偽御伽草子2・貴方もいい年なんですから
そろそろ交神して親を安心させてほしいわ
と電話でグチグチ言われたり

水花様


 
  一人の美少年(顔だけ)が、人型に穴があいた壁を、トンカントンカン直している。
「何で俺がこんな事・・・ぐちぐち」
「当然です。みさき様が原因なのですから」
 穴の向こうから少女(メガネ)が答えた。

  少年はこの家の当主であるみさき。
  少女はこの家のメイドであるイツ花。
  イツ花がやってきてから数日がたっていた。

「いいじゃねーか抱くぐらい!」
「いいわけないでしょ!」
 ふてくされていたみさきが、やおら真剣な表情になって聞いてきた。
「なあ、イツ花・・・」
 いつもと違う雰囲気にとまどう。
「はっ、はい」
「もしかして、まだ乙女?」
「イツ花ビーーーーーーームッ!!!」
「あじゃあーーーーーーーー!」
 

「はー、ごちそうさま。今日のご飯もおいしかったよ。米と山菜だけでもいけるもんだねえ」
「ありがとうございます」
 二人は朝食をすませてくつろいでいた。
 ずずずっ。
 お茶を一杯飲んでから、イツ花が話を切り出す。
「みさき様、お話があります」
「ん?何?初めてでも俺は気にしないよ、優しくするから」
「違いますっ!そうじゃなくて交神のことです!」
「はっはー、イツ花怒ってばっかりだと、かわいい顔がもったいないぞ」
 本来、イツ花は笑顔が一番。
 そうは思うのだが、ついついからかってしまう(半分は本気だが)。
「怒らせるような事言わないで下さい・・・」
「うんうん、わかったよ」
 全然解ってなさそうな顔で言う。

(みさき様って・・・)
 ここ数日、いっしょに暮らしてみたがいつもふざけてばかりで、逆にイツ花は怒ってばかりいる。言ってることは、どこまでが本気なのか解らないし、自分の置かれた立場を理解しているのかどうか。
(まったく、どこに本心があるのかしら)

「ところでイツ花」
「はい?」
「交神とは何だ」
「・・・」
 

「現在みさき様ただお一人。兎にも角にも、お子さまを造っていただけないと、血が途絶えてしまいます。そこでひとつ、神様と交わっていただきたく存じます」
「本来、交神するためには奉納点が必要なのですが、今回は特別にタダで行う事ができます」
(お試しサービスみたいなものか)
「こちらが交神できる女神様のリストです。どなたかをお選び下さい」
  そう言って書類を差しだす。
「見合いみたいだな・・・」
 みさきはそれの作りを見てつぶやいた。
 

「こどもねえ・・・」
 今まで何人もの女性と契ってきたが、もちろん子供はできなかった。
 だからこそ、気軽に付き合ってきたわけだが。
 自分が子持ちに成るなどピンとこない。
「子供ねえ・・・」
(まあ、いいか)
 

 リストは姿絵付きの良くできたものだった。
「ふーん、四人だけなんだ」
「まあ最初ですから」
 イツ花にリストを差しだし、
「じゃあこの四人で」
「・・・・・・は?」
「だから四人」
「・・・・・・」
「だーいじょうぶ。みんな愛するさ」
「あほかーーーーーーーっ!」
 リストで思いっきりはたく。
「痛ッ!角あたったぞ角!」
「何言ってるんですかっ!一人に決まってるでしょう一人に!」
「せこいこと言うなよ!四人がOKって言ってるんだぞ!全員選んであげなきゃ失礼じゃないか!」
「その方がもっと失礼だー!」
「ばっか俺の人となりを知れば全然OKー」
「絶っ対!断られると思います」
「とにかく四人!」
 イツ花はポンッとみさきの肩に手をおき、にっこり笑って、
「一人です」
「あ痛っ!痛っ痛っ。肩おもいっきり握るな痛い痛い」
「一人です」
「みしみしいってるー。ほねっ、骨がーーーー!」
「一人」
「はいいいい!わかりました!うん一人、一人でいいです」
「まあさすがみさき様。納得して下さってよかったです」
 そう言って手を離す。
 みさきの肩にはくっきりと指の跡が残っていた。
(納得しなかったら折ってたんじゃ・・・)
 

