野口建築事務所 |
Noguchi Architect & Associates |
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負けじと大阪、神奈川でも日本最高層を競うマンションが建設されている。それらの中のあるプロジェクトのキャッチフレーズは “日本を変える 世界が見える”。思わず笑ってしまった。 世界を見渡してみると、共同住宅の先達であるイギリスでは、1970年代から基本的に高層住宅の建設を中止している。その背景を幻想的な絵と夢のあるストーリーで描いたのがチャールズ・キーピング作の絵本『しあわせどおりのカナリヤ』 だ。 ロンドンの下町、しあわせ通りの古びたテラスハウスに住む子供、チャーリーとシャーロッテは大の仲よしです。 再開発でシャーロッテの家が壊され、彼女は高層公営住宅の最上階に引っ越します。取り残されたチャーリーは、シャーロッテがどの住戸に移ったのか分かりません。見上げても同じ形の建物に単調な窓が続くばかりです。 |
2人でよく行った小鳥屋で金色のカナリヤを買ってきて育てますが、チャーリーは寂しくてなりません。カナリヤは歌がうたえても、いっしょに話したり遊んだりすることができないのです。 ある時いたずら猫に驚いたカナリヤが逃げてしまいます。チャーリーはカナリヤが高層住宅の方へ飛んでいくのを追いかけます。 そしてカナリヤがとまったバルコニーの手すりの向こうには、何とシャーロッテが・・・・。 この絵本が出されたのは1967年で、この年の絵本のグランプリ (ケイト・グリーナウェイ賞)を受賞している。 このころのイギリスは再開発により、15階以上の高層住宅が盛んに建てられていた。これに対して住み手や社会学者、医学者が痛烈に非難の言葉を浴びせかけている。子供の遊びや健康をうばい、老人の孤独、青年の環境破壊行為を助長する巨大集合住宅は怪物(マスハウジング・モンスターズ)であると。 この絵本が出た翌年、ロンドンの高層公営住宅の22階でガス爆発が起こり、ついに大ロンドン議会は高層住宅抑止宣言を出すことになる。これ以後、ロンドンの公営住宅は、接地型の中低層住宅が主流となっていくのである。 50階、高さ150メートルも飛べるカナリヤはいないだろう。日本ではチャーリーは一生シャーロッテを探し続けることになるのであろうか。 建築家 野口政司 2006年8月2日(水曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より |
しあわせどおりのカナリヤ |