オバマさんがアメリカの次期大統領に選ばれた。女性大統領はともかく、初の黒人大統領がこんなに早く生まれることになるとは予想しなかった。ブッシュ現大統領が最大の功労者と考えられなくもないが、アメリカのいきづまりが、時代のスピードを少し早めたといえるだろうか。
 日本でも時代が求め、それに応えるように現れた人がいた。不可能といわれた薩長同盟を結ばせ、それをバネに、これまた奇跡の大政奉還を実現させた坂本龍馬がその人である。龍馬自身は、大政奉還の1ヵ月後、その果実を見ることなく逝った。明治元年の1年前であった。
 11月15日は、その坂本龍馬の誕生日であり、そして命日でもある。龍馬は、天保6年(1835年)11月15日、土佐に生まれ、慶応3年(1867年)、同じ11月15日に京都近江屋で暗殺されている。
  山田風太郎の『人間臨終図巻』は、亡くなったときの年齢順に、世界の歴史に名を残した人の臨終の様子が細かく書かれている。上下巻合計850ページにも及ぶ大著であり、一種の奇書といえるであろうか。
 その本の上巻の52ページ、32歳で亡くなった人たちの中の2番目に坂本龍馬は載っている。龍馬の前に出ているのはキリストである。
 龍馬を暗殺した十津川郷士を名乗る3人が、謡曲鞍馬天狗を口ずさみながら立ち去った後、息をふき返した龍馬は中岡慎太郎にむかって、「おれは脳をやられたからもう駄目だ」と微かな声でいって、こと切れたという。
 山田風太郎は、次のように龍馬の死を語る。
 「もう少し生かしておきたかった、と思われる人間は史上そう多くないが、坂本龍馬はたしかにその一人である」。
 ヒーローとしての龍馬像を確立させたのは、司馬遼太郎の長編小説『竜馬がゆく』であろう。全5巻の『竜馬がゆく』の最後は、やはり龍馬暗殺の場面で終わっている。
 「天に意思がある。としか、この若者の場合、おもえない。天が、この国の歴史の混乱を収拾するためにこの若者を地上にくだし、その使命がおわったとき惜しげもなく天へ召しかえした。・・・」印象的なラストである。
 オバマさんには、大いに変革をすすめ、任期を全うしてもらいたいと思う。まちがっても龍馬のように暗殺によって永遠のヒーローなどということにならないように。
 心から願うのである。

 建築家 野口政司
 
2008年11月14日(金曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より

坂本龍馬の日

野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates