定上の注意


 最後のCDはディーゼル・エンジン専用の表示で、御存知のようにガソリン機関の倍以上の高圧縮比を持ち、ガソリン機関とは比べ物にならない程の燃料とカーボンがオイル・パン側に流れ込み、オイルに混入してきます。

 実は、化学合成オイルの場合には、余りに純粋な分子構造を持つ為にガソリンが混入すれば希釈され、軽油が混入すると化学反応を起こして酸化してしまい劣化が急速に進行します。

 これが、化学合成オイルの劣化の最大の原因なのですが、これを、防ぐ為にディーゼル・エンジン用では、アルカリ成分を混入して対処されておりガソリン機関とは異なった規格が使用されています。

 つまり、このCDの付くオイルは、ガソリン機関とディーゼル機関の両方に使用可能な品質を持っている事を表しています。

 但し、この品質規格は一つだけではなく、例えばユーロ規格のACEA規格(G1〜G5)や、米国軍需規格であるMILなどが有りますが、実質は上記したAPI規格だけを覚えておけば問題ないでしょう。

 化学合成や鉱物性の高性能オイルなどには自身の持つ優れた高温耐久性と粘度特性と共に内的添加剤とも言うべき優れた機能を持つケミカル剤を複数混合し、オイルの性能向上、つまり、浸透力の向上,耐久性の向上,褶動部のコーティング能力の向上,洗浄分散作用の向上などの機関保護能力を謳う物も数多くあり、この為に購入の際に判断に困る時が多く、又、次々と発売される新オイルを使ってみたい衝動に駆られます。

 色々なエンジン・オイルを次々に使用する場合の注意点としては、異なった製法のオイルを混合する事によって起こる化学反応で、例えば貴方のクルマのエンジン・オイル(鉱物性)が消費しており、そこに化学合成オイルを追加したことにより最悪の場合には化学反応によってオイルの性能が著しく損なわれ、結果としてエンジンに重大な損傷を招く可能性があります。

 従って、異なる製法のオイルに交換する場合には、エンジン内部のオイルによるフラッシング, オイル・ストレーナーの交換等を行った後、新たな銘柄のオイルを入れるように心掛ける必要があります。 但し現在では、同一の製法で作られていなくても、良く似た粘度特性や品質を持つオイル同士の多少の混合には、さほど神経質にならなくても問題はないといわれています。

 上記した異なった製法のオイル同士の混合と同じ事がオイル添加剤(この場合には後から投入するタイプの、いわば外的添加剤)を使用する場合にも言え、例えばオイル本体にフッソ系の添加剤が予め混入されており、そこにモリブデン系の添加剤を投入すると、フッソ系の添加剤には+の、モリブデン系の添加剤には−の電荷を持っているためそれぞれが結び付いて異なった粘度特性を持つオイルへと化学変化する事があり、注意を要します。

 但し、現在では効果のある大部分のオイル・トリートメントの主成分には化学合成薬品系が多く用いられていることから、上記した様な問題の恐れはほとんど無いとされています。

3.添加剤の効能


 添加剤の話しが出たついでに、少し添加剤について解説すると、現在星の数ほど発売されている添加剤の殆どは効果のない気休めに等しいと考えても良いでしょう。
(特に量販店で大幅にプライスダウンされて販売されている類いの添加剤は、それらよりも遥かに優れた性能を持つ新製品に駆逐されて廉価販売されていると考えて良い。 優れた添加剤は決して廉価販売などはされず、非常に高価である。 安い物は安いなりの性能しか持ち合わせていない。)

 中には、本当に驚くほどの効果を発揮する優れた添加剤もあるが、それは使用されたエンジンの状態や混入したオイルの程度、使用状況によって左右される事が多く、全ての状況において効果を発揮する物は存在しないだろう。

 また、一度投入すると半永久的に褶動部をコーティングし磨耗を保護するというふれこみで販売されている○イ○ロ○ンのような高価な添加剤の宣伝文句は、その持続性においては殆どはったりと考えてもよい。

 何故なら、広義的に見れば、そのほとんどが消耗部品の集合体であるエンジンの内部をコーティングし一時的にせよ磨耗をゼロにしたとしても、常に接触し回転し続けているクランクやピストンリングなどは瞬く間にそのコーティングを掻き落としてしまうだろうし、仮に、コーティングが持続したとしても摩擦による劣化を避けることは物理的に不可能で(もしも、そのような物質があるのなら自動車メーカーが見過ごすわけがない)、いつかは掻き落とされてしまう。

