さあ台輔、戻りましょう       NEXT(日常)へ

「じゃあ、先のこと頼む」
「畏まりました」

朝議へ向かうため正寝を出た陽子を拱手して見送り、は足早に自室へ戻る。
陽子の側仕えであるは陽子から五日間の休暇を言い渡され、堯天へ降りようとしていた。

は女御達の間でも評判の美人、常に冷静で状況判断に優れ、どんな時でも穏やかな笑みを絶やすことはない。
優雅だが無駄のない仕草は新米女御の憧れでもある。
紫紺色の髪、瑠璃色の瞳、その瞳に見つめられれば女性でさえ毒気を抜かれ、うっとりとしてしまう。
その容姿から先輩女御達からは青藍と呼ばれ、可愛がられていた。
その如才の無さには誰もが好感を抱くに違いない。





堯天に降りたは街の賑わいには目もくれず、とある小さな宿舘へとその身を潜らせた。

宿舘の主人はが入ってくるのを確認するとニコリと微笑み、何も言わず房間へと案内する。
「此度は如何致しましょう?」
「そうですね、とりあえず四日程お世話になると思いますよ」
「わかりました、ただいま茶菓を用意させます」
そう言って主人が房間を出て行くと、は手早く簡素な袍へと着替えた。
高く結い上げていた髪をフワリと解き、下の方で緩く束ね、薄く施していた化粧を落とすと、先程までの麗人があどけなさの残る少女へと見事に変貌していた。

(さて・・・まずは主上の仰っていた店に行って・・・)





数日前、陽子はいつものように宮を抜け出し、堯天を散策していた。
歩き疲れて休憩をとろうと茶屋に入りくつろいでいる時、偶然隣に座っていた客が何やらヒソヒソと話している声が耳に入った。
周りの声にかき消され、途切れ途切れにしか聞こえてこないが、その話の内容に陽子ははっとした。
どうやら浮民を売買している店があるらしいということだった。
話をしている男二人は件の店の者のようだ。
男達が店を出ると、陽子は気づかれぬよう後をつけ、一軒の雑貨屋へと辿り着いた。

(街はずれの鄙びた場所ではあるが、見たところ普通の雑貨屋だな・・・)

数少ない周囲の店で買い物を装いながら何気なく様子を聞いてみる。
「あぁ、あの店かい?あそこの人間はよくわからないよ。ほとんど口きいたことないからね。」
「さあな、挨拶だってしやしないよ。」
「夕刻に店閉めてからも人の出入りが絶えないね、何だか薄気味悪くてね」
(なるほど、確かに何かありそうだな。気になるけど今日はもう帰らなければ景麒がうるさいし・・・)


そして王宮へ戻った陽子は調査をに命じたのだった。











日が傾きかけた頃、は宿舘を出た。

普段は陽子の優秀な側仕えであり、誰一人としてそれを疑わない。
しかし本来の使命は、間諜として陽子に情報を提供することだった。
傭兵として培ってきた知識と経験を埋もれさせてしまうのは惜しい。
それが百年という歳月をかけて積み上げてきたものならば尚更だ。



目的の店を見つけ、近くの大木の陰に身を隠すと息を潜めた。

日没と同時に店が閉まり、しばらくすると一人の男が店の裏門へと入っていった。
少ししてまた一人、辺りを気にしながら裏門へと消えていった。
そうやって裏門を潜った男が四人、だが数刻後、そこから出てきたのは四人の男に加え、女が二人。
男二人は収穫がなかったのか渋面でそれぞれ店を出て行った、がはそのうちの一人が一瞬こちらを見たような気がした。
残る二人はそれぞれ女を一人ずつ従え、満足げに帰っていった。

(ふーん、大きな組織と言うほどのものでもなさそうだし、確実な証拠さえ掴めば後は楽勝かな)
すっかり夜も更け、静まりかえった暗い道をは宿舘へ戻っていった。







翌日、は再び雑貨屋の前まで来ていた。
短く息を吐く。
(・・・さてと、行くか)


