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2014年度政府予算案の閣議決定にあたって(談話)


2013年12月24日

2014年度政府予算案の閣議決定にあたって(談話)



社会民主党幹事長
又市 征治

1.国民生活破壊の「消費税増税実現予算」、「悪循環予算」
 政府は本日の閣議で、一般会計の総額が過去最大の95兆8823億円となる2014年度政府予算案を決定した。12年度補正と13年度の「15か月予算」に引き続き、今回も13年度の補正予算と併せて編成したことにより、「2年連続100兆円」という過去最大のバラマキ予算となった。公共事業を中心とした大規模予算により、GDPを無理やり押し上げ、さらなる消費税増税を決定したいという政府与党の意図が透けて見える。税収の増加によって、「中期財政計画」で示した通りの「4兆円を上回る収支改善」をアピールしているが、その税収増加の背景には、消費税増税、さらにその前提として「15か月予算」による大規模バラマキ公共事業があったのであり、「民需」主導というより、「官需」主導による景気回復と消費税増税の決定であった。「好循環実現」のための予算というより、来年4月の消費税率8%への引き上げ、そして来年末になんとしても決定したいとされる消費税率10%への引き上げに向けた環境整備のための「消費税増税実現予算」であり、国民生活にとってはまさに「悪循環」予算である。

2.公共事業だのみのアベノミクス
 「概算要求」ではシーリングが撤廃され、「中期財政計画」では閣議決定を見送り、「予算編成の基本方針」においては公共事業予算に関し「抑制」との文言が入らなかったことからも明らかなように、与党などから歳出拡大要求が日増しに高まっていた公共事業関係予算は、国土強靱化やインフラ老朽化対策、円滑な物流の実現を通じた競争力強化等を名目として、対前年度比12.9%、6832億円増の5兆9685億円(特別会計廃止等の影響額を控除後の数字では、1.9%、1022億円増の5兆3518億円)となった。13年度補正予算の1.1兆円と復興特別会計における公共事業も合わせれば、アベノミクスとはまさに公共事業だのみである。鉄道施設の戦略的な老朽化対策の新設や帰宅困難者対策の強化、コンパクトシティの推進、防災・安全交付金の充実、老朽インフラ対策等は必要だが、国土強靭化やオリンピックの名のもとに、不要不急の大規模公共事業が今後も拡大していかないよう厳しくチェックしていく必要がある。
 一方、地域公共交通の確保・維持・改善の推進(生活交通サバイバル戦略)の予算は、305.6億円となり、前年度の305.8億円とほぼ同額となった。交通政策基本法の制定を踏まえ、一層の増額が必要である。

3.本格的な軍拡予算に反転し、「強い国づくり」進める
 防衛予算は、国家安全保障戦略の下で先に決定された新防衛大綱・新中期防が5年の期間中の所要経費を24兆6700億円(10年中期防の5%増、調達改革等合理化7000億円分含)としていたことを受け、2年連続の増額となった。昨年度の2.8%増で、民主党政権時代の一昨年度の予算(4兆7138億円)と比べると3.6%の大幅増で長年の防衛力スリム化の流れを完全に反転させた軍拡予算と言わざるを得ない。
 中国の「脅威」を口実に積極的平和主義と称して、装備体系も大幅に強化される。戦闘機部隊に航空偵察部隊を編入して13飛行隊に増やし、護衛艦はイージス艦を2隻増やして8隻態勢とし全体では6隻増の54隻体制とする方針だ。F35A戦闘機をはじめ水陸両用車やオスプレイ(ティルト・ローター機)、滑空型無人機など問題の指摘される装備の取得にも着手する。新規の後年度負担額は13年度の1兆7299億円から2兆0378億円へ3000億円超・17.8%もの大幅増となっており、新たな装備の取得に前のめりの姿勢が見える。

4.カネで基地を買おうとする安倍政権
 沖縄振興費は内閣府の概算要求額(3408億円)を上回る3460億円が措置された。要求額からさらに上積みする異例の予算である。14年度の沖縄振興費は13年度当初予算(3001億円)比で15・3%増となり、県が強く求めてきた那覇空港の滑走路増設の予算を概算要求額より30億円増やし14~18年度は毎年度330億円をあてることとしている。使途の自由度が高い沖縄振興一括交付金も87億円多い1758億円に積み増した。沖縄科学技術大学院大学関係も93.1%増となった。
 戦後も長年米軍占領下におかれ今もなお基地の重圧下にある沖縄県に十分な振興予算を確保することは当然だが、今回の予算はそのような立場から沖縄を配慮した結果とはとうてい考えられない。沖縄県を「重視」するポーズを示し、米軍普天間基地の移設先の名護市辺野古沿岸部埋め立てについて仲井真弘多知事から承認を引き出したいためであることは明らかだ。このような露骨な買収策が沖縄県民に通じるとはとうてい思えない。

