about : おでんの醍醐味は夏にあり

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最近ちょっとありきたりな夏向けメニューにうんざりしていた。
だからおでんを作った。あつあつおでんを作った。だって
おでんと言えばあつあつしかないだろう? もしあつあつじゃ
なかったら、許さない。芸人としての俺の人生に傷が付く。
おでんはあつあつで、羽交い絞めにされて無理矢理食べさせ
られなければならない。これが日本の伝統なのだから仕方がない。

さて、問題はウチのおでんの作り方だ。他所様はどうか知らないが、
ウチではおでんはずんどう 2杯作るのがきまりだ。そこに
どか切りの厚揚げや、輪切りの大根、がんもやじゃがいもを
大量に、丸のまま突っ込んでぐつぐつ煮る、だからずんどう 1杯
では入りきらないのだ。

できるなら 2杯を一晩で食べ切りたいところではあるが、さすがに
それは無理というもの、よっておでんは翌日も、稀に翌々日もと
続く事がある。

昨晩も、そうだった。
故に今朝、私の朝食はおでんの筈だった。真夏の朝一番のおでん、
日本の夏に相応しい献立じゃあないか。

だが、そうはいかなかった。食卓にはおでんの姿は、無かった。
何故だ、そう思って私は台所に向かった。

そこには、昨日作ったおでんのずんどうが置いてあった。
何だ、おでんはあるじゃあないか、さて頂きますよ。
具をヒト摘み取り上げてみた。


糸が引いた。


ええと、おでんの出汁はさらりとしたかつお風味の…アレ?
若干の饐えた臭い、入れたはずの無いヴァーチャ片栗粉入りと
思しきこの粘性。


夏…だな。
私は台所で天を仰ぎ見た。
そこには無い筈のヴァーチャ夏の青空が見えた。
太陽から私に、つぅっと透明な糸が引いている様な気がした。
−以上−

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