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『くぅ・・・・・』
(気持ち悪ぃ)
生命を感じさせない冷たい感触が、全身を取り巻いている。
それは意志を持って、己の身体を蹂躪していた。
『は・・・っぁ・・・』
(もう、どれだけ)
どれだけの時間、自分はこうしているのだろう。
下肢を割る質量がまた増やされ、喉が引き攣れた音を零す。
『ヤ・・・』
(あと、どれだけ)
ただひたすらに貪り尽くされる、感覚。
湿った音と自分の嬌声が、どこか遠くで聞こえる。
『アァ・・・ン』
(終わりに・・・)
死を以って終わりに出来るのなら、簡単だったのに。
もう、自分の意志では、指の一本すら動かせない。
『ヒ・・・ァア・・・』
(・・・終わりに・・・)
精神が発する拒絶を、快楽が押え込む。
脳髄までが痺れる、圧倒的な悦楽。
それが、彼の心を引き裂いて行く。
「ア・・・・・・」
涙で霞む視界の中に、良く知った影を見た気がした。
喩えそれが幻でも、己を開放してくれるのならば縋りたかった。
ゆっくりと、最後の力を振り絞り、彼は右手を差し出した。
これで終れるかもしれないという希望に、安堵の微笑を浮かべながら・・・・・・。
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「っ!」
八戒の目がまず捉えたのは、人の脚と思しき影だった。
深い闇の中、幻惑的なまでに白い脚が、空に浮いている。
よく見れば、仰向けにされた状態で蔦に絡め取られ、宙に吊るされたヒトである事が解った。
「は・・・ヤぁっ・・・・」
あからさまに、ソレと判る嬌声。
跳ね上がる爪先が、快楽を示す。
朧げな燐光が、蠢く蔓を照らし出していた。
「ぐっ・・・・」
込み上げる不快感に、八戒は己の口を手で押さえた。
それほどまでに、異様な光景。
光は他ならぬその人物から発せられている。
「アァ・・・」
小刻みに震える肉体。
八戒の位置からは、その顔は見えない。
触手のように意志を持って動く蔓は、その身体を余すところなく蹂躪していた。
ずるり・・・
湿った音と共に、脚の間に新たな蔓が増やされるのが見えた。
それに併せる様に跳ねる肢体。
「あ・・・・」
植物に犯される、ヒト。
そして、聞きなれたコエ。
白い四肢はよく見なれたもので・・・・。
「ご・・・じょう・・・・」
震える声で、その名を紡ぐ。
それが彼だと、信じたくなくて。
だが、その肢体の向こうに幽かに見える緋色は・・・間違えようもない、悟浄の・・・。
「ひぅっ!」
不意に身体を翻され、悟浄の喉から悲鳴が上がる。
ガクリ、と反動をつけて頭と脚の位置が入れ替わり、紅が宙に舞う。
八戒の目の前、項垂れる様に下げられた顔は、紅髪に隠され依然として見えない。
「ア・・・」
そして彼を陵辱する蔓の動きも、留まる事はなく。
「・・・ァア・・・」
熱に浮かされたような声も、止む事を知らない。
(悟浄・・・)
次第に遠くなる音。
八戒の目に映る全てが、現実味を失って行く。
「あ・・・」
ゆらり、悟浄の髪が揺れて、その顔が僅かに覗く。
情欲に潤んだ瞳が、八戒を捉える。
その紅玉にいつもの光はなく。
「あぁ・・・・」
ソレハ、彼デハアリエナイヨウデ・・・
誘うように、その腕が伸ばされ・・・
(・・・ご・・・)
『パシッ』
八戒の耳元で何かが弾け、
「アアアァアァァアアァアァァァァァァ!!」
全てを引き裂くかの様な叫びを最後に、八戒は意識を閉ざした。