店の入り口まで行き、ニコリとあどけない笑顔を作って店の者に声をかける。
「こんにちわ」
「なんだ?もう店は閉めるところなんだがな」
中にいた男が億劫そうに答えながら声の主を見遣ると、其処には目を瞠る程の美少女が立っていた。

「あの、この近くに宿舘はあります?私、道に迷っちゃって・・・」
えへへ、とは無邪気に笑って見せる。
「ここら辺の者じゃないのか、一体どこへ向かうんだ?」
「えっと、特に決めてないです。仕事探しながらあちこち歩いてたらここまで来ちゃったんですよ」
男はちらっとを見やり、「ちょっと待ってろ」と奥へ入ってしまった。

程なくして奥から別の男が出てきての前に立った。
「泊まるところが無いんならうちに泊まっていくか?」
「えっ?でも・・・」
「お前仕事探してるんだって?何なら知り合いに紹介してやってもいいぜ」
「ええっ!ほんと?いいんですか?」
「ああ」
「ありがとうござます!」
は満面の笑みで無邪気にはしゃいでみせた、が、内心では正直面食らっていた。
あまりにもすんなりと事が運んでしまったからだ。
(何だか上手くいきすぎって気もするけど・・・ま、いっか)











その日の夜半近く、金波宮にある冢宰邸。
其処では冢宰である浩瀚が一人の男と会っていた。

人目を忍ぶように静かに入ってきたその男は浩瀚に一礼した。
「ご苦労、何かわかったか」
浩瀚は男に一瞥を投げ、静かに問うと再び筆を走らせた。

「はい、昨夜やはり売買がありました。それと・・・」
言い淀んだ男をちらと見遣り、「どうした」と先を促す。
「はい、少々気になることがございまして。・・・実は、昨夜例の店の近くで様子を伺う風の娘がおりました。堯天の小さな宿舘に泊まっているようですが、その娘が先程あの店に入っていきまして、それっきり・・・」
それを聞いて浩瀚は筆を止め、僅かに表情が厳しくなった。
(他にも探りを入れてる者がいるのか、それとも売られた姉を妹が取り戻そうとでもしているのか。前者の方が可能性としては高いが、もしや・・・)

以前から気になっていたことがある、確かめる良い機会かも知れない。
そう思い、男に問い質す。
「瑛泉、その娘の特徴は?」
「歳は二十前でしょうか、髪は紫紺、ごく普通の娘でしたが」
「瞳は瑠璃色ではなかったか?」
そう言われて瑛泉は先程見た娘の容姿を思い浮かべる。
何分、辺りは暗かったのではっきりと見たわけではない。
「さあ、そこまでは・・・ですが、確かに青かったかもしれません」
「・・・そうか」
(やはり思った通りだったか。しかし普段の彼女は見た目二十四、五歳だ、それが二十前とは・・・些か腑に落ちないが、恐らく間違いないだろう)


さすが慶東国の誇る敏腕冢宰、浩瀚は陽子が何者かを使って密かに街の様子を調べさせている事に気付いていた。
今まで数回「おや?」と不審に感じた事があった。
そしてその時にはいつも決まってある人物が休暇を取っているのだから、それが何を意味するのか大凡の見当が付くというものだ。
勿論このことは他の誰一人として気付いてはいないだろう。


「それで瑛泉、次の売買は?」
「はい、二日後に」
「では、その娘を買ってこい」
「・・・・・は?」
瑛泉は思わず頓狂な声を発してしまった。
だが瑛泉の戸惑いを気にも止めず、浩瀚はさらりと言い放った。
「頼んだぞ」
浩瀚の意図が掴めぬまま、だが命には逆らえず、瑛泉は承諾の意を告げた。
「・・・畏まりました」

瑛泉を下がらせ、浩瀚は軽くため息をついた。
「主上にも困ったものだ」
(今回は主上に譲るとするか、その代わりと言っては何だが・・・)
思いながら浩瀚は口端に笑みを浮かべていた。