 自分は今、天界にいる。
 ここは自分のいた世界と、どこか似ているようで、似ていない。
 土も空も木も風も川も建物も日本であるようで、ない。
「空気が濃いな・・・」
 イツ花曰く「霊気が濃い」のだそうだ。
 俺はここに来る前のことを思い出していた。
 

「いいですか、これから私が天界への扉を開きます」
 巫女姿に着替えたイツ花が、儀式の準備をしながら言う、が、みさきは彼女の格好をうれしそうに見ている。
「いきなり抱き付かないで下さいよ」
 みさきを、ねめつけながら警戒した声で警告する。
「さすがに何度もしないさ、俺も」
(何度もしておいて良く言う)
 心の中でつっこむイツ花に、問いかける。
「扉ったって、ここただのほこらじゃん」
 そう。ここは家の近くのほこら前だ。
 ほこら自体は、すぐに行き止まりである。

「はい。ですから私の力で、一ヶ月間ほこらに天界への道と扉を造ります。そしてそこを通って天界へ行って下さい」
「っへー、そんなことできるの」
「ただし」
 念を押す。
「天界は霊気が存在していて、普通の人間ではすぐに死んでしまいます。そこで交神の儀の間、霊気の中でも大丈夫なよう、みさき様に奉納点を、今回は私の力をですが、送り続けます」
「せんせー、霊気ってなんですかー?」
「神様の出す力のようなものです。そして奥へ行くほど神様は強く、霊気は濃くなっていきます。私の力では、天界の入り口付近までしか行けません」

「つまり、より多くの女に会うためには、たくさんの奉納点が必要ということか」
「どうしてそんな解釈になるんですか!言っときますけど、間違っても奥へ行かないで下さいよ。死にますから。いえむしろ死にますか?死んでいいんですか?死んでくれますか?」
「なんか俺に死んでほしいのか・・・」
「いえ、十分やりそうでしたので」
(やる気だったけどね・・・)
 やめとこうとみさきは思った。

「それで、交神相手を誰にするのか決めましたか?」
「いいや、直接会ってから決める」
「まあそれがいいでしょう。時間は一ヶ月ありますから」
(うまくいけば四人とも・・・)
「だめです」
「なっ、何が?」
「顔にでてますよ」
 

 夜。
「それでは交神の儀を始めます」
 すっと空気が張りつめる。
 しばらくしてーーー。
 転々とイツ花が舞い始める。
 一心不乱に体を動かしながらも、顔は笑っていた。
 たいまつの明かりに照らし出されたイツ花は、さながら天女のようだと、
 みさきはみとれた。
 

 一舞終わって。
「さあみさき様、ほこらへ行って下さい」
「ん。ああ・・・、もう終わりか?」
「いいえ、しばらくしたらまた舞わないといけません」
「・・・もしかして一ヶ月ずっと?」
「一日一回は。でも、今回だけですよ」
「はー。んっじゃ、行ってくらー」
 そう言ってひょいひょいと、ほこらへ入っていった。
「神様、どうか一人はあの方と交神して下さいね」
 可能性は低いと思いながらも、心から願った。

「さて・・・、もう一舞」
「その前にギュッとな」
 後ろから抱いてきた。
「イツ花ビーーーーームッ!!!」
「おおっと」
 ひょいとイツ花ビームをかわすみさき。
「そうそう何度も当たるもの・・・」
「拡散イツ花ビイイイイイイーーーーーーームッッ!!!!!」
「どぎゃわーーーーーーーーーーー!!!」

「とっとと行けーーーーーーーーーー!!!」
 

 そんなこんなで天界に行ったみさき。
 無事一ヶ月後に帰ってきましたとさ。
 

  ギャフン!

あとがき
今回はちょっと説明が多くて、読みにくなってしまいました。
でもまあ、自分の中で交神というのはこんな感じになってます。
にしても、イツ花がだんだん壊れていく・・・。

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