 そこで、問題となるのがオイルにマ○ク○ロ○が混入されたままなら、新たな被膜を作り保護してくれるだろうが、既にオイル交換が行われた後だとしたら件の添加剤はオイル・ドレーンからオイルと一緒に排出され、被膜を作ろうにもその成分が残っていない事になる。

 更に考えると、それほどの強固な被膜を作れる成分なら、その被膜内にスラッジを取り込む事も考えられオイルの洗浄効果を著しく妨げる事になる筈だし、 仮に、その被膜が半永久的な効果を持つと仮定してみると磨耗による鉄粉などの異物は殆ど発生しない上、ピストンリングからの圧縮抜けも無くなり、それがオイルと混合して希釈による劣化も無くなる事となり、燃焼などで消費されるオイル分を継ぎ足すだけで半永久的にオイル交換が無くなる筈である。

 しかし、現実にはオイルは異物によって汚れ、劣化し交換する必要が発生するのであるから大きな矛盾である。 耐磨耗性という点に関しては額面通りの性能を有しているだろうが、半永久的とは少しはったりがすぎるようである。

 以上の事から考えて、添加剤は具合の悪くなってきたエンジンやミッションなどに使用するのが得策で、O/Hしたばかりのエンジンや、新品の物に混入しても大して効果を得る事はないと断言できる。

 但し、新品のままの性能をいかに持続させるかに神経を使う人にとっては効果は十分に有るはずである。

また、効果を現した添加剤を過信せず機関自体の傷みは進行しているのだと言う事を肝に命じておくべきである。

4.オイル交換の時期


 さて、以上の事を理解してエンジン・オイルを選ぶとなると、非常に膨大な選択肢の中から一つの銘柄を選考するという頭痛の種が現れてくる。

 これは、エンジン・オイルの交換時期も考えに入れて判断すべきであるので、先にそれについて触れておきたい。

 現在、販売されている高性能オイル。特に化学合成オイルについては1万キロ保証などという驚異的なロングライフを誇る物も有り、その交換時期の判断に苦しみますが、一般的な鉱物性オイルなどを使用した日常に足として使っているクルマなどでは3000キロなり5000キロ程度の走行距離を目安にしてオイルの交換を実行しています。が、実用に供せず趣味の対象として旧車を所有しているのであれば単純に走行距離のみでオイル管理する事は間違っています。

 高品質の化学合成オイルでも品質の劣化は大気に触れると同時に始まっており、大体6ケ月程度を目安に交換するのが良いとされています。

 また、化学合成オイルよりも劣化の早い鉱物性オイルなどは日常使用しないクルマには不向きです。

従って半年間で走行距離が3000キロを越えないような使用頻度のクルマであれば、年二回程度のオイル交換で十分でしょう。

 ここで、年2回のオイル交換の時期は春と秋が良いという通説がありますが、これは、夏と冬にオイルの粘度特性を変えたい人がよく利用する方法です。

 しかし、日本独特の気候の変化を考えるならば、夏と冬に交換するのがベストだと言う意見もあります。

それは湿気によるエンジン内部への結露を考えに入れたもので、例えば、初夏の梅雨時などの高湿度がエンジン内部に作用してカムなどに水滴を発生させたり、冬季にエンジン本体が高温と常温を繰り返す事によって結露が起こり、結果的にオイルの付着を妨げたり、オイルと混ざる事によって劣化を進行させるなどの現象を考えて、梅雨の後の夏と一番寒い冬に交換してしまおうという理屈で、どちらにしてもその使用しているオイルのグレードによってはたいして意味を成さなかったり、無用の心配だったりする場合もあり一概には断定出来ません。 結局、自分が満足出来る時期を選ぶべきでしょう。

 又、高品質の化学合成オイルのロングライフを利用して長期間交換せずに維持費を節約しようという方法と、リーズナブルな鉱物性オイルを使用して2000〜3000キロのスパンで頻繁にオイル交換を繰り返す方法がありますが、鉱物性オイルは劣化が早いのでSEやSF程度の品質では日常使用をしていない限り、得策とは言えませんし、オイル・フィルターの交換も早まりパーツの少ないクルマの場合には色々と弊害が多いのが現実です。

 対する、高品質の化学合成オイルを利用しての長期間使用は、年間の走行距離が少ないと2〜3年も交換されない事もありえ、さすがの高品質も劣化して当初の性能は失われてしまっている場合が多く、これも日常使用をしていない限り、得策とは言えません。