はあれから粗末な房間へ案内されたが、常に見張りが居り、そこから一歩も出ることを許されなかった。
予想はしていたが、怪しまれないためにも一応の抵抗はしてみせる。
抵抗する度に男達の言葉や態度は乱暴になり、刃物をちらつかせ脅すようになっていた。

翌夜には二人の娘がの居る房間へ連れてこられた。
「明日、約束通りお前たちに仕事を紹介してやるさ、それまで大人しくしてるんだな」
不気味に笑いながら男は立ち去った。
(いよいよ明日か。。。証拠さえ掴めば後は逃げるだけ)







翌日夕刻、いつもより早めに政務を切り上げた浩瀚が出かけようとしていたところへ桓たいが入ってきた。
「おや、これは珍しいですね、お出かけですか。・・・ああ、さてはまた何か面白い情報でも掴みましたか」
楽しそうにが聞くと、浩瀚は目を細め笑みを浮かべる。
「まあそんなところだな。堯天に降りる、朝議には間に合うよう戻る」
「はいはい、お気をつけて」
は笑いながら態とらしく丁寧に拱手し、浩瀚を見送った。








日も沈み、店を閉めると男達はやってきた。
後ろから羽交い締めにされるような形で無理矢理歩かされ、別の広い房室へ入るとそこには客と思しき男数人が座っていた。
売買が始まりはかなりの高値で一人の男に買われ、他の娘もそれぞれ買い手が決まった。
(さてと・・・店の外に出たら機会を見計らって逃げなくちゃ)

店を出ると男達は自分の帰る方向へと散っていった。
と娘を連れた二組はどうやら途中まで方向が同じらしい。
このままではまもなく街の中心へと入ってしまう。
この状況で自分一人が逃亡を謀るのは些か不味いだろう。
下手をすればあの娘にも危害が及んでしまう。
(・・・まずいな、これじゃ逃げられないじゃないの)

がどうしようかと思考を巡らせていると、少し離れて歩いていた娘が突然男を振りきり、逃げようと暴れた。
「ふざけた真似しやがって!」
一瞬解放されたが、すぐに男は短刀を振り上げ、娘の腕を掴みにかかる。
(危ないっ!)

いくら職務だからとはいえ、それを黙って傍観できるほどの冷徹さは持ち合わせていない。
考える間も無く、咄嗟には掴まれていた腕を振りほどき、娘と男の間に割り込み、男を体当たりで突き飛ばした。
「うあっ!」
バランスを崩した男は地面に倒れ、その隙に娘は林の中へと逃れていったようだ。
「っ・・・!」
左腕に痛みを感じたが無視し、隠し持っていた懐刀を抜き・・・。

だが次の瞬間、を連れていた男が素早く倒れている男の鳩尾に一撃を入れ、同時にの腕を掴み走り出す。
「命令以上のことはするな!逃げるぞ!」
「なっ!?・・・」
ちぎれそうなほど強く腕を掴まれ、走りながらもの頭の中は必死に状況把握を試みていた。
(一体何なの!?この男敵じゃないの?命令以上・・・って、私だってそのくらいわかってるわよ、相手が二人だと思ったから仕方なく・・・って。・・・え!ちょっと待って、まさか・・・)

予想外の展開に思考が追いつかないまま、どうやら既に街の中心部まで来ていたらしい。
この男は何者なのだろう。
店でも他の買人とは違い大声を出したり笑ったりすることはなかった。
無愛想で仏頂面で横柄で・・・・・しかし、身のこなしは武人並みで隙がない。

男は一度立ち止まるとの左腕の傷を確かめ、布で傷口を縛り、再び歩き出しながら言った。
「お前を連れてこいと言われている。大人しくしていれば乱暴はしない、が、逃げるというなら力づくででも連れて行かねばならない」
「それは、誰かの命令だから?あなたもあの店を探ってたの?」
「・・・・・」
「私を連れてこいって、それは誰なの?」
「・・・・・」
「ちょっと!それくらい教えてくれたっていいじゃないのよ、どうして黙ってるの!?」
無言を押し通す男に苛立ちながら、気がつけば一軒の舎館へと入っていくところだった。

