about : ジェンキンス氏の可能性を考える

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※ジェンキンス氏の北朝鮮行きが真に脱走→亡命であったかには疑問もあります。しかしその真偽は定かではないので、ここでは別段の恣意もなく脱走という扱いをしています。

私は、ジェンキンス氏に付いて、2つの側面から興味を持っている。
一つは、脱走兵という立場の滑稽さだ。こんな素敵な立場はない。もし私が父から "俺、実は脱走兵なんだ" 等とカミングアウトされたら、不信感とか喪失感とかよりもまず、笑ってしまうと思う。しかも、1965年からとは。私が生まれる前ですよ。脱走兵歴 40年、これはひょっとしてギネスブックに載るのではないでしょうか。
そういえばちょっと前に "大脱走" のディジタルリマスター版が公開されていました。どうでもいいですか。

もう一つは、北朝鮮により拉致された曽我ひとみさんの夫である、という事だ。こちらは、とても微妙な問題だ。曽我さんは日本人だし、拉致の被害者であり、問題の解決には日本への帰国が求められる。曽我さんの娘さんには日本人としての国籍を得る権利があり、本人の希望次第では日本に来る事も可能だろう。
しかしジェンキンス氏の場合は、少々事情が異なる。
彼は本人の意思で北朝鮮へ向かったのであり、人権を蹂躙された結果北朝鮮にいる、という訳ではない。そして亡命者として、北朝鮮に受け入れられてしまっている。かつ、彼は日本人ではなく、第三国に籍を持っている。よって彼は日本人の配偶者でしかない。日本人の配偶者に与えられるのは国籍ではなく、在留資格のみ。つまり、"居て良いよ" という資格だけ。結婚しても 3年以上経過し、1年以上日本に住んでいなければ "帰化" する事もできない。
よって、日本政府が何をしようと、本来ジェンキンス氏に関しては、日本に連れてくる理由がないのだ。
しかもジェンキンス氏は脱走兵として米軍から訴追される可能性もあるという。米が日本にジェンキンス氏の引渡し要請をすれば、まず間違いなく引き渡す事になるだろう。果たして、日本に連れて来る事は良い事なのか。

これらの事象は、本当に数奇な運命としか言い様がない。
曽我さんは拉致され、北朝鮮に来た。
ジェンキンス氏は脱走して、北朝鮮に来た。
そして北朝鮮で、二人は出会い、結婚した。
そして、子を成した。
不法であるとはいえ、この二人の出会いを提供したのも、二人の子が生まれる要因を作り出したのも、北朝鮮なのだ。
そして日本政府は、拉致問題解決のため、その家族を引き離した。
この結果のみを見ると、北朝鮮と日本と、どちらが悪いのか分らなくなってくる。いや、どちらが良い悪いではなく、結局は今があって、これからどうするか、という事なのだろうか。
人の国籍をその人の意思のみで決定できるとなればそれはそれで問題があるかもしれないが、最終的にはジェンキンス氏が何を望み、その内何が実現可能なのか、それが問題なのだろう。ただ、北朝鮮・米・そして未知の国日本の何を氏が選べるのか。何だか流れ的には日本へ、という感じだけれども、果たして本当にそれがいいのか、そしてそれが許されるのか、難しいところだと私は思う。日本に来たところで、結局は日本政府に保護されるのだろうし、好奇の目で見らるのは間違いない。北朝鮮に居ようと、日本に居ようと、かごの中の鳥でしかいられないのは同じなのではないだろうか。
−以上−

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