 ところで、オイルの劣化を知るのは非常に難しいのですが、大体はオイル・レベル・ゲージについたオイルを指で練り合わせ、色と異物の感覚と粘り気で判断しているようですが、果たして、その様な方法で確認は可能か?と言うと、不可能だと断言出来ます。


 第一に色では「汚れて黒くなったので交換だ。」程度の判断基準しかないのが現実ですが、本来オイルは高温によって酸化しスラッジを発生させ、その中にエンジン内部の汚れを取り込んでいくので(洗浄分散作用)、黒くなって当たり前です。

 かえって、いつまでも色の変わらないオイルは汚れを取り込む能力が低いと考えられ、良いオイルとは言えません。

 オイルのカーボンなどの汚れを取り込む能力はある一定の量を蓄積したら急激に減少しますが、潤滑性能に関しては洗浄分散作用の減少に関わりなくオイル劣化の進行の度合いによって変化していくので、オイルの色で潤滑性能を判断することは出来ません。


 第二に異物の感覚は、それこそ指で判断出来るような異物が混入しているのならオイル・ストレーナーが用を成していないのか、ストレーナーで取り切れないほどの異物が発生するほどの酷い状態のエンジンなのか、二つに一つです。

 これでは、オイルの劣化ではなくエンジンの不具合しか判断出来ません。


 第三に粘り気は、全く判断材料とはなりません。

 何故なら高品質のマルチ・グレード・オイルなどでは常温に近い温度(80〜90度のオイルは指で直接触れないでしょう)の粘度はシャバシャバで、粘り気がないことは封入してある缶を開けてバージン・オイルを手に取ってみれば直ぐに分かります。

 従って、指で触れる程度の温度での粘り気などはなんの意味も持たないのです。

 これら一般的に行われている方法は、実は3〜40年前のオイルが単番(#10とか#40という幅を持たないオイル、以前はこれが標準だった。)だった時代の方法で、現在の様に飛躍的に向上したオイルの性能のまえでは、時代遅れの産物です。


 では、どの様にチェックするかというと、エンジンの静粛性の変化や油圧や油温の変化、程度でしか判断出来ません。

 と、いう事は適格に判断する事は不可能ということであり、結局、オイル缶に書かれている性能を信じて、自分の決めたサイクルでオイル管理を行うしかないのが現実です。

5.最後に・・・


 ところで、一部の訳知りのオーナーの中にはエンジンを大切にしたいのでオイル交換時に、わざわざオイル1缶(多分4l缶)を無駄にして、エンジン洗浄を行なってスラッジや汚れを取り除く。
 と、いう豪勢な人もいますが、これは本来はフラッシングというエンジン内部の洗浄方法で、長期間動かしていないエンジンに隅々までオイルを浸透させ固着した汚れを取り除くもので、専用のフラッシング・オイルと通常のエンジン・オイルを混合して低回転でエンジンを始動させ洗浄と潤滑を行なうやり方です。

 どこで見てきたのか、形ばかりを真似して悦に入っている様ですが、そこまでエンジン内部の汚れだけに気を配るのであれば、いっそのこと走行するたびごとにオイル交換を実行してみてはどうでしょうか。

 そうすれば、少なくともエンジンの内部だけは、美しく保つ事ができると思います。

但し、動かす事によって生じる褶動部の磨耗だけは避けられないでしょう。

 結果的にエンジン・オイルの品質と管理に関しては、それぞれの旧車の使用状況と自分の財布と相談して決定してもらうのが一番ですが、月三回程度の使用で月合計で500キロ前後を走行するような使用状況では、距離管理よりも時間管理として化学合成のSGクラスのマルチ・グレードを年二回交換する程度の管理で十分だと思います。

 その上で、使用目的が街乗りよりも峠が多いという走り屋さんは、保険だと思って最高グレードのSHを奢り、夏と冬で粘度特性を変えてみるか、5W−50とか10W−60などのスーパー・マルチ・グレードを使用してみるのも良いでしょう。

 最近の高品質オイルは多少過剰品質と考えられる程のクオリティーと耐久性,潤滑性と洗浄力、そして機関保護能力を誇っていますので、オイルが原因となる機関故障は激減していますが、オイル消費の激しい旧車ですので、走る前には常にオイル・レベル・ゲージを引き抜いてオイル残量を確認し、そのつど補充する位の用心深さは絶対に必要です。

 そしてエンジンの異音が大きくなってきたら時期に達していなくてもただちに交換する事がエンジンを長持ちさせる秘訣です。