宗政報告No.6(2003年11月28日)


教育基本法「改正」に向けての全日本仏教会の運動に対する
大谷派の対応について



 2001年11月、文部科学大臣が中央教育審議会に「教育振興基本計画の策定と新しい時代に相応しい教育基本法のあり方」について諮問、中教審は、2002年11月14日、それに対する
「中間報告」を、そして2003年3月20日、教育基本法を「改正」する必要があるという答申を出しました。
その間、全日本仏教会では、常務理事の石上智康氏(本願寺派宗議会議長)を中心に、基本法「改正」を推し進める運動を展開していましたが、そのことに対して大谷派としていかに対応しているのかを,9月11日の議員総会で内局に確認したところ、明確な報告を得られませんでした。
 そのため、29名の大谷派の議員が、基本法「改正」には、反対であることを全日仏に強く申し入れたのが、下記の要請文(資料−1)です。
 それに対して、全日仏の「宗教教育推進特別委員会」は、10月7日、わざわざ東本願寺に
熊谷総長を訪ね、基本法第9条の「改正」に向けての協力要請をしています。
 そこで、11月18日・20日の議員総会で、熊谷総長に改めて見解を求めたところ、
基本法「改正」については、いろいろな意見のあることは承知しているが、第9条に関しては
賛成である。「いただきます」ということも教えられないような教育はなんとかせねばならない
という思いが強く、この機に第9条の「改正」をやってもらいたいという意見のようでありました。
 「靖国」に学んできた教団の責任者としては、はなはだ心許ないと言わざるをえないものです。  
「靖国」に学ぶということは、時代・社会の状況に対する感覚を養うことを学ぶことでもあるのですから。
 全日仏が提案している基本法第9条の「改正」にあたっての要請(資料−2)そのものにも、大いに問題がありますが、よしんばそれを是としても、教育基本法「改正」自体の意味と妥当性について充分検討することなく、第9条「改正」は賛成だということは随分乱暴だと言わざるをえません。
 今後は、大谷派の議会として、全日仏の運動にどれだけ歯止めをかけられるか模索していきたいと思っています。


[資料−1]
     教育基本法「改正」に関わる全日本仏教会の対応についての要請

 中央教育審議会は、2003年3月20日、教育基本法を「改正」する必要があるという答申を出しました。
 しかし、その審議過程をたずねるとき、首相の私的諮問機関であった教育改革国民会議の「見直し」提案を文部科学省が受けるかたちで、教育基本法の「改正」を前提とした諮問が、文部科学大臣から中教審にされたと見て取れます。そのことは、中教審の基本問題部会で毎回と言っていいほど、「いま何故改正なのか」という問題が提起されていたにもかかわらず、その回答を見出し得ないまま推移したというところからも窺い知ることが出来るでしょう。
つまり、「改正」が、まずありきというところで出された答申といえます。
 一方、いじめ、不登校、学級崩壊、そして校内暴力等の教育の荒廃の原因があたかも教育基本法にあるかの如き議論がありますが、問題の所在の分析も検討もなされないまま、はなはだ社会科学的視点を欠いた、あまりにも乱暴で短絡的なものと断じざるを得ない。
 ところで、小泉内閣が目指しているのは、有事法制化を果たし、イラク支援特別措置法を成立させ、わが国を「戦争をする国」と変貌させることではないかと危惧しますが、そんな中での、教育基本法の「改正」は、戦争をする国を支える人づくりこそが、真の目的ではないかと読み解くとき、必然性の無い「改正」の理由がよく理解できるといえます。
 全日本仏教会では、中教審の中間報告が出される頃から、「改正」に積極的に賛意を示し、京都での公聴会では「改正」に賛成の意見陳述をし、そのうえ要請書を中教審に提出して、改正案の提示までされました。さらに、宗教教育推進特別委員会を設置して、教育基本法「改正」問題に対応する態勢を整え、さらなる改正案の実現を期そうとしておられるようです。
 私たちは、いのちを覆い隠し、いのちの尊厳を踏みにじるような社会を決して生み出してはならないとする仏教徒として、中教審答申に疑義を感じ、「改正」に強く反対するものであり、私たち自身が構成員である全日仏の、この度の「改正」に対する対応には大いに疑念をもつものであります。ここに、速やかに「改正」に向けての働きかけを停止しされる事を強く求めるものであります。

 2003年9月12日

  全日本仏教会
   理事長 森 和久殿
   
                                真宗大谷派宗議会議員
                                 教育基本法「改正」に反対する会
                                    朝 倉 順 章  五百井   均
                                    井 上 恵 二  江 尻 静 哉
                                    大 澤 秀 麿  大 橋 秀 暢
                                     菊 池 顕 正  釈 氏 政 昭
                                     木 全 和 博  清   史 彦
                                    佐 竹   通  里 雄 康 意
                                    篠 田   穣  柴 田 達 也
                                    新 羅 興 正  高 橋   悉
                                    武 宮 真 哉  谷 山 真 午
                                     長久寺 徳 瑞  寺 永   哲
                                    長 野 淳 雄  秦   信 映
                                    福 田 元 道  藤 内 和 光
                                    藤 島   恵  藤 森 教 念
                                    松 本 好 行  三 浦   長
                                    森 島 憲 秀
                                                    以 上
 
[資料−2]
教育基本法第9条(宗教教育)
《現行》
第1項 宗教に関する寛容の態度および宗教の社会生活における地位は、教育上これを
     尊重しなければならない。
第2項 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他
     宗教活動をしてはならない。

《全日仏が要請する骨子》
1.日本の伝統・文化の形成に寄与してきた宗教に関する基本的知識及び意義は、教育上
  これを重視しなければならない。
1.宗教に関する寛容の態度及び宗教的情操の涵養は、これを尊重する。
1.国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗派教育その他宗教活
  動をしてはならない。