さあ台輔、戻りましょう     NEXT「木漏れ日の中で(前)」へ

その日、はいつものように祐恵の店に来ていた。

「慶も平和になったよな。また女王かと一時は諦めていたが、今度の女王は期待出来そうだ。やはり胎果ってのがいいのかね〜」
祐恵が話すのを聞きながら、は玻璃の酒器を傾け、満足げに微笑んでいる。
「そうだね、胎果っていうのがいいのかもしれないね。こちらの常識に囚われない、私達では考えもつかない事を当たり前のようにやってくれる。慶はこれからもっと変わっていくんだろうね」
「ああ、そうだな。そう願うよ。・・・ああ、いらっしゃい。来てるよ」
祐恵がを指しながら、入ってきた客に声を掛ける。
何だろうと思いながら振り向くと、其処にいたのは見覚えのある人物だった。

「やあ」
ニッコリと爽やかな笑みを浮かべ、まるで待ち合わせでもしていたかのように自然な仕草で隣に腰掛ける。
「あら、利広。久しぶりね」
「久しぶり、元気そうだね」
はキョロキョロと視線を巡らせる。
「今日は風漢は一緒じゃないのね」
「あはは、別にいつも一緒にいるわけじゃないさ。あの時はたまたま遇っただけだよ」
風漢と出会すとろくな事が起きない。
そう思い、密かに内心で安堵の息を漏らす。
「一週間ほど前から毎日のように来てね。ずっとが来るのを待ってたんだ。いつ来るかわからねえって言ったんだけどね」
横から祐恵が口を挿む。

「え・・・そうなの!?一週間も?余程暇なのね」
利広はの言葉に苦笑しながら、しっかりと反撃も忘れない。
「此処の店が一番出現率が高いって聞いたからね」
出現率って・・・妖魔じゃないんだから。
「それで?私に何か用事でも?」
「約束を、ね」
そう言われては「あっ!」と小さく声を上げた。
「もしかして奏に連れて行ってくれるって・・・」
「うん、勿論の都合もあるだろうけど、どうかなと思ってね」
「ん〜。行きたいけど、いきなり言われても・・・。二,三日待って貰えれば返事出来ると思うけど、でももし駄目だったらごめんなさい」
「わかった。良い返事を期待してるよ。あ・・・良かったら私が雇い主に頼んであげようか?」
雇い主・・・って。

利広はが傭兵だと思っているのだから当然の発言だが・・・。
まさかこんな事情で金波宮まで御足労願い、陽子や浩瀚に会わせるわけにはいかない。
は苦笑を禁じ得ない。
「ううん、大丈夫だから」
「そう?それじゃ、三日後にまた此処で待っているよ」










「奏に!?」
突然の申し出に陽子は目を丸くした。
「はい、約束をしてしまって・・・」
「そうか。私は構わないよ。浩瀚は良いって言ってるのか?」
「いえ、主上のお許しを頂いたら話そうと思っていましたので」
「うん、今は取り立てて調べる事も無いし、行ってくるといい」
「有り難う御座います」





「奏に!?」
予想はしていたが、やはり浩瀚も陽子と同じ反応を見せた。
「卓朗君・・・か。あの方なら腕も立つし、危険は無いだろう。行ってきなさい」
意外とあっさり了承してくれた浩瀚に少々拍子抜けする。
「良いの?だって相手は男だし・・・」
「おや、はそのような関係になるやも、と考えているのか?」
「そんな、とんでもないっ!」
「ならば何も心配する必要など無かろう。まあ、雁に行くというのなら話は別だが・・・」
やはり延王には油断出来ないと思っているのだろうか。
未遂めいた事が幾度かあったから無理もないし、自身も単身で雁に行く事は避けたいと思っている。

「私はお前を信じている。敢えて心配するとすれば、それは危険な目に遭わないかということだ。お前は傭兵の間では大した有名人だからな」
大抵、有名になっても年老いて引退すれば忘れられていく。
その点、は人より少しばかり長生きだし、引退したとはいえ、巷ではまだ傭兵で通しているわけだから仕方のないことだ。