は諦めたように徐に嘆息した。
「わかったわ、もう逃げないから少し加減してくれない?腕がちぎれそうよ。それに相手が誰かくらい教えてよ」
「・・・会えば、わかる」
「・・・ということは、私が知ってる人、なのね?なら余計に教えてくれたっていいじゃないっ!」
まるで拗ねた子供のようなその言い方は半ば投げやりで・・・。



房室へと近づいてくる声を聞きながら浩瀚は自分の耳を疑っていた。
聞こえてくる声は、自分の知っているものとはあまりにかけ離れたものだったから。
それは少し幼さの残るよく通る高い声、俗に言う可愛らしい声であり、落ち着いた心地よい響きの普段聞き慣れている声色ではなかった。
(・・・ほおぅ、これはまた予想以上かもしれないな)
浩瀚は感嘆しながらも、おかしくて思わず笑みがこみ上げてくるのを堪えられない。

房室の外で足音が止まり、「連れて参りました」と低い声がする。

「入れ」
その声を聞いてはビクッ!と体を硬直させた。

心臓が飛び出すかとさえ思えた。
(今の声・・・ま、まさか冢宰?何故こんなところに・・・。えっ!・・・じゃぁ、この男は冢宰の・・・?もしそうだとしたら全てお見通しということだろう。だが、私が誰かまでわかっているだろうか、あの冢宰のことだ、知っていてもおかしくはない。それでも一応は悪足掻きしてみるか)

は俯き加減で房室へ一歩踏み入れ、そこで立ち止まった。
「今回はここまでだ、ご苦労だったな」
そう労いの言葉をかけられ、男は一礼すると静かに立ち去った。








は動けずにいた。

浩瀚は暫し黙ってを眺めている。

背中を冷たい汗が伝うのを感じながら、は一か八かの賭に出ることにした。
落ち着け!と自分に言い聞かせ、満面の可愛らしい微笑みを作り、思い切って口を開く。

「・・・あの、私を買ってくださった方ですよね?」
これでもか、というくらいの可愛らしい作り声で、ちょこっと首を傾げ、聞いてみた。
これにはさすがの浩瀚も一瞬目を見開き唖然とする、がすぐに「くつくつ・・・」と口元を押さえ笑い出した。
(わぁ、ここまで笑う冢宰見たの初めてだわ。・・・でも、この笑いの意味はどういう・・・)

何も言えずに考えていると、漸く笑いが収まったらしく浩瀚が口を開いた。
「これはこれは、また随分と可愛らしく変身したものだ。ここまでとは・・・恐れ入った。声色まで変えるとはな。大したものだ、
(うぅ〜、やっぱり。。。この方相手に、もしかしたら、なんて微塵でも考えた私が愚かだったわね)
一気に脱力し、思わず溜息をついてしまった。
(こうなったら開き直るしかない!)

覚悟を決め、姿勢を正して拱手する。
「ご無礼を致しました。全てお見通しのようですね。・・・私のことも、ご存じでしたか」
「大体はな、確信は無かったが・・・」
そう言って改めてを見つめ、再びクスリと笑う。
「これでは余程近しい者でないと見抜くのは難しいな」
「そうでないとやってる意味がありませんからね。ですが冢宰、主上には」
「言いはしない、主上はご自分で確かめないと気が済まぬ御方、今まで通りで良いだろう」
「はい、そうですね。冢宰がそう仰るのでしたら」
は相手が浩瀚だということもあり、自然といつもの喋り方へ戻っていた。

ふと浩瀚はの腕の布に気づき、ゆるりと近づいてくる。
袖にギリギリ隠れる場所だったが、ふとした仕草で見えてしまったらしい。
「怪我をしたのか」
「ほんの掠り傷です」
「・・・そうか」
言いながらの左腕をとり、布を解く。
驚いて咄嗟に腕を引くが、難なく制され「じっとしていろ」と浩瀚は静かに言う。

