私には、千年生きたよりもっと多くの思い出がある
「初対面の男に泣かれたのは初めてだ」
そう言って、皮肉げに口元を歪めた彼を良く覚えている。
その惚れ惚れするような容貌と、珍しい二色の宝石のごとき瞳を呆けたように見つめたまま、俺は指摘されるまで自分が泣いているのに気付かなかった。
足下で、茶色の仔犬が無邪気に戯れている。
暮れかけた庭園で、少年は途方に暮れていた。さき程まで庭木の手入れをしていた職人達の気配が無い。
「ニコラ、ニコラ、そんなに遠くへ行っちゃダメだよ」遠慮するように声を掛け、少年は仔犬を追う。
少年は、先日五才になったばかりだった。そして、むく毛の仔犬は、彼の誕生日に名付け親から贈られたプレゼントだった。少年には兄弟がなかったので、彼は仔犬にニコラと名前を付け、まるで弟のように可愛がっていた。
ニコラは、呼べば飛びついて湿った鼻面を少年の膝に擦りつけるのだが、すぐさま跳ねるように走って行ってしまう。辺りをぐるぐる回り、行きつ戻りつして「まだまだ遊ぼう」と少年を誘う。
「もう暗いよ、ニコラ。とうさんを捜さなくっちゃ」
少年は、仔犬を捕まえようと手を延ばした。仔犬は尻尾を振って逃げる。ニコラはパッと離れては、少年が近付くのを待っている。追い掛けっこのつもりなのだろう。緑の迷路を奥へ奥へと逃げ込んで行く。
「ニコラ、駄目だよ。ダールマンさんに見付かったら怒られちゃう」
生け垣を右に折れ、左に折れして、少年はやっと小さな小鳥の噴水のあるアールコーブで呑気に水を飲む仔犬を捕まえた。
「ニコラ、さあ急ごう。きっととうさんが待っているよ」
仔犬を胸に辺りを見回して、少年は初めて見慣れぬ景色に気付く。そこは、未だかつて歩いたこともない庭で、噴水を中央に迷路の出口が三方向に開いている。そのいづれもが良く似ていて、果してそのいづれが家路に通じているのか。少年は不安げに緑の門を見比べた。
夕闇が、静かに頭上を覆い始めている。迷路の入口は、いっそう暗く猶予は無いと少年を急かす。
二、三度視線を彷徨わせて、意を決したように、彼は真ん中の通路へと飛び込んだ。
小さな足が地面を蹴る。早足から駆け足になりながら、意地悪く立ちはだかる緑の壁の間を懸命に少年は出口を求める。
時折見上げる細長い空は、既に夜のそれで、星も瞬き始めている。
ひもじく心細く、それにもましてひとりで立ち向かう夜は恐ろしい。
──泣いちゃダメだ。泣くもんか。
眼の縁までこみ上げる涙をすんでで押し止めているのは、腕に抱いたニコラの温もりがあったから。
聞こえるのは、自分の足音ばかり。それもひとたび歩を止めると、後は夜の静寂があるのみ。静けさは、孤独と不安により一層の拍車をかけるので、彼は闇雲に走り回った。
当て所なく角を折れた途端、暗がりにぼおっと白く人影が浮かび、少年は驚きの余り仔犬を取り落とした。
──お化け!?
