雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来ているらしいのです。
「堅雪(かたゆき)かんこ、凍み雪(しみゆき)しんこ。」
お日様がまっ白に燃えて百合の匂を撒きちらし又雪をぎらぎら照らしました。木なんかみんなザラメを掛けたように霜でぴかぴかしています。
「堅雪(かたゆき)かんこ、凍み雪(しみゆき)しんこ。」
四郎とかん子とは小さい雪沓(ゆきぐつ)をはいて
キックキック、キック、野原に出ました。
こんな面白い日が、またとあるでしょうか。いつもは歩けない黍(きび)の畑の中でも、すすきで一杯だった野原の上でも、すきな方へどこ迄も行けるのです。平らなことはまるで一枚の板です。そしてそれが沢山の小さな鏡のようにキラキラキラキラ光るのです。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
二人は森の近くまで来ました。大きな柏の木は枝も埋まるくらい立派な透き通った氷柱を下げて重そうに身体を曲げて居りました。
「堅雪かんこ。凍み雪しんこ。狐の子ぁ、嫁ぃほしい、ほしい。」と二人は森へ向いて高く叫びました。
しばらくしいんとしましたので、二人はも一度叫ぼうとして息をのみこんだとき森の中から、「凍み雪しんしん、堅雪かんかん。」と云いながら、キシリキシリ雪をふんで白い狐の子が出て来ました。

四郎は少しぎょっとしてかん子をうしろにかばって、しっかり足をふんばって叫びました。
「狐こんこん白狐、お嫁ほしけりゃ、とってやろよ。」
すると狐がまだまるで小さいくせに銀の針のようなおひげをピンと一つひねって云いました。
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、おらはお嫁はいらないよ。」
四郎が笑って云いました。
「狐こんこん、狐の子、お嫁いらなきゃ餅やろか。」
すると狐の子も頭を二つ三つ振って面白そうに云いました。
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、黍の団子をおれやろか。」
かん子もあんまり面白いので知ろうのうしろにかくれたままそっと歌いました。
「狐こんこん狐の子、狐の団子は兎のくそ。」
すると子狐紺三郎は笑って云いました。
其の一(子狐の紺三郎) 二幕
****** 雪渡り ******
其の一(小狐の紺三郎)
〜〜一幕〜〜
