野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates



 あさって10月6日は中秋の名月だ。
 人間以外の動物もお月見をするのかどうか、私には分からないが、いわむらかずおさんの絵本 『14ひきのおつきみ』 ではねずみの家族が木の上に月見台をつくってお月見をする。
 いわむらさんの「14ひきシリーズ」は、おとうさん、おかあさん、おじいさん、おばあさん、そしてきょうだい10匹の合わせて14匹のねずみの大家族の物語だ。森の中の豊かな自然の移ろいとともに、ねずみたちの生活がやわらかな描線と色合いで描き出されている。
 いわむらさんの絵本のことを教えてくれたのは、絵本大好き人間の I さんだ。ご自分の家の設計を頼むとき、こんな家が理想なんですと、バージニア・リー・バートンの絵本 『ちいさいおうち』 をプレゼントしてくれた方だ。
 そして、プレールームに絵本がいっぱい置ける I さんの家が完成し、いよいよ明日から引っ越しという日、I さんは設計のお礼にと1冊の本をくださった。
 それが、いわむらかずおさんの 『14ひきのひっこし』だった。ねずみの大家族が、森の中の木の根っこを新しいすみかにするために、みんなが力を合わせて巣をつくり、引っ越すお話だ。
 この絵本を読んで、私は I さん一家が新しい家を大切にし、みごとに住みこなしていくだろうと確信したのだった。
 この 「14ひきシリーズ」 は、『おつきみ』
『ひっこし』 のほかにも 『あさごはん』 『さむいふゆ』 など全部で11冊のすてきな絵本集になっている。表紙のカバーを外すと、なんと別の絵が出てくるのがうれしい。
 満月の夜、木の上のお月見台で、14匹のねずみたちはおだんごやクリを食べながら、お月さんと楽しいお話しをする。そして月の光を顔に受けながら「おつきさんありがとう、たくさんのみのりをありがとう、やさしいひかりをありがとう」と祈るのであった。
 さあ、私もねずみたちのように月に祈りをささげよう。「どうか徳島が、もっともっと美しい町になりますように。見苦しいラブホテルのサーチライトも、いつかはなくなるでしょう。やさしい光で、私たちを照らしつづけてください」。

 建築家 野口政司
 
2006年10月4日(水曜日)徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
14ひきのおつきみ
14ひきのおつきみ
  出版 童心社