5.ほど遠い安心の社会保障
 社会保障関係予算について、政府は2016年度の消費税増収分5.0兆円(国・地方)を、すべて社会保障の充実・安定に向けるとし、まず、基礎年金国庫負担割合2分の1の引き上げの恒久化に約2.95兆円を注ぎ込んでいる。年金制度の安定化に一定はつながるが、無年金・低年金の問題の解決にはほど遠い。先に決定された補正予算案では、低所得者等への影響緩和として「臨時福祉給付金」があるが、消費税増税が家計に与える影響を埋めることは到底できず、格差は一層、拡大する。
 ”社会保障の充実”の目玉となる子育て支援については、「待機児童解消加速プラン」(16年度末までに20万人分の保育の受け皿確保の目標)の推進に1841億円(国・地方)が充てられるが、保育所の民営化に一層の拍車がかかり、保育の質が置き去りになっている。子どもの安全が確保できるのか、保育士の働く環境が改善されるのか、2015年度に本格実施される子ども・子育て支援新制度に向けて懸念材料が多い。
 2014年度の診療報酬改定で、医師の人件費などに当たる「診療報酬本体」を消費税分を含め0.73%引き上げ、一方、医薬品や医療材料の公定価格の「薬価・材料費」を0.63%引き下げるため、ネットで0.1%引き上げとなる。診療報酬の消費税増税分の値上げすら認めず、実質マイナス改定となり、医療の質の低下は避けられない。
 先の国会では生活保護法が改悪され、社会保障制度改革プログラム法も成立した。来年4月より、70歳から74歳の医療費窓口負担は段階的に2割に引き上げられ、再来年度から一定所得者以上の介護利用保険料も2割に引き上げられるなど、公費の抑制・削減と利用者負担増が目白押しとなっている。消費税増税分が社会保障の充実につながるという口実はすでに破綻している。

6.「強い農林水産業」に疑問
 2018年の減反廃止方針を見据えて、新たな水田農業政策に基づく2年連続の増額予算(2兆3267億円)だが、「強い農業づくり」の名の下に、大規模農家に支援が集中し、小規模農家や中山間地域が切り捨てられるのではないかと強く危惧せざるを得ない。定着しつつあったコメの直接支払交付金を半減するのは、あまりに性急かつ一方的であり、小規模な農家を守る視点が欠けている。水田活用直接支払交付金を増額(前年度比10.1%増の2770億円)し飼料用米への数量払いを導入するが、収量に応じて助成金を増減させるやり方は、条件が悪く多収量が見込めない中山間地域などの切り捨てにつながりかねない。飼料用米の主要供給先である畜産経営を危機に陥らせかねないTPP参加との整合性も全く取れていない。「日本型直接支払」など新たな交付金制度も、所得の下支えに十分なのか、交付対象から外れる農家が広がる恐れはないのかなどの疑問が残り、半分を自治体負担としている点も大きな問題である。

7.混迷の地方財政
 リーマンショック後の危機対応モードから平時モードへの切替えを進めていくとされていた、2014年度の地方財政は、最大の焦点となっていた「別枠加算」について、財務省などの要求する廃止を免れたものの、13年度の9900億円から3800億円減額され、6100億円となった。交付税総額としては、13年度からの繰り越し1兆1349億円等によって、1769億円少ない16兆8855億円となった(2年連続の減額)。なお、来春からの消費税増税などで地方税収等が1兆4016億円伸びるため、使途が自由な一般財源総額としては、社会保障の充実分等(一般財源ベース)3492億円を含み6050億円増の60兆3577億円となった。
 増額を求めてきた「歳出の特別枠」(地域経済・雇用対策費)については、3000億円減の1兆1950億円となった。地域の元気創造事業への振り替え分(0.3兆円)を含めて実質的に前年度水準を確保しているとはいえ、地域における経済情勢は依然として厳しく、人口減少時代に対応して増大する新しい財政需要をきちんとカバーできるよう、充実を図るとともに、臨時的経費から経常的な経費へと転換を目指すべきである。
 地方交付税は地方団体共有の固有財源であり、国の政策目的を達成するために削減・算定は行うべきでない。地域の元気創造事業費3500億円の交付税の算定にあたり、各自治体のこれまでの行革努力や地域経済活性化の成果を反映して配分するのは問題である。
 偏在是正のための法人住民税の交付税原資化、地方法人特別税の継続は、分権・自治に逆行していると言わざるを得ない。また、速やかに廃止するよう求めてきた臨時財政対策債については、6180億円の抑制となったものの、5兆5952億円となり、巨額の財源不足に対し、再び国・地方の折半が続くことにもなった。公共サービスの質の確保と地方自治体の安定的な行政運営の実現のため、交付税の法定率の引き上げなど抜本的な対策を行うべきである。