驚愕に灰色の瞳を見開いて、立ち竦む。恐ろしさに身を震わせ、少年の最初の涙が睫毛を濡らしたその時、月の光が射してそのお化けを照らし出した。
それは、庭のあちこちに配置されている彫刻のひとつで、軍神が剣を振りかざしているものだった。
少年は、ぐいと涙を拭い鼻を啜った。
「なんだ、こんなもの。怖くないやい。僕はまだ、泣いてないよ」自らを励ますように呟いて、彼は放してしまった仔犬を捜す。
「ニコラ…ニコラ…戻っておいで」
呼ぶと、仔犬は可愛く吠えて答えるのだが、姿は見えない。
「ニコラ」
吠え声を頼りに道を辿ると、ようやく茶色い毛球が跳ね回っているのを見付けた。
ニコラは、ひらひらと舞う黯い蝶を捕まえようと躍起になっていた。
「ニコラ!」
駆け寄る少年の一歩手前で、蝶は遠ざかり仔犬は跳ねる。
ひときわ巨きな緑の壁に、蝶は吸い込まれるように消え、仔犬と少年はそれを追った。緑の門を潜った途端、少年は人にぶつかった。
「おとうさん」
名前を呼ばれたような気がして、彼はてっきりそれが父だと思い飛びついた。
「ウォルフガング」
しかし、その声は聞き覚えの無いもので、緩んだ涙腺に視界を滲ませながら彼は慌てて手を放すと、その人物を見上げた。
「ごめんなさい…ごめんなさいっ。勝手にお庭に入って」
立派な軍服を身に纏った背の高い男の人が彼を見ている。男は、揺れる外套の裾に戯れかかる仔犬に眼を留め膝を折った。少年は、さっと仔犬を庇うように小さな躰を投げ出した。
「ぶたないで、お願い。ニコラは、お庭を汚したりしないから。放しちゃった僕がいけないの……だから、ごめんなさい」仔犬を胸にぎゅっと眼を瞑って蹲る。
『お客様に粗相があってはいけない』と事ある度に小言を言う執事の恐ろしげな顔が脳裏を掠める。
──こんな立派なお客様を、とうさんと間違えてしまった。
少年は、当然厳しく仕置きされるのを覚悟した。涙は既に堪え切れず、ぽろぽろと頬を零れ落ちる。小さな手で握り拳を作り、きゅっと唇を噛んで、彼は懸命に嗚咽を堪えるが、躰の震えは押さえられない。
緩やかに手の上がる気配を感じ身構えると、その手は意に反して優しく少年の髪に触れた。
「ウォルフガング、顔を上げて。軍人は犬や子供をぶったりしないものだ」
大きな手がそっと躰を抱き起こし、頬の涙を拭う。
「どおして僕の名前を知っているの?ショウグンのお友だちなの?」灰色の瞳を真っ直ぐに向け、彼は不思議そうに男を見た。
「将軍?」
「うん。ハーナウ伯爵様は、宇宙艦隊の偉い将軍なんだ。あなたも、ショウグンなの?」
ウォルフガングは、男が胸元から取り出した絹のハンカチで汚れた顔を拭いて貰いながら尋ねる。
男が微笑む。
「いや、将軍ではない」
「そう」ウォルフガングは、ちょっとがっかりしたような表情をした。
男の笑みが深くなる。
「でも、それに近い位であることは確かだ」
「じゃあ、ショウグンと宇宙に行った?艦隊を指揮するの?ワルキューレは音もたてずに宇宙を飛ぶってほんとう?」
「残念ながら私は、ハーナウ伯とはご一緒したことはない。艦隊の指揮なら沢山した。ワルキューレが音をたてるかどうかは、自分で確かめるといい。もっと大きくなって、士官学校へ行って」
男は、無造作に木の根元に腰を下ろし、少年を膝に乗せる。ウォルフガングは、躰をもじもじさせて困った顔をした。
「あの…お洋服が汚れちゃうよ。僕、このお屋敷の子じゃないの。僕のおとうさんは…」
「庭師」先に言われて、ウォルフガングは眼を丸くする。
「そうだよ。今度、シュタイナウの城のお庭を任されることになったんだ。けど、どおして?」男が、彼の金色の髪を撫でる。
「おまえの事ならば、良く知っている。ウォルフガング」
「あなたは、誰?」ウォルフガングは、大きな灰色の眼で男の美しい顔を見つめる。
「私が怖いか?」
見返す瞳は、夜と昼の空の色。不思議に綺麗な色だ。ウォルフガングは首を振る。
「ううん、怖くない。あなたは、神様なの?僕を宇宙に連れて行ってくれる?」
「私は、神などではない。ただ、もう永くおまえを愛していて、これからもずっと愛し続けるだろう」
「僕のことを?」
「そうだ」
「でも、僕は知らないよ」
「それで、いい」
ウォルフガングは少しだけ思案していたかと思うと、ぱっと顔を輝かせた。
「今日が、始まりなんだね」
美しい顔に、刹那、哀切が過り、「ああ、そうだ…」男は、少年の小さな躰を抱き締めた。
「ウォルフガング…ウォルフ」
