野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates



 これは本当に現代のことなのか。
 超満員で立ち見も出た、徳島ホールでの徳島でみれない映画をみる会の特別映画会。上映されたのはアフリカ映画の父と呼ばれる、ウスマン・センベーヌ監督の「母たちの村」。
 土を塗り固めた住居やモスク、昔ながらのアフリカの美しい村、そして大地から響いてくるような音楽。
 しかし、この映画のテーマは深くて重いものだった。FGM(女性性器切除)、いわゆる女子割礼の理不尽さをうったえ、立ち上がった母たちの姿を描いたものだ。
 この2000年も前から続いているというFGMは、現在アフリカの女性、1億〜1億4千万人が受けているという。平均年齢50歳として、1日当たり8000人の少女が受けている計算になる。
  小刀やガラスの破片、カン詰めの切り取られたフタなどが使われ、出血によるショック死や、何人もを同じ道具で切除するため、エイズなどの感染症で死に至ることもあるという。
 麻酔なしの痛い割礼をいやがる4人の娘たちのために、主人公のコレは、男たちの自分勝手な因習をやめさせようと決意する。
 コレは仲間の女たちに伝える。アラーの神が定めたことと男たちは言うが、メッカに巡礼する女たちは割礼などしていない、とラジオが言っていたと。
 男たちは、コレたちからラジオを取り上げ、村の広場で焼いてしまう。その広場で、夫からムチ打たれるコレの姿を見て、会場では泣き出す女性も・・・。
 女性が男たちの所有物のようにあつかわれ、その「浄めの儀礼」をすまさない女は嫁にしない、という村の因習の中で、異議申し立てをするには、どれだけの勇気がいることか。
 エンドタイトルが映し出される中、バックにアフリカの民族音楽がくり返し流れる。
 “母はすばらしい、永遠の命を生み出すのだから、女はすばらしい〜”
 この映画が、アフリカの母たちに勇気を与えてくれることを。
 最近、徳島で、ドメスティック・バイオレンスで妻に会うことを禁止された男が、探偵をつかって居場所を見つけ出し、子供たちの目の前で妻を刺し殺す事件があった。
 人が人を支配し、痛めつけるという理不尽なことは、遠いアフリカでだけ、起こっているのではないのだ。 

 建築家 野口政司
 2007年1月30日(火曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
母たちの村