「確かあの方の騎獣はすう虞だったな。ならば足手纏いにならぬよう同じ騎獣が良いだろう。私のを使うと良い」
「良いの?」
「ああ、構わないよ。あれならも何度か乗っているだろう」
「有り難う!ねえ、お土産、何か欲しいものある?」
まるで子供のように瞳を輝かせるに、思わず笑みが零れてしまう。
「そんなものはいらぬ。さえ何事もなく帰ってきてくれれば、それが私にとっての何よりの土産だ」
思っていたとおりの浩瀚の返事にはくすっと笑った。
「そう言うと思った。私が怪我でもしたら利広の責任問題になってしまうもの。大丈夫、必ず無事に戻ってきます」










そして約束の三日後。
は祐恵の店を訪れた。

「やあ、待っていたよ。それで、どうだった?」
「ええ、大丈夫。騎獣も借りられたし。但し、五日間ほどで帰ってきたいのだけれど」
「うん、五日もあればゆっくりと見学出来るよ。騎獣は何を?」
「すう虞よ」
「へぇ、そりゃ凄い。さすが天下のお尋ね者様だね。顔が広いんだな」
「何それ。人を犯罪者みたいに言わないでよ」
「でも事実には違いない。ところで準備は?すぐに出発出来るのかい?」
「ええ。でももう日が暮れるわよ」
「すう虞なら夜目も利く。二人で星を見ながら飛ぶのも素敵だろう。出来れば一頭に二人で乗りたかったんだけどね」
「それは謹んで遠慮させて頂きます」
がきっぱりと言い放つと、利広は「それは残念」とクスッと笑った。





確かに秋の夜空の旅は快適で楽しかった。
流石に最速を誇るすう虞、あっという間に奏に入り首都隆洽に降り立つ。





「さて。君を我が家に招待したいんだけど、良いかな?」
唐突に家に招待すると言われては面食らった。
てっきり利広は身分を隠し通すものだとばかり思っていた。
「えっ?でも・・・私は宿をとるから」
「大切な客人を1人にするわけにはいかないよ。私も宿に泊まりたいところだけど、生憎この国内では結構有名になってしまっていてね」

建国六百年を誇る奏だから、いくら雲の上の存在である王族といえど、その容姿や噂話は庶民の間にも知れ渡りつつある。
ましてや放浪癖のある卓朗君の場合、そこそこ地位や財産のある者ならば彼の事を知っている者も少なくはない。
他国では思う存分街を歩けても、自国内ではそうもいかないらしい。
それを思うと、延王は凄いと妙に感心してしまう。
自国内でも堂々と徘徊して、誰もその存在を知らないのだから。

ああ、そういえばうちの主上もそうだな、とふと思うが、慶はまだ駆け出しの新参国だから知らなくて当然だ。
だが、珍しい紅い髪と若い女王という特徴は庶民にも知れ渡っている。
陽子が気安く街を歩けなくなる日もそう遠くないのかもしれない。
それにしても、利広の家と言えば清漢宮だ。
そんなところに自分が行って良いものだろうか。



結局利広の申し出を断り切れず、清漢宮へと来てしまった。

利広は躊躇無く禁門に降り立った。
騎乗したまま門を無視して天空から降り立ち、窓から帰宅するという噂は、単なる噂に過ぎなかったのだろうか。
だが閹人が驚いたように目を白黒させている様を見ると、やはり噂は本当なのかも知れない。
利広の後から続いても遠慮がちに降り立つと、閹人は更に驚いたようだった。

王宮内を歩いていると、すれ違う官達はニコニコと微笑みながら頭を下げる。
「女性を連れ込むのには皆慣れているみたいね」
利広はいつもの調子であははと軽く笑う。
「それじゃ私が女たらしみたいじゃないか。もう皆私が何しようと、ちょっとやそっとじゃ驚かないだけさ」
「・・・。それはそれで問題があると思うんだけど・・・」