父親に揺り起こされて、彼は眠い目を擦った。
「あれぇ、おとうさん…」
ライトを手に大人達が覗き込んでいる。ニコラが、頬をペロリと嘗めた。
「どこも、何ともないか?」
「うん」答えてから、急にウォルフガングは回りを見回した。
「あの人は何処?」
「あの人?」
「うん、立派な軍人さん。あのね、こっちの眼が黒くって、こっちの眼が青いんだ」
少年を毛布に包んで抱き上げた父は、息子の言葉に眉を顰める。
「ウォルフガング、そんな人はいない。たとえいたとしても、人前でそのような事を言ってはだめなんだよ」
「どおして?」
「時として、言葉は人を傷つけるものなんだ。それに、偉い方に失礼があってはいけないからね」
「とっても綺麗なのに…」
その時、彼は左の掌に何かを握り締めているのに気付いた。
そっと開いて見ると、それは美しい金属の破片で、彼の大好きな将軍の胸に輝いているものによく似ている。
「おとうさん…」
「いいかい、ウォルフガング、私はダールマンさんにお詫びとご挨拶をしてくるからここでおとなしく待っているんだよ。ニコラはベンヤミンが連れて来てくれる」
父は、彼を作業用のトラックまで運ぶと慌ただしく屋敷へと取って返す。
ウォルフガングはひとりになって、手の中でほんのりと暖まったそれを桜色の指先で撫でながら呟いた。
「秘密なんだね」
伯爵邸の図書室は、革の背表紙のついた本やディスクが高い天井までぎっしりと書架に並び、驚くほど豊富な蔵書を誇っていた。
ウォルフガングは、その古ぼけた歴史の香り漂う薄暗い部屋が大好きだった。
休日になると少年は、愛犬を連れて父親のトラックの荷台に乗り込む。
自ら積み込んだ苗木の隣に腰かけ、ニコラの茶色の首に腕を回して、ウォルフガングは今日は何の本が読めるのかと心を躍らせる。
執事は職人の子に邸内をうろつかれるのを決して快く思ってはいなかったが、主人のハーナウ伯は、ウォルフガングに図書室の出入りを自由に許していた。名付け親の伯爵は、いくらダールマンに小言を言われようとも少しも耳を貸そうとはしなかった。
午前中いっぱい、苗木の荷下ろしや剪定の手伝いをした少年は、昼休みになると母親の用意してくれた昼食の紙袋を持って図書室へと駆けて行く。その後ろを、ニコラが追う。小さかったむく犬は、今では立派な成犬になり、いつのまにか保護する者とされる者の役割が逆転していた。
使用人用の裏口から、小さな予備室のキャビネットの後ろにある隠し扉にもぐり込み、薄暗い通路を通って図書室へと入る。
それは、ハーナウ伯自らが少年に教えた抜け道だ。そうすると、誰に合う事もなく宝の部屋へと入ることが出来る。
少年は、書架の間のパネルから抜け出すと、うっとりと書物の壁を見回した。彼は迷う事なく『タゴン星域会戦』の分厚い歴史書を取り出し、膝に広げる。そこには見たことのない宇宙が彼を待っていた。持ってきた紙包みを開くのも忘れ、しばらくの間読み耽り、彼はニコラに顔を嘗められ昼食を思い出す。
「ごめん、おなかすいたね」
ぱたんと本を閉じ、閲覧用の机の端に置く。ごそごそと袋を広げ、チーズの挟まったパンを一切れニコラへやると自分も頬張り始める。
どうしても先が読みたくて、ウォルフガングはいけないことだと知りながら、再び本を開く。次第に熱がこもり食べる事がおろそかになると、ニコラは鼻先で少年の頬を突っ付いては促す。それが二、三度続いた後、突然扉が開いた。
「ウォルフガング!」ダールマンの叱責が部屋に響いた。
ニコラが、唸って執事の前に立ちはだかる。ウォルフガングは、必死に愛犬が執事に飛びかかるのを押さえた。
「大切な本が汚れる」
「ごめんなさい」牙を剥き出しにしたニコラの首をしっかりと掴んで、ウォルフガングは謝った。
ダールマンは、持っていた本をとりあえず机に置き、少年に部屋を出るよう促す。
犬をテラスに追い出すと、痩せた執事は仕置用のこぶりの鞭を持って来た。項垂れたウォルフガングの前に立ち、ダールマンは命令する。
「両手を前にだしなさい」
ウォルフガングが掌を出した途端、唸りを上げて鞭が振り下ろされた。
鋭い痛みを息を詰めて少年は耐える。二度、三度、鞭打つ音が響き、小さな掌はあっという間に赤紫色に変色してゆく。外では、テラスのガラス戸に張り付くようにしてニコラが吠え立てていた。
手で火種を握ったような感覚に、俯いた視界がぼやけはじめた頃、足元にニコラが走り込んできた。
「何をしているっ」
