[ 2003-12-21 Train of Thought/DREAM THEATER について考える ]

今私の心を捉えて放さないもの、といえばやはり Train of Thought/DREAM THEATER しかない。この Album、本当に DREAM THEATER を過去から愛している人達には受け入れがたい部分があるようだけれど、私はこれはこれで好きだ。まずこの辺を明らかにすべく、DREAM THEATER についてまとめる事にしよう。

DREAM THEATER は、現在次の 5人のメンバーで構成されるバンドである。

1989年にデビューを果たし、以降通算 8枚 (2003年時点) のアルバムをリリースしている。

  1. When Dream and Day Unite
  2. Images and Words
  3. Awake
  4. A Change of Seasons
  5. Falling into Infinity
  6. Metropolis PT2:Scenes from a Memory
  7. Six Degrees of Inner Turbulence
  8. Train of Thought

彼らは RUSH に代表される、PROGRESSIVE ROCK(METAL) を展開するバンドである。バークレイで音楽を学んだ MYUNG, PETRUCCI, PORTNOY の 3人が中心となり結成されたバンドで、理論的と技術においては卓越している。曲調は幾何学的かつ複雑であり、一般には理解しにくい難しい音楽といえる。

例えばリズムパターンを例に取ると、一般的な ROCK 系列の音楽は 4/4 拍子を基調とした縦割りのリズムになる。その中のドラムパターンは概ね 8ビート、ハイハット 4打に対しスネアドラム 1打の構成となる場合が殆どである。しかし彼らはそこで、4/4 拍子 2小節分の領域に 3/4拍子と 5/4 拍子を入れたり、3/4 拍子 * 2 + 2/4 拍子 * 1 を詰め込んだりするのだ (しかもこれは彼らの曲内ではしごく一般的に使われる手法であり、簡単な部類である)。普通の ROCK の曲であれば 1,2 回聴けばリズムを取れる私でも、彼らの曲のリズムを完全に把握するには 1曲 数 10回、下手をすれば 100以上回聴かねばならない事もある。実際、2003年 11月 11日に発売された Train of Thought (以降 ToT と表記) においても、未だに全曲の完全把握には至っていない。ようやく最近 2曲目の "My Dying Soul" の理解が済んだ所である。

私がこのバンドを好きな理由は一義に決まっている。とにかくスゴイのだ。私は一つの事象をただ単に "スゴイ" と表現するのを極端に嫌っているのだが、彼らにおいては唯一この言葉を使わざるを得ない。それ位のバンドなのだ。

それは曲を聴けば分るし、その演奏を見ればさらに理解できるだろう。ギターに至っては常にピッキング・トリルかよ、と突っ込まずにはいられないし、ベースは指ピッキングのくせに超絶だし、キーボードはその速弾きとユニゾンしたり掛け合いしたりするし、ヴォーカルはハイトーンで声量があり、そして何といってもドラムはもう変態・バケモノの領域だ。

上述よりさらに複雑な変則リズムを平然と叩き、フィルインでは 3連譜を基調とした連打、3連譜の中でさらに 3連譜を入れ込んだり。そして何より私を驚かせるのは、そのモンスターと表現したくなる程の体力だ。

Metropolis PT2:Scenes from a Memory (以降 MPT2 と表記) のライブ映像における、"Finally Free" には、2分以上にも及ぶ恐ろしいまでのフィルインがある。PORTNOY はそのフィルインを最後までパワーキープし、リズムも乱さず、パターンが単調になる事もなく完奏する。当然パターンは複雑であり、素人にとても真似のできる代物ではない。

さて、では Train of Thought はどうだろうか。

  1. As I Am
  2. This Dying Soul
  3. Endless Sacrifice
  4. Honor Thy Father
  5. Vacant
  6. Stream of Consciousness
  7. In The Name of God

私には 5曲目の Vacant を境に、前半が "パワーメタル"、後半が"プログレメタル" に分けられると思える。前半は低いフレットを多用したギターが前面に出て、表現音域が絞られている分、厚みと激しさが目立っている。音質も歪みを強く掛けノイズも入れている。リフもやや単調なものを繰り返す部分が多く、その意味ではヘビーメタルというカテゴリを意識した作りになっている (ヘビーメタルの本来の意味は、工場の機械が発するような機械音の単調な繰り返しに由来しているという説がある。一般的にいう "重低音" == "ヘビー" なのではない。)

それに対し、後半ではキーボードが存在感を強めてくる。曲の要所要所で印象深いフレーズを挿入し、ドラマティックな展開を演出している。私の持論で、激しい音楽に鍵盤楽器は適さないというものがあるのだが、正にその持論通りの展開と言える。鍵盤楽器は、こうしたドラマティックな展開にこそ相応しいのだ。ちなみにギターの変化も面白い。前半では重いリフを力強く刻んでいたものが、全体的にフレットを上げて表現域を広げている。そして性格異常であるかのようにそこかしこにピッキングトリルの様な速弾きが入ってくる。

ドラムに関して言うと、全体的に金属音を目立たせ、メタルらしさをアピールしている感がある。リズムはローテンポからミドルハイ、決して速い曲調という訳ではないが、音の密度が高く、アグレッシブなものが多い。そして単なる打楽器であるはずなのに、素晴らしいほどに表現力がある。それぞれの曲においてその曲調に合わせ、好き放題に叩いている。

この Album 全体では、まとまりという点では私が最も好む MPT2 には遠く及ばない。それは MPT2 が完全なコンセプトアルバムであるのに対し、ToT はむしろシングルの集合という普通の Album の色あいが強いからだろう。

私が DREAM THEATER を好きになったのは、MPT2 の曲調が好きな事もあるが、彼らのライブ映像を見る事によって、演奏者として圧倒されてしまった事が最も大きいと思う。だから、私は複雑で激しい ToT も好きになれるのだ。私にはとても真似のできない代物があって、それを実現できる馬鹿なほどの天才が居て、それを実現しているという、この尊敬に値する、いや、神格化さえしてもいいほどの距離感が嬉しいのだ。

-以上-



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