「それより、だって・・・全然驚かないんだね」
「え?」
「知っていたんだろう?私が仙だって事を。もしかして風漢の事も知っているのかな?」
「あ・・・いえ・・・。何となくそうじゃないかなって気はしていたけど、知っていた訳じゃ・・・。それに、驚いてるわよ。驚きすぎて思考が止まっちゃってるくらい」
「やっぱりって変わってるよね。肝が据わってるし、おもしろいね」
「そう?有り難う、って言っていいのかしら」
「一応褒めたつもりだよ」



達が客掌殿に到着する前に既に報せが届いていたようだ。
客堂に着くとそこには宗王始め、宗麟や櫨一家がニコニコと笑みを浮かべて待ち構えていた。
一国の王族一家が勢揃いしているのだから流石のも面食らった。
姿勢を正し、戸惑いながらもしずしずと叩頭する。

「あの・・・突然お邪魔してしまい、その・・・お手数をお掛け致します。まさか御招き頂けるとは思いもしませんでしたので、このような粗末な身なりで申し訳御座いません」
勿論挨拶は庶民風に、あくまでも自分は只の傭兵なのだから。
しかし多少動揺してしまっていることは紛れもない事実だ。
「ああ、そんなに畏まらなくても良い。利広の客人なら大歓迎だよ。滞在中、存分に見聞を楽しまれるが良かろう」
「はい、有り難う御座います」



その日の夕餉は久しぶりに賑やかなものになった。
は出来るだけ場に慣れていないかのように振る舞うが、慣れてしまっているものをぎこちなくするというのはまた難しいものである。

「作法に慣れていらっしゃるのね。あ、ねえねえ、そういえば傭兵をなさっているんですって?さんの名前、やっぱりあの有名な女傭兵に憧れてつけたの?」
「えっ?」
有名な女傭兵?そんな話は聞いた事無いが・・・。
は首を傾げ、他の皆もきょとんとしている。
「文姫、何のことだい?」

「五十年ほど前、巧州国で内乱があった時に大活躍した女傭兵がいたらしいの。その女傭兵の名前も確かだったと思うわ。そこらの男に負けないくらい強くて、その上凄く美人で優しいんですって。その人に助けて貰って、憧れて傭兵になろうとした女の子達も大勢いたらしいわよ。尤も五十年も前の話だから今頃は生きていてもおばあちゃんでしょうけどね。ねえ、もしかしてさんはその人に会った事あるの?」
「あ・・・いいえ。無いですよ」
は半ば呆気にとられながら返事をする。
「お前、何処でそんな話を仕入れてくるんだ?」
「やあねぇ。兄様は知らないでしょうけど、女の子達の間では有名な話よ。私も巧から来たお友達に聞いたんだけどね」

(まさか・・・その本人か?だとしたら仙?でも仙で傭兵なんて有り得ないよな)
”玉葉”のように肖って名付けることも珍しくはない。
”という名は余り聞かないが、きっとそうなのだろうと利広は思った。

(知らなかった。。。自分がそんな風に語られていたなんて。。。)
それは紛れもなく自身の事だった。
五十年前、確かに巧州国にいた。
その時に義勇軍にいた紫香とも出会った。
彼女は戦いの最中に死んだが、今でも彼女の名を借りる事がある。
紫香は優しく勇敢な戦士だった。
彼女の働きは義勇軍の勝利に大きく貢献した。
自分は彼女の下で命じられるまま動いたに過ぎない。
彼女こそ語られるに相応しい人物なのに・・・。

これから先、利広が金波宮を訪れることが無いとは言い切れない。
その時には延王の時のように、自分の正体も仙である事も知られてしまうに違いない。
だからといって今わざわざ暴露する事もないが、身分を隠し皆を騙している事に罪の意識を感じざるを得ない。





