ある土曜の朝、いつもの様に私は一杯のコーヒーを淹れていた。 そこへ母がやってきた。それはよくある朝の光景だった。 そして挨拶を交わそうとする私に、母はこう告げた。 |
脱ぎなさい |
しまった、よくある朝の光景ではなくなってしまった。 どうやら、洗濯しちまうからさっさと寝巻きを脱いじまいな、 というのが母の言い分らしい。 うん、尤もだ。私は即座に応じ様と思った。 だが、一つの疑念が鎌首をもたげた。本当にこれでいいのか!? 私は今、キッチンでコーヒーを注いでいる真っ最中だ。 想像してみた。全裸でコーヒーカップを持ち、キッチンに立つ姿を。 勿論笑顔は絶やす事なく。 美しい! パーフェクトだ!! だが美のセンスは人それぞれ、親子だって違うもの。なので念のため 母に問うてみた。だが母はいいと言う。 私は、脱いだ。 キッチンで、寝巻きを脱いだ。 上着のボタンをぽろりと外し、胸元をがばりを開けた。 ズボンをするりと下ろし、足を高々と抜き上げた。 そして、コーヒーカップを持ち上げると、 自然と満面の笑みが、こぼれた。 全ては母の言う通り。 そして私の思い通り。 何も間違ってはいない。 だが何かが間違っている様な気も、しないでもない。 |
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