偽御伽草子・イツ花がやってきたけど
この当主は全っ然っダメだわこりゃ

水花様

 
10月の初め。
 山の中の一軒屋。
 

「御免下さーい」
 ボロボロの玄関で、16・7頃の少女がそこの家主をたずねていた。
「みさき様、いらっしゃいませんか??」
 何度か呼びつづけて、ようやく
「あ?ん?」
 奥から一人の少年が目をこすりながらのっそりと現れた。
 まだ若い、13・4の子供とと言っていい。

「あんた誰?」
あくびをしながら、聞く。
 ちょっと引きながら少女は、
「え、ええ。あー、ん゛ん゛っ。
 私イツ花と申します。
 神様からみさき様のお世話をするようにいわれ、やってきました。
 よろしくお願いしまーす」
「イツ花・・・?
 そういえば、夢で神様とやらがそんな事ゆってたような・・・」
 少年、みさきはへぇという顔をして、ジロジロとイツ花を見る。

 少女の身なりは、ピンクの着物をきっちりと着て、目元に円いガラスメガネをかけている。
 しかし何よりみさきの心を引きつけたのは、愛くるしい顔立ちと、元気な声による彼女の空気のあかるさであっ た。

「キミ、結構かわいいいねえ」
「・・・はっ?」
 すっとんだ返答に思わずたずね返す。
「あっ・・・」
 みさきの手がイツ花の腕を強く引っぱる。
 体勢をくずし、倒れ込むイツ花の体を、うまくくるりと入れ換え押し倒す。
「なっなっ何するんですかっ」
「まあまあ」
 鼻と鼻がふれ合いそうな距離で、にっこりと笑うみさき。
 もちろんイツ花の顔はひきつっている。
「い、い、いっ・・・」
「何?」
「イツ花ビーーーーーーームッ!!!」
「どびゃらはーーーーーっっ!」

解説:イツ花はその怒りが120%になるとメガネからイツ花ビームを発射することができるのだっっっ!その威力は カマドウマ700匹分だったりしなっかったり!

 壁をつきやぶって外まで吹き飛ばされたみさきは、三回転半して木にぶつかってようやく止まった。

「何すんですかー!いくらご主人様でもいきなり何しとりますかー!?」
 怒りでかなり無茶苦茶だ。
 みさきは「いいじゃん・・・」と言ってからがっくりと気絶した。
 
 

 みさきは、目を覚ますと、ふとんに寝かされていた。

 もうろうとした頭で見回す。
(俺の家か・・・?)
 しかしその部屋は、彼の知っているそれとは大きく異なっていた。
 確か朝には、着物をぬぎっぱなしで、四隅にちりがたまっていたはず。
 なのに今では、きれいに片され、掃かれてある。

「あっ、気がつきましたか」
 荷物をかたづけているイツ花が廊下から声をかけてきた。
 思わずビクリと身がまえる。
 今まで家で声をかけられたことなど無かったから。
「あ、ああ・・・」
 内心の動揺を押し隠すように、無愛想に答える。
「ご無事でなによりでした」
 イツ花は気にした風もなく、ほっとした顔で言う。
 そしてとなりにきちんと正座して、とうとうと説教を始めた。
「いいですか、二度とあのような事をなさってはなりませんよ。仮にも勇者様のご子息たるみさき様が、いきなり女性を押し倒すなど・・・」

 イツ花の言葉を右から左に流しながら、みさきは不思議な気持ちになっていた。
(なんで俺はこいつにこんな事を言われてるんだ?)
 これまで誰かに説教を聞かされたことも、心配された覚えもなかったからー。
 
 心が、おちつかない。

「い、い、で、す、か!?」
「えっ?」
 いつの間にか、近くでイツ花が目を覗き込んでいた。
「い・い・で・す・ね!!」
 目が怖い。メガネがきらりと光った気がする。
「はい・・・」
 そう答えるしかなかった。
「なら結構です。それでは、そろそろ夕食をお作りしましょう」
 彼女はそうにっこりと笑って、台所へ歩いていった。
 
 

 イツ花は台所でお米をといでいた。夕食とはいっても、この材料では精々ご飯と漬け物しか作れない。
 せっせと手を動かしながら、イツ花はみさきの事を考えていた。
(・・・まったく、なんて事をするんでしょう。いったい何を考えているやら、よくわからない人ですね。私・・・、やっていけるのかなあ)
 つと、手を休め、
(町で聞いた良くない噂は本当だったんですね)
 曰く、『三国一、女に手の早いマセガキ』

「神様、人選誤ったんじゃ・・・」
 ついボソッと口をついてでた。
 しかし頭をブンブンと振って、
「いいえ、そんな事はありませんよね!きっとみさき様はご立派な戦士となられます!それを補佐するのがイツ花の役目!」
 自分に言い聞かせるように、独りごつ。

 ふと後ろに人の気配を感じ、抱きつかれた。
「いーつーかー」
「イツ花ビーーーーーーーームッ!!!」
「でどがしゃーーーーーーっ!」

「何すんですかーーーっ!」
 みさきだった。
「いや、かっぽう着のうしろ姿に、こう俺の心がぐっとだな・・・」
「ぐっとしないでください!あなた本当に源太様とお輪様の息子ですカー?」
「さあ?」
「さあじゃないでしょあれだけ二度としないで下さいっていったでしょなのに何でそーゆー事するんですかいいですか・・・」
 みさきはすでに気絶していた。
 
 

 月が真上に来る頃、そっとふとんを抜け出す影があった。
 影の正体はみさき。
 むかう所は、イツ花の寝室。
 こりずに夜這いをかけようというのだ。

(俺って、かわいい女は見逃さないんだよね)
 何故、そうなのかは解らない。しかしそれが自分の性だとは解っていた。
 そうやって、気に入った多くの町娘と関係を持ち、色事士としてはちょっとした有名人になった。
 よく見ると、みさきはなかなか、いやかなりの色男ぶりである。そして女性に対して押しの強い性格ではあるが、どこかそれを許してしまう軽さがあるのだ。
 その顔と性格が女の心をつかむのか。

(イツ花はかわいいなあ)
 だからよばう。

 音を立てずにふすまを開ける。
 ふとんのふくらみを確認してにやっと笑い、枕元に近づく。
(イツ花ちゃーん)
 ばっとふとんをめくる。
「・・・・あれ?」
 そこにいたのはイツ花でなく、丸められた毛布であった。

「・・・みさき様・・・」
 背後から静かに声をかけられる。
 ゆーっくりと、ひきつった顔で後ろを向く。
 幽鬼のようにたたずむイツ花がいた。暗くて顔がよく見えない。
「みさき様・・・、あなたって人は・・・」
 雲からぬけた月明かりが、メガネに反射してキラリと光った。
「め・・・」
「め?」
「メガ・イツ花ビーーーーーーーーーーーーームッッ!!!!」
「だはーーーーーーーっっっっ!」

みさきの今日の健康度 0

「もう知りません!」
 ピシャリと戸を閉められ、冷たい夜空の下でだらだら頭から血を流しながらもつぶやく。
「ふふっ、なーに、時間はたっぷりあるさ、イツ花」
 

ギャフン!


 
あとがき
イツ花ファンだけでなく、全ての俺屍ファンを敵にまわしたかなーと、内心不安です。まあ、笑って許して頂ければ幸いかなと・・・。

こんな当主がいたらイツ花も大変だろうという、ありがちなネタでしたが、本来暗くなりがちな話も笑い飛ばせたらいいなという事で書きました。

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