about : ポール

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私は、不動産屋に連れられて新しい部屋を見に来たところ。
今住んでいる部屋が少々手狭になったため、引越しを検討しているのだ。

不動産屋の男は黒縁のメガネを掛けた 30台後半の男で、
見た目から真面目そうだが、堅苦しくならないよう笑顔を張り付かせている。

業者
ここは女性専用なんですけどね、立地も良くて綺麗だし、
人気があるんですよ。今丁度空きが出来たところなんですがね。
広樹
へえ、そうなんですか。
女性専用という響きには一瞬違和感を覚えたが、
特に触れずに置いた。

不動産屋が鍵を取り出し、扉を開けた。
そして私を部屋の中に招き入れる。

部屋はワンルーム 8畳、まあ平均的な部屋と言って良い。
しかし何故か、部屋の中央に金属製のポールが立っていて、
それは床から天井へと伸び、しっかり固定されている。

業者
どうです、いい部屋でしょう?
南向きで日当たりも良いし、窓が大きいので部屋の中も明るい。
夜になれば夜景もなかなかのものですよ。
広樹
ええ、いい部屋なんですが…
このポールは何ですか?
業者
え? 何って…ほら、ダンス用ですよ。
苦笑いしながら不動産屋は答える。
そして私も苦笑いしながら答える。

広樹
ダンス用?
怪訝そうな顔をしている私を見て
不動産屋は少々不機嫌そうな表情をみせた。

業者
ええ、ダンスには必要でしょう!?
ほら、こうして!

声を荒げ、黒縁のメガネを投げ捨て、不動産屋は踊り始めた。
ポールにもたれ、絡み付き、腰をくねらせ始める。

業者
そう、もっと激しく。
もっと扇情的に。
ああ、いいぞ、ベイビー。
さあ、来て。
(適宜英語に訳して下さい。)
彼が海老反りになった瞬間、ダンスは最高潮に達した。
額には汗、顔には達成感。

ふう、と一息つくと、
不動産屋はゆっくりと立ち上がり、
黒縁のメガネをかけ直しつつ近寄ってくる。

業者
さあ、あなたも!
広樹
は、はあ。
不動産屋に気圧され、
断るだけの勇気もなく、
踊ることにした。

しかし気乗りしない私のダンスを見て、
しびれを切らせた不動産屋から激が飛ぶ。

業者
何をやっているの?
あなたのダンスはそんなものなの?
故郷のアラバマにでも帰ってしまいなさいよ!!

私の故郷はアラバマではないのだが、
その事には触れずに置いた。

業者
あなたを見込んでここへ連れて来たっていうのに、
あなたには本当に失望させられたわ!
もう帰って頂戴。
レッスンはこれで終わりよ!

広樹
いや、レッスンじゃなくて部屋を…
と言いかけたが、不動産屋の眼光がそれ以上の言葉を遮った。
不動産屋に背中を押され、追い出されるように外へ出た。

そして不動産屋は無言のまま鍵を閉め、出て行った。
その背中を追いながら、私も部屋を後にする。

部屋を後にして歩いている時、
何故あの部屋が女性専用なのかがようやく理解できた。
しかし何故、そこへ私が案内されたのかは、未だに理解できていない。

ただ、私が見込まれていたという事だけは、確かなようだ。

私の部屋探しは続く。
−以上−

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