一人の美少年(顔だけ)が、人型に穴があいた壁を、トンカントンカン直している。
「何で俺がこんな事・・・ぐちぐち」
「当然です。みさき様が原因なのですから」
穴の向こうから少女(メガネ)が答えた。
少年はこの家の当主であるみさき。
少女はこの家のメイドであるイツ花。
イツ花がやってきてから数日がたっていた。
「いいじゃねーか抱くぐらい!」
「いいわけないでしょ!」
ふてくされていたみさきが、やおら真剣な表情になって聞いてきた。
「なあ、イツ花・・・」
いつもと違う雰囲気にとまどう。
「はっ、はい」
「もしかして、まだ乙女?」
「イツ花ビーーーーーーームッ!!!」
「あじゃあーーーーーーーー!」
「はー、ごちそうさま。今日のご飯もおいしかったよ。米と山菜だけでもいけるもんだねえ」
「ありがとうございます」
二人は朝食をすませてくつろいでいた。
ずずずっ。
お茶を一杯飲んでから、イツ花が話を切り出す。
「みさき様、お話があります」
「ん?何?初めてでも俺は気にしないよ、優しくするから」
「違いますっ!そうじゃなくて交神のことです!」
「はっはー、イツ花怒ってばっかりだと、かわいい顔がもったいないぞ」
本来、イツ花は笑顔が一番。
そうは思うのだが、ついついからかってしまう(半分は本気だが)。
「怒らせるような事言わないで下さい・・・」
「うんうん、わかったよ」
全然解ってなさそうな顔で言う。
(みさき様って・・・)
ここ数日、いっしょに暮らしてみたがいつもふざけてばかりで、逆にイツ花は怒ってばかりいる。言ってることは、どこまでが本気なのか解らないし、自分の置かれた立場を理解しているのかどうか。
(まったく、どこに本心があるのかしら)
「ところでイツ花」
「はい?」
「交神とは何だ」
「・・・」
「現在みさき様ただお一人。兎にも角にも、お子さまを造っていただけないと、血が途絶えてしまいます。そこでひとつ、神様と交わっていただきたく存じます」
「本来、交神するためには奉納点が必要なのですが、今回は特別にタダで行う事ができます」
(お試しサービスみたいなものか)
「こちらが交神できる女神様のリストです。どなたかをお選び下さい」
そう言って書類を差しだす。
「見合いみたいだな・・・」
みさきはそれの作りを見てつぶやいた。
「こどもねえ・・・」
今まで何人もの女性と契ってきたが、もちろん子供はできなかった。
だからこそ、気軽に付き合ってきたわけだが。
自分が子持ちに成るなどピンとこない。
「子供ねえ・・・」
(まあ、いいか)
リストは姿絵付きの良くできたものだった。
「ふーん、四人だけなんだ」
「まあ最初ですから」
イツ花にリストを差しだし、
「じゃあこの四人で」
「・・・・・・は?」
「だから四人」
「・・・・・・」
「だーいじょうぶ。みんな愛するさ」
「あほかーーーーーーーっ!」
リストで思いっきりはたく。
「痛ッ!角あたったぞ角!」
「何言ってるんですかっ!一人に決まってるでしょう一人に!」
「せこいこと言うなよ!四人がOKって言ってるんだぞ!全員選んであげなきゃ失礼じゃないか!」
「その方がもっと失礼だー!」
「ばっか俺の人となりを知れば全然OKー」
「絶っ対!断られると思います」
「とにかく四人!」
イツ花はポンッとみさきの肩に手をおき、にっこり笑って、
「一人です」
「あ痛っ!痛っ痛っ。肩おもいっきり握るな痛い痛い」
「一人です」
「みしみしいってるー。ほねっ、骨がーーーー!」
「一人」
「はいいいい!わかりました!うん一人、一人でいいです」
「まあさすがみさき様。納得して下さってよかったです」
そう言って手を離す。
みさきの肩にはくっきりと指の跡が残っていた。
(納得しなかったら折ってたんじゃ・・・)
自分は今、天界にいる。
ここは自分のいた世界と、どこか似ているようで、似ていない。
土も空も木も風も川も建物も日本であるようで、ない。
「空気が濃いな・・・」
イツ花曰く「霊気が濃い」のだそうだ。
俺はここに来る前のことを思い出していた。
「いいですか、これから私が天界への扉を開きます」
巫女姿に着替えたイツ花が、儀式の準備をしながら言う、が、みさきは彼女の格好をうれしそうに見ている。
「いきなり抱き付かないで下さいよ」
みさきを、ねめつけながら警戒した声で警告する。
「さすがに何度もしないさ、俺も」
(何度もしておいて良く言う)
心の中でつっこむイツ花に、問いかける。
「扉ったって、ここただのほこらじゃん」
そう。ここは家の近くのほこら前だ。
ほこら自体は、すぐに行き止まりである。
「はい。ですから私の力で、一ヶ月間ほこらに天界への道と扉を造ります。そしてそこを通って天界へ行って下さい」
「っへー、そんなことできるの」
「ただし」
念を押す。
「天界は霊気が存在していて、普通の人間ではすぐに死んでしまいます。そこで交神の儀の間、霊気の中でも大丈夫なよう、みさき様に奉納点を、今回は私の力をですが、送り続けます」
「せんせー、霊気ってなんですかー?」
「神様の出す力のようなものです。そして奥へ行くほど神様は強く、霊気は濃くなっていきます。私の力では、天界の入り口付近までしか行けません」
「つまり、より多くの女に会うためには、たくさんの奉納点が必要ということか」
「どうしてそんな解釈になるんですか!言っときますけど、間違っても奥へ行かないで下さいよ。死にますから。いえむしろ死にますか?死んでいいんですか?死んでくれますか?」
「なんか俺に死んでほしいのか・・・」
「いえ、十分やりそうでしたので」
(やる気だったけどね・・・)
やめとこうとみさきは思った。
「それで、交神相手を誰にするのか決めましたか?」
「いいや、直接会ってから決める」
「まあそれがいいでしょう。時間は一ヶ月ありますから」
(うまくいけば四人とも・・・)
「だめです」
「なっ、何が?」
「顔にでてますよ」
夜。
「それでは交神の儀を始めます」
すっと空気が張りつめる。
しばらくしてーーー。
転々とイツ花が舞い始める。
一心不乱に体を動かしながらも、顔は笑っていた。
たいまつの明かりに照らし出されたイツ花は、さながら天女のようだと、
みさきはみとれた。
一舞終わって。
「さあみさき様、ほこらへ行って下さい」
「ん。ああ・・・、もう終わりか?」
「いいえ、しばらくしたらまた舞わないといけません」
「・・・もしかして一ヶ月ずっと?」
「一日一回は。でも、今回だけですよ」
「はー。んっじゃ、行ってくらー」
そう言ってひょいひょいと、ほこらへ入っていった。
「神様、どうか一人はあの方と交神して下さいね」
可能性は低いと思いながらも、心から願った。
「さて・・・、もう一舞」
「その前にギュッとな」
後ろから抱いてきた。
「イツ花ビーーーーームッ!!!」
「おおっと」
ひょいとイツ花ビームをかわすみさき。
「そうそう何度も当たるもの・・・」
「拡散イツ花ビイイイイイイーーーーーーームッッ!!!!!」
「どぎゃわーーーーーーーーーーー!!!」
「とっとと行けーーーーーーーーーー!!!」
そんなこんなで天界に行ったみさき。
無事一ヶ月後に帰ってきましたとさ。
ギャフン! |