8.被災地の復興軽視
 復興庁所管予算は2兆2441億円で前年から約7000億円の大幅減、復興特別会計全体(3兆6464億円)でも前年度当初比16.8%の減少である。13年度補正予算案(5638億円)と合計すれば復興特別会計は4兆2012億円となるが、それでも13年度当初(4兆3840億円)より2000億円近い減額となっており、「被災地復興が国家の最優先課題」と言いつつ、復興法人税の前倒し廃止と併せて安倍政権の復興軽視の姿勢が透けて見える。福島再生加速化交付金として1088億円を新規計上しているが、政府が早期帰還を強調するあまり、避難している人・住み続ける人・戻る人を区別しないで支援すると定めた子ども・被災者支援法の理念が蔑ろにされてはならない。
 復旧・復興のための道路・港湾整備費は、前年度比12%増の5432億円と大きく増やされた。大規模防潮堤をめぐり行政と住民との意見の相違が表面化している地域もあり、大規模公共事業ありき、着工ありきではなく、地域事情や住民の声に丹念に耳を傾け、きめ細やかに復興を進めるべきである。
 復興交付金は3638億円で、前年度当初予算から2280億円も減少した。同交付金は被災地の現状や被災者ニーズとの乖離を社民党も指摘してきたが、求められているのは被災地ごとに異なる復興進捗状況や被災者の要望に即応できる、柔軟性のある使い勝手の良い制度への転換であり、大幅減額ありきは本末転倒である。
 5年間の集中復興期間の予算枠は25兆円だが、13年度までで既に20.8兆円を積み上げており、14年度予算も合わせれば残額に余裕はない。復興はまだまだ道半ばであり、復興予算の無駄づかいの一掃とともに、政府は早急に復旧・復興関係の中味と規模について精査する必要がある。

9.原子力予算
 東京電力の責任追及や法的処理抜きに、福島第一原発の廃炉・汚染水対策、福島第一原発事故の賠償、除染・中間貯蔵施設の費用負担として国費をつぎ込むことは認められない。原子力関係予算では、廃止措置等に向けた基礎基盤研究開発や人材育成は必要だが、高速増殖炉もんじゅやITER計画はやめるべきである。

10.その他
 強権的な姿勢をカモフラージュするかのように、「若者・女性・子育て支援」や「就学支援」もアピールしているが、たとえば昨年度3950億円が計上されていた高校無償化制度に対する見直しにより創設される「奨学給付金制度」は、今年度わずか28億円となっている。本腰を入れて取り組む気があるのか、疑念を抱かざるを得ない。心のノートの全国の小・中学生への配布をはじめとする道徳教育の充実など、教育への安倍カラーの浸透も問題である。
 「低炭素・環境・自然共生を同時達成する社会の実現」を掲げ、「地熱・地中熱等の利用による低炭素社会推進事業」(16億円)、「先進技術を利用した省エネ型自然冷媒機器普及促進事業」(50.5億円)、「先導的『低炭素・循環・自然共生』地域創出事業」(53億円)「低炭素交通システム構築事業」(11.5億円)などを新規計上しているが、従来より大幅に後退した温室効果ガス排出量「05年比3.8%削減」の新目標では説得力がない。また、水俣病について、今年4月に最高裁が「複数の症状がなくても認定の余地はある」と患者認定の枠を広げる判決を出し、10月には国の公害健康被害補償不服審査会も単一症状だけでも患者と認める裁決を出したが、来年度予算案を見ても安倍政権がこれを受け止めた形跡はない。社民党が主張し続けている、不知火海沿岸や阿賀野川流域での健康実態調査の費用は今年も計上されていない。
 また、中小企業対策費についても、政府が中小企業を「日本経済の活力の源泉」と位置付けている割には昨年から42億円増の1853億円にとどまった。本気で中小企業を中心とした経済構造に転換するのであれば、補正予算ではなく、本予算一般会計において中小企業対策予算を増額すべきである。

11.「生活重視でgreenでclean」な予算への転換を
 まずは国民生活の向上なくして、「好循環」はありえない。政府は企業の成長が、賃金引き上げに向かう「好循環」と称するトリクルダウンを強調するが、小泉政権下の「景気回復」は国民に実感がなく、企業業績が回復しても賃金(所定内給与)の上昇にはつながらなかったことを忘れるべきではない。社民党は、一般会計、ならびに復興特別会計も合わせてどれだけ不要不急の公共事業に費やしたのか、今後も徹底追及するとともに、所得税・法人税を基幹税と位置づけ税収調達能力を回復し、「生活重視でgreenでclean」な予算への転換を求めていく。

以上