一通り大暴れすると、由良はお雫に捨て台詞を残して帰っていった。
緋虎は立ち去る由良を追いかけると、気に掛かっていた父・影虎のことを訪ねてみたのだが、由良は寂しそうな笑顔を浮かべただけで何も言わずに帰ってしまった。 後日、別の場所で会ったときに笑いながら由良が話してくれたのだが、影虎はどうやら由良の元を出ていってしまったらしかった。 「なんだか、心に決めた人がいる、とか言ってたかねェ」 そう言って由良は笑い飛ばした。が、その笑みはどこかしら哀しく見える。 「そりゃぁ、一回限りの逢瀬だし、影虎は人間だし……」 緋虎の方を見ずにしゃべり続ける由良の瞳は、少し潤んでいるように緋虎は思った。 「これでも結構本気、だったんだけどね……」 家に帰ってこの話をするとお雫は笑っていたが、それもどこか本気じゃないように緋虎は感じていた。 きっと、お雫も由良と同じ気持ちなのだ。だから、こうして自分と暮らしているのだと。 そんなこんながあって、結局あれだけ大騒ぎした食事に関しても見た目はともかく味は普通だと言うことが分かり、緋虎がようやくここの暮らしになれてきた、そんな頃………… 「お雫ーッ!!」 突然、お雫の名を叫びながら一人の男が物凄い勢いで屋敷に駆け込んできた。 何事かとあっけにとられていた緋虎の眼前で、男はお雫の身体を抱きしめる。 「会いたかったぞ、お雫!」 「は、はぁ……」 お雫もいきなりの展開に目をパチクリさせていたが、緋虎の視線に気付いてばつの悪そうな顔で笑った。 「お、おい……お前……」 少々怒りでこめかみを引きつらせながら、我に返った緋虎がいつまでもお雫に抱きついている男を引き剥がしてみると…… 「おまっ……えぇッ!?」 どことなく自分に似た見覚えのある顔立ちに、緋虎が驚愕の声を上げる。 「よぉっ! 親父殿、久しいな!」 「……緋虎さまのご子息、墨虎さま……」 それまで黙っていたお雫が、静かに、そして申し訳なさそうに口を開いた。 「私の、交神相手さまです……」 「にゃにィィッ!?」 「おーいっ、緋虎ァ!」 とそこへ、嬉しそうな声を上げながら由良がやって来た。 不吉な予感満載で振り向いた緋虎の目に、見知らぬ男を連れた由良がにこにこしながら立っている姿が入ってくる。 「雪虎っていうんだけどさァ、なんだかあんたの孫なんだってね。ということは、影虎のひ孫でェ……やっぱり血は争えないのか、いい男だろォ?」 猛烈なめまいを感じて緋虎はその場に崩れ落ちた。 もはや周囲の喧騒も緋虎の耳には入ってこない。 緋虎の脳裏にあるのはただ一つ──これから一体どれほどの夫と父が自分の元に訪れるのか、それだけを考えていた。 |
でも、笑えなかったら寒いだけなので、笑えなかった人はごめんなさい。 「陽炎の由良」さまと「那由多ノお雫」さまを出したのは、奉納点の近さや火と水という反する属性の女神であるというようなことからで、好き嫌いの問題ではないです。 なのでェ、もしイメージを壊してしまったらごめんなさい、です。 実際には、それほど「夫」や「父」が増えることはないでしょうね。奉納点低いし。 ちなみに、「火々神家の系譜」は響きがよかったので使いました。実際には「火々神家復興記」でした。 |