ある朝、私はオフィスで尿意を催した。 おもむろに立ち上がりトイレに向かうと、昨今の電力事情からか、 トイレは消灯しており暗く、静かだった。 そこには 3つの小用・2つの大用トイレが並んでいて、 その内 1つの大用には、先客が居た。 私はお決まりの様に、入り口に近い左端の小用に向かった。 丁度、使用中の大用に背を向けて用を足し始めると、 使用中の大用から、奇声が挙がった。 しかもそれは言葉でもなく、キャーという悲鳴でもなかった。 |
パ〜、パラパーパーパーパーパ〜 パラパーパーパーパーパ〜 |
抑揚のない不確かな音程だが、声量は大きく、そして声に迷いは感じられない。 間違いなく、金曜ロードショーの旋律だ。 本気だ。そして多分、真顔だ。 しかし何故、朝、独りトイレで、しかも外に私が居るというのに、 金曜ロードショーだったのか。 普通こういう時は、息を潜めて音も抑えて、気配を消すものではないのか? まあ、いい。例え大用時と言えども、自己主張は大切かも知れない。 だが、主張された私は、一体どうすればいいのだ。 そこで、続けて歌うべきだったのか? ハモるべきだったのか!? そしてこれからの会社生活で、同じオフィスに金曜ロードショー魔が居て、 いつ何時背後の大用から歌ってくるとも限らない、そんな 不安を抱えつつ、仕事を続けていかなければならないのか。 |
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