「こうして改めて見てみると、やっぱり奏って凄いわね。雁とはまた違った雰囲気で、とても開放感がある」
「温暖な気候の地に住んでいるとね、人も自然と開放的になってくる。二期作も可能だから農作業が多いしね。建物の中に籠もって作業するのとは違うから、そういうのも影響してくると思うよ」
陽子や浩瀚に役に立つ土産話を持ち帰ろうと、は様々な場所へ行っては感じた疑問を利広に投げかけた。





そうしてあっという間に五日が過ぎようとしていた。



「何だか、随分と王宮慣れしているように見受けられるけど、本当に傭兵なのか?」
利達はこの五日間のの様子に少々疑問を感じていた。
傭兵の割には何もかもが違和感を感じさせない自然な立ち居振る舞い。
何処か良家の出自なのか・・・。

「そうだよ。実際に戦い振りを見たわけじゃないけど、本人がそう言っているんだ。風漢も彼女の事は認めているし、嘘を言うような人じゃないよ」
「それはそうかもしれないが・・・。傭兵をしていたのは確かでも、良家の出とか、もしかしたら今は何処かの王宮にいるということも考えられるだろう」
「傭兵がどうやって王宮になんか上がれるっていうんだい?」
「確かに・・・普通じゃ有り得ない事だな」
たしかに普通ならば有り得ない事だ。
しかし慶では先の内乱の折、国のために戦った一介の民を王宮に召し上げたと聞いている。

「ねえ、それより。兄さんは文姫の言った事、どう思う?」
「どうって・・・。お前、まさか彼女が?」
「さあね、わからない。でも、もし彼女が仙だとしたら、可能性が無いとは言えない」
「まさか・・・」
「だけど、彼女が何者かなんて、どうでも良い事だよ。彼女は彼女でしかない。私がこの目で見た彼女が、彼女の全てだと思う」
「・・・そうだな」

利広はふと窓の外に目をやる。
「ほら兄さん、月夜に女神が舞い降りてきたよ」
「女神・・・か。確かに彼女は美しいな。お前には勿体ないくらいだ」
「彼女は私のものになんかならないよ。もう決まった相手が居るらしいからね」
「そうなのか?なら何故」
「思い出くらい作ったって、罪にはならないだろう?」
「お前なぁ、たまには脈がある相手を見つけてこい。まったく・・・つくづくお前には同情するよ」
「御忠告、感謝しますよ。さてと、女神が退屈なさってる。お相手してくるとするかな」



王宮での生活には慣れている。
それでもやはり他国の王宮となると建物の雰囲気も違うし、庭院の趣も違う。
静かな庭院に涼しげな水音と虫の音が彩りを添えている。
たまにはこういうのも新鮮で良いものだな、と思う。
だからといって、他国の王宮などそう滅多に行けるものではない。

一頻り散策を楽しみ、そろそろ客堂に戻ろうかと思っていた時、突然後ろからフワリと抱きしめられた。
すっかりくつろいでしまっていたのか、全く気配を感じなかった。

「っ!利広!?もう、心臓が止まるかと思ったじゃない」
「こんな夜分に一人で出歩いて、無防備だね。襲ってくれと言っているようなものだよ。尤も、迂闊に手を出すとこちらの方がやられてしまいそうだけどね」
「気配を感じていれば後ろは取られないのに」
「伊達に六百年生きてないさ」
利広の言葉に妙に納得しつつ、安堵と呆れの入り交じった溜息を零す。
「生憎、今は帯剣してないわ」
「それは良かった」
「そうね、持っていたら今頃貴方は微塵切りになってるわ。それに剣が無くたって男の一人くらい簡単に伸せるわよ」
「頼もしいね。でもそんなに身体に力が入ってたら上手く動けないだろう」
言われて初めて自分が緊張している事に気付く。
それも当然だ、異性に突然抱きつかれて緊張しない方がおかしい。