予期しない出来事にさすがのも動揺を隠せない。
「・・・あ・・の・・・・・」
「そう深い傷ではないが、消毒しておいた方がいいだろう」
言いながら慣れた手つきで簡単に処置を施し、新しい布を巻いていく。

(どうしよう。。。こんなこと皆に知れたら袋叩きにされちゃう)
人は動揺が大きすぎると思考がとんでもない方向へ突っ走ってしまうらしい。



慶東国が誇る優れものの冢宰は、その整った容姿と温和な性格から女官達の間でも憧れの的だ。
はそこまでの感情は無いにしろ、少なくとも嫌悪感を抱いたことがないのは事実。
見目良く紳士的な男とこのような状態で接して、何も感じないわけがない。

微かに柔らかい香の香りが思考を溶かしてしまいそうで、動かないようにと気を集中させるのが精一杯だった。

「あまり無茶をするなよ」
突然頭上から声がして思わず顔を上げてしまい、視線が合う。
労いの色が窺えるその声はとても柔らかく、慈愛に満ちていて・・・。
鼓動の高鳴りを感じ、慌てて視線を逸らそうとするが何故か出来ない。
(どうしよう、目を逸らせない、動けない。そんな目で見つめないで。吸い込まれちゃいそう。鼓動が・・・痛い・・・)



・・・そんな瞳で見るな。
軽い男だなどと思われたくはない、・・・それでもやはり己は一人の男に過ぎない。
初めて見た時から心の一部を占めていた女性、それが日を追う毎に少しずつ膨らんでいき・・・。
その女性と今、こうして二人きりで過ごすことの出来る時が来るのを、どれほど待ち侘びたであろうか。
このような状況で尚、堪えうるだけの理性など、持ち合わせてはいない。





見つめ合うこと暫し、やっとの思いで視線を逸らせたと思った瞬間、くいっと顎を持ち上げられ視界が遮られた。
(・・・えっ!?)

何が起きたか把握できず、だが次の瞬間、唇に柔らかく暖かい感触を覚え、はっと目を見開く。
目の前にある浩瀚の瞳は優しく微笑んでいた。
(うそ!こ・これって!私、冢宰と・・・!?)
正確には一方的に唇を奪われているといった方がいいのかもしれないが・・・

あくまでも優しく心を掻き乱すその心地よさに酔いしれながら、はそっと瞳を閉じる。
それを認めた浩瀚が腕をの細い腰に回し、同時に舌を絡ませてやると、の体から徐々に力が抜けていった。


そうしてどれほどの時が経っただろうか、漸く浩瀚がやんわりと微笑みながら口を開く。
「さて、私は夜明け前までには帰らねばならぬ。はここで休んでいくといい」







その日、朝議にはいつもと変わらぬ涼しい顔の浩瀚の姿があった。

朝議を終え、回廊を歩いていると、近づいてきて横に並ぶ人影。
「・・・・・」
横に並んできた割に何も喋らず、だが何か言いたげで・・・。
「何か言いたそうだな」
仕方なくそう聞いてやると、桓たいはくつりと小さく笑った。
「いえ、寝ていらっしゃらないのに清々しい顔をされてるな、と思いましてね」
何が言いたいのかは見当が付くが、喋ってなどやるものか、と軽く睨め付けてやる。
「私をからかって楽しいか」
「ええ、まあ何があったかは聞きませんけどね、長いつき合いですからね」
そう言っては笑った。



が金波宮に戻ったのはその日の夕刻。
陽子に報告をし、数日後には雑貨屋を含め、主だった売買関係者が捕まったらしい。




そして・・・
今日も金波宮は平和だ、もいつもと変わりなく働いている。
変わったことと言えば・・・
あれ以来、時折夜更けに冢宰邸に呼び出されては朝帰りすることと、陽子の間諜として動く際に密かに瑛泉が護衛としてつくようになったことだ。
このことを陽子が知って二人を問いつめるのは数年先のことだが・・・