私は、不動産屋に連れられて新しい部屋を見に来たところ。 今住んでいる部屋が少々手狭になったため、引越しを検討しているのだ。 不動産屋の男は黒縁のメガネを掛けた 30台後半の男で、 見た目から真面目そうだが、堅苦しくならないよう笑顔を張り付かせている。 業者 先ほどは取り乱してしまって申し訳ありませんでした。そういって、不動産屋は愛想笑いを浮かべる。 せっかく謝っているのに気を悪くさせてはいけない、 そう思い、私も愛想笑いを返す。 そうこうして歩いている内に私達は街外れに出た。 段々と街並みが寂れてきて、中には廃屋も混じっている。 そして、とある廃屋の様な建物の前で、不動産屋は立ち止まった。 おい、まさかここじゃないだろうな、と思っている私に、 不動産屋は笑顔で打ちのめす事を言った。 業者 ここです。そういって不動産屋は階段を小走りに上がってゆく。 置いていかれまいと、私も付いてゆく。 業者 ここは1LDKで、床面積は 20畳。広樹 壁紙とかは貼ってないんですね。業者 ええ、いわゆるフローリングというヤツですね。いや、本当に打ちっぱなしだ。 それどころか、壁には大きな穴が空き、内と外の境界なんて無いに等しい。 広樹 あの穴は何ですか?業者 良いところにお気づきになりましたね。広樹 いや、オープンはできてもクローズはできそうにないですよね?業者 そうなんですよ、このデザイナーは自然との一体感を重要視している方で、コンクリート打ちっぱなしで自然がどうこういうのも変なのだが。 広樹 何だか部屋中にコンクリートの破片みたいなのが飛び散ってますね。業者 そう、これがこだわりのワイルド感です。不動産屋はなかなか屈しない。 どうやら是が非でも、私をこの廃屋に住まわせようという気らしい。 広樹 水周りはどうなんです?業者 それならこの蛇口をご覧下さい。見ると、 曲がりくねった水道管にくっついた、 すすまみれの蛇口が一つあるのみ。 蛇口はきちっと閉まらず、水が漏れている。 突っ込みどころは満載なのだが、特に目を引くものがあったので それについて触れてみる事にした。 広樹 何かくしゃくしゃになったエロ本が落ちてるんですけど。業者 あ、それはセットになっているんですよ。不動産屋は、いやらしい笑いを浮かべている。 どうやら是が非でも、私をこの廃屋に住まわせようという気らしい。 そこで最後の質問を、不動産屋にぶつけてみた。 広樹 前に住んでいた人はどんな人だったんですかね?業者 いやー、ここ 20年ほど人が住んでいた形跡は無いんですよ。ちょっと待て、形跡って何だ、形跡って。 まさか適当な廃屋を勝手に売っちまおうって魂胆なのか? 等と思っていると、不動産屋がおずおずと口を開いた。 業者 もしよろしければですね、今の内にお家賃の 4ヶ月分の手付けをどうやら是が非でも、私をこの廃屋に住まわせようという気らしい。 果たして私は、この窮地をどうやって逃げ出せば良いのだろうか。 |
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