「・・・放してくれたら、今すぐ伸してあげるわよ」
しかし利広はクスッと笑っただけで、を解放する気はないらしい。
「君のように美しく聡明で、剣の腕も立つ女性はそうそう居ない。惜しい事をしたよ。もっと早くに出会いたかった」
「・・・・・」
耳元で囁かれ、答えに窮する。
鼓動が速まるのがわかる。
「唐突に何を言い出すのかと思ったら・・・。煽てたって何も出ないわよ」
動揺を隠すように態と突き放すように言ってみる。
「わかってる。特定の男性が居るんだろう?風漢から聞いたよ。そいつを怒らせると地獄を見る事になる、ってね」
地獄、って・・・・・。
の脳裏に浩瀚の顔が浮かび、失笑する。

「慶を、離れる気はないのかい?傭兵だろう、何故一ヶ所に、慶に留まっているんだい?その人が居るから?」
「・・・そうね」
「仙になりたいとは思わない?奏に来れば君を仙に召し上げる事が出来る」
そう言われても、もう既に、百年も前から仙なのだが・・・。
しかも自ら望んでも仙籍から除外される事のない、縛られた運命。

「仲間と一緒にいたいし、その人に一生付いていくって決めたの」
「そう。君にそう言わせるだけの素晴らしい人物なんだろうね」
陽子も浩瀚も他の皆も、掛け替えのない仲間だ。
「ええ、とても素晴らしい人よ。会えば利広もそう感じると思う」
「それは是非会ってみたいものだね。でも、今此処にはその人は居ない」
陽子にも浩瀚にも既に会っているのだが・・・。
え?ちょっと待って!”居ない”・・・って、どういうこと?
不意に視界が閉ざされた。

えっ・・・!?

の口は拒絶の言葉を発する前に塞がれていた。
それはほんの数秒の出来事。
利広は惜しむようにゆっくりと唇を解放した。
「これくらいは、良いだろう?これ以上居ると歯止めが利かなくなりそうだ。それに、まだ地獄には行きたくない」
利広は苦笑しながら肩を竦め、「おやすみ」と自室へ戻っていった。
「・・・・・」
風漢には平手打ちを喰らわせたのに・・・。
何故か利広には出来なかった。
あまりにも突然で優しすぎる口づけに、手を上げる事すら忘れていた。










「一人で大丈夫よ」
「駄目だよ。巧の周辺は妖魔も出る。それにちょうど戴極国へ行ってみようと思っていたしね」
「戴へ?」
「うん、あそこは王が復帰して漸く立ち直ってきているところだ。少し様子を見てきたい。・・・そういえば、あそこの内乱を鎮めたのも、確か女性の傭兵じゃなかったかな」
言いながら利広はちらりとを見やる。
「え・・・そ、そうなの?知らなかった」
「ふーん。君の事だからそこら辺の情報には詳しいのかと思ったけど・・・」
「私だって何でも知っている訳じゃないわよ」
は思わず視線を逸らせてしまったので、利広の表情は読みとれなかった。





何事もなく無事に慶に入り、堯天へと降り立つ。

「有り難う。とても楽しかった。それに色々と勉強になったわ」
「それは何よりだ。また来たくなったらいつでも声を掛けてくれ。それじゃ」
「ええ、気を付けてね」
利広はすう虞に跨りながら何か思い出したように振り返った。

「ああ、そうそう。景王に宜しく伝えておいて。そのうち卓朗君として伺います、とね」
ああ、陽子にね・・・って、えぇっ!?
は一瞬何を言われたのかわからず、だがすぐに瞠目する。
「えっ!?ちょっ!利広、何を・・・」
利広は相変わらずの爽やかな笑みで、悪戯っぽく片目を瞑ってみせる。
「奏の情報網を甘く見ないで欲しいな」
言い終わると同時に、すう虞は地を蹴っていた。

いつの間に・・・一体どうやって調べたのだろうか。
恐るべしというか、さすがというか、建国六百年を誇る奏の情報網は侮れない。
見る見る小さくなっていく影を見つめながら、溜息を漏らすだった。