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about : ハンニバル特集

Caution! このページでは映画"ハンニバル"の内容への言及があります。今後映画観賞の予定のある方はご覧にならない事をお勧めします。
 いやあ、まずは及第点といった所ですね。ハンニバル。

キャラクター考

 ジュリアン・ムーアのクラリス
疲れたオバさんです。私の想像していたクラリスは FBI の裏方の仕事をこなして疲れている、だがその経験が自信と強さに反映し、現場ではいつも目をギラつかせているような職人的捜査官になっている、年を取ったが女性として十分魅力的である、というところでした。残念ながらこれらは叶わず、疲れたオバさんになっていました。
 それからレイ・リオッタのクレンドラー
もう少しカタさがあって役所の人間的印象が欲しかったんですよね。なんつうかこう、顔が長くてメガネ掛けているような。なので甘系マスクの彼では少々不似合いでは、というのが最初の印象。でも若い頃より貫禄が出てきていて案外いい感じでした。頭を開けられるシーンでのイカレっぷりは上等です。演技が映像に負けていませんね。大した役者ぶりです。残念なのはそのシーンが短かった事、映画の中で十分生かされていない事ですか。
 パッツィ刑事、ジャンカルロ・ジャンジーニという方
初めて見ました。最初はもっと悪役顔で狡猾な感じの人じゃないと合わないよなぁと思ったのですが、観ているうちに結構しっくりくるな、と変化。原作ではもっと執拗にレクター教授を追いつめるのですが、映画ではそこは十分表現されておらず逆に偶然からレクター教授を知り、ちょっと手を出したら殺された、というキャラに摩り替わってます。そういった点ではこの方はかなりハマっているように思います。特にフェル博士=レクター教授と知って以降からメイスンに連絡を取る所、クラリスに忠告されるところなんかは普通の人らしい反応−小男ぶり−を良く見せています。
 メイスン
気持ち悪いですねぇ。いい感じです。でもやはり時間不足。教授との確執がそんなに強く感じられない。本当に殺したい、という執念も、裏から糸引く狡猾さとかも十分伝わって来ず、イマイチ。最初から教授を殺したいと思ってる人として登場してしまっている感じ。
 メイスンの妹
あれ、出て内臓。
 カルロ
イマイチ印象薄いなぁ。もう少し職人的執拗さを引っ張って欲しいんだけど。時間が無くてキャラを見切れないからかな。もっと画面に映ってもいいと思うんだが。
 豚
恐ぇ。強そう。原作を読んでもそんなにピンと来ないんだけど、あの画を観たら確かに恐ぇ。人形食らうシーンはものごっつ壮絶です。
 レクター教授
何も言う必要はないでしょう。だって彼がレクターなんだし。
やっぱ全体的にバランスが取れてないですねぇ。レクター教授の映画、になってしまっている。まあそれも狙いなんでしょうけど。

シナリオ考

 全体的に原作と雰囲気を変えてしまってますよね。原作では皆ともかく執念深くてダークな雰囲気なのに、映画では執念深さはライトになり、ダークな部分は西欧の歴史とか宗教的な荘厳さを加味して美しめの魅惑的な雰囲気になっています。なので映画見終わった後にそれほど陰うつにならず、むしろすがすがしいというか、美しいものを観ていたような錯覚すら生じます。観ている物はエゲツないものなんですけど。観せ方で変わるものなんですねぇ。
 全体的に、といえばやはり急ぎ足すぎなのが痛いです。2時間11分は正直言ってまとめすぎ。イントロにバーニーのマスク売買シーン〜教授の病院でのシーンを持ってきたのはキャラ導入、時間短縮にとても良い効果を発揮していると思う。これ以外はカットと急ぎ足でめまぐるしく中抜きにシーンが展開するので、ストーリーを追うもの結構大変なのではないか。気になったカットをみてみよう。
  1. メイスンの妹を完全にカットオフ
    お陰でメイスンの死因がでっち上げられた
  2. クラリスの上官、ジャック・クロフォードも抹殺
    これは許容できる。でも、これがあれば今のクラリスの立場の危うさが際立つ
  3. メイスンが幼児を飼っていた事に触れていない。これは意図的か
    教授と若きメイスンの絡みのシーンが弱くなっている
  4. 教授がアメリカを発つまでのエピソードをカット
    バタールモンラシェを見たかった、それだけ
  5. 教授が 6本ある指の 1本を切ったのはレントゲンを見たのみ
    映像では分かり難いんだよねぇ、って教授が 6本指って知ってる人も少ないか…
  6. パッツィが前に追っていた事件について触れていない
    パッツィの境遇が薄くなっている
 特にメイスンの死因をでっち上げてしまったのがなんとも後味が悪い。コーデルを操った、という事になるのだが、どうも心理的に脈が薄い。ヤバい事に関わっているという拘束はあるものの、殺すには十分な動機では無いように思われてならない。催眠術か、念力か、という状態。

 一番心残りなのは、クレンドラーの頭を開くシーン。開けるまではいいのだが、その後食べない! あの晩餐のシーンが最も印象深くならなければならないのに!! レクター教授が食人したのは監視カメラの映像や回想シーンのみ。それにクレンドラーが幼児のように大声を張り上げて歌を唄うシーンもない。観客にはこのシーンよりカッポーニ宮のハングシーンの方が印象に残ったようだし。ああ、ダメ。

 終わり方も弱いですね。

 悪い事ばかり書くとダメ映画みたいに思われるので良いところも挙げときましょう。
  1. 教授がキッチン用品を用意するところ
  2. やっぱり豚が恐ぇ
  3. 金がかかっている。特に劇場のシーンはとてもステッキー
  4. 装飾的で重厚な印象、特にフィレンツェのシーン
  5. 音楽も良い、レクター教授の趣味に合っているように思う
  6. あの時間でよくまとめたものだ
  7. ショッキングな印象より、むしろ荘厳な印象が強い

最後に一言

なんだかんだ言って、結局面白かった。でも、その後に観た snatch の方がもっと面白かった。

2001-05-04


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