2005年 1月26日朝、東京駅にて。 私は、京浜東北線から東海道線へ乗り換えるため、 地下連絡通路を歩いていた。8番線の東海道線ホームへ上がるため、 エスカレータに乗ろうとしたその時、私の視界に異様な物が入ってきた。 それは黒く、ふさふさした物体だった。 ただならぬ雰囲気につい足を止め、地面に落ちている その物を確認した。 |
間違いない、かつらだ。 |
一体何故、こんなところにかつらが? あたりを見回しても、持ち主と思しき人物はいない。 いや、むしろ誰もがこの場を避けているかのように、人気がない。 やはり、落し物なのだろうか? しかし、落としたらさすがに気付くだろう。 もし急いでいたにしても、そのまま放置して去っていくという状況は、考え難い。 いや待てよ、恥ずかしさのあまり拾う事ができず、そ知らぬふりをして 去っていったという可能性は、有り得なくはないか。 それに、ハンカチであれば "落ちましたよ" と拾ってあげる事もできようが、 かつらとなると話は別だ。そんな事、出来よう筈もない。 私はいたたまれなくなり、何もできないまま、その場を後にした。 この私に、一体何ができるというのか? "あーよかったー" 等と言いながら、拾って被れとでもいうのか? 白チョークで線を引き、現場検証をしろとでもいうのか? 土に埋めて、"かつらのお墓" と書いたアイスの棒を立てておけとでもいうのか? 駅員に、"これ落し物です" と届ければいいとでもいうのか? "ご自由にお持ち下さい" と書いた札を立てておけとでもいうのか? リサイクル資源ごみ入れに入れておけとでもいうのか? 拾って持ち帰り、ヤフオクに出品しろとでもいうのか? なんと酷い… そんな事、できる訳ないじゃないか。 |
−以上− |