ある日、オフィスへの通り道に、何やら黒い物体が落ちていた。 近付いてよく見てみると、それは紳士靴の踵の一片であった。 無造作にちぎられて、靴本体は見当たらず、かかとのみが捨ててあった。 ここで一体何が起こったのか? そう思案しながら 30m 程歩いていると、 さらにもう一方のかかとが落ちていた。 やはり、靴本体は見当たらない。 これがもし女性用のハイヒールならば、理解できなくはない。 しかしこれは男性用だ。靴本体との接合面は 5cm四方もあろうか。 余程の強力の持ち主でなければ、力任せにちぎるのは困難だろう。 しかも、靴本体が見当たらないことから、このかかとの持ち主は、 かかとのないままの靴を履き、ゆうゆうと立ち去ったに違いない。 さらにいえば、この 2つのかかとの距離も重要だ。 この距離はきっと、片方のかかとをちぎって後、 もう一方のかかとをちぎるのに要したものと思われる。 よって、平均的な徒歩の速度でこの距離を割る事により、 1つのかかとをちぎるのに要した時間が求められるのである。 .03(30m を km に換算) / 4(km/h) = 0.0075時間 (27秒) 約 30秒程かけてちぎっている事になる。 これから察するに、この所業はちょっとした思い付きなのではなく、 30秒間も固執してまで、かかとをちぎる事に執着していた事が分る。 しかもかかとを捨てている事から、かかと自体に固執しているのではない。 つまり、かかと泥棒の可能性は低いという事だ。 多分、他人の所業ではなく、靴の持ち主自らがちぎったのだろう。 となると、靴の持ち主は 30秒の間、片方の靴はかかとがちぎれ、 もう片方は脱ぎ、手に持ってかかとをちぎっていた事になる。 何とも異様な光景だ。 余程、かかとに恨みを持った人物の所業なのであろう。 例えば、以前子供をかかとで踏んで傷つけてしまった事があったり、 幼少期に父の靴で踏まれるという虐待を受け、トラウマになっていたり、 趣味でもないのにホモ SM をされ、かかとでひどく踏まれた経験があったり、 はたまたかかとに強いこだわりがあって、マイかかとを持ち歩いていたり。 想像は広がるものの、真実はきっと闇の中のお蔵入り。 |
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