散歩から戻った伯爵は、入って来るなり執事から鞭を取り上げた。
「大丈夫かね」
「ルートヴィヒ様、子供は厳しく躾けなくてはなりません」
「だからといって、馬や犬のように鞭打つことはない」ハーナウ伯はウォルフガングの前に膝をついて、赤く腫れた手を包み込むように握った。
「僕が悪いんです、本を読みながら物を食べたりしたから…」
「ちゃんと指は動くかね?」優しく問い掛け、「薬を、手当ての用意を…早くしろ」と、憮然とした執事に向かって言い付けた。
女中がウォルフガングの手に包帯を巻き終わるのを待って、伯爵はミルクチョコレートのかかったビスケットが沢山乗った銀の皿を差し出した。
「お茶にしよう、ウォルフガング…ミッターマイヤーには言伝てておく。さぁ、今日は何を読んだのか、話しておくれ」
帰り際、父親は何度も頭を下げて屋敷を後にした。
土と緑の匂いが籠もる荷台で、ウォルフガングは革の装丁が施された厚い本をその胸に、包帯の巻かれた手でしっかりと抱えていた。幸せそうに微笑む少年の傍らで、ニコラは不思議そうに首を傾げた。
放課後、ウォルフガングは先日借りた本を抱えて伯爵邸への道を急いでいた。
「おい、チビ。何をそんなに急いでいる?」
はっとして彼は立ち止まる。高慢そうな貴族の子弟二、三人が道を立ち塞いでいる。
「後生大事に抱えているのは何だ?」
「平民が持てる本ではないな。一体どこから盗んで来た」
「おまえに読めるのか」
「理解できまい」
嘲り笑って貴族のひとりが腕の中の本を引ったくろうとした。
「止めろっ」延ばされた手を振り解き、ウォルフガングは叫ぶ。
「反抗するか、この盗人が!」声と共に平手が飛ぶ。ウォルフガングは、躰を屈めて理不尽な暴力をかわした。
「避けるなっ、チビ」
避けられた事に腹を立てた貴族は、余計むきになって拳を振り回す。正確さを欠いたそれは、身を翻すぐらいで十分だ。相手を見ながら、ウォルフガングはどうやってこの場から逃れようかと考えている。殴り返すのは簡単だが、その後を思うとできない。それに何より本が大事だった。
「すばしっこい奴。逃がすなよ」
「捕まえろ」
全然当たらない拳に業を煮やした少年達は、作戦を変えた。両手を広げてじりじりと迫る。ウォルフガングは待った。彼等の手がぎりぎり自分に届くか届かないかまで近付くのを。そして、これで捕まえたと少年達が思った瞬間、彼は、小さな躰を更に低く屈め、転がるようにして彼等の脇の下を潜り抜けた。脱兎の如く走り出す。
「待てっ!」
少年達の上げる罵り声を背に、ウォルフガングは走る。やがて、追いかけてくる足音や気配が消えても、少しも足を緩めることなく懸命に彼は走った。一刻も早く、大切な本をお返しするのだという思いに駆られて。
──もう、少し…あの角を曲がったら……。
狭い路地から通りに出た途端、避ける間もなく殴られた。
「早かったじゃないか」
ランドカーで先回りしたのか、振り切った筈の少年達が待っていた。よろめいた足元を掬われ、ウォルフガングは堅い石畳にしたたか躰を打ち付ける。それでも、本だけはしっかりと抱え込み庇って。
「手間をかけさせるなよ、チビ。それを返せ」
「嫌だっ」本には指一本触れさせまいと、躰で隠すように蹲って、ウォルフガングは相手を睨み付けた。
「こいつ…」泥ひとつついていない靴の爪先が、ウォルフガングの脇腹を蹴り上げる。
「これは、あんたたちのものじゃない」
「減らず口をたたくな、下郎」背中を踵で踏みつける。
「いいかげん、よこせ」
「嫌だ」
殴られても蹴られても、巌として言うことを聞かない平民の子に苛立ち、少年達の中でも一番年嵩の奴が懐から銃を取り出した。
「おまえは泥棒の現行犯だからな。処刑されたって文句は言えまい」
「それはいい」
「私にやらせろ」
ウォルフガングは、護身用に作られた小型のハンドガンが頭に押し付けられるのを感じた。その冷たい銃口が、自分から総てを奪ってゆくのだと、故無く死なねばならない事に激しい怒りを、絶望を覚える。
(父さん、母さん、ごめんなさい。伯爵、僕はあなたの本を守れなかった。あぁ、そうだ、もう一度あの人に逢いたい。逢って返すものがあったのに…)
忍び笑いを漏らしながら、貴族の少年は引き金に指を掛ける。
「子供の玩具にしては、悪趣味な代物だ」
屈み込んだその子の手首を、白絹の手袋をはめた手が捩じり上げた。
突然現れた高位の軍人に、さしもの貴族の子弟もほうほうの態で逃げ出した。
「大丈夫か」
「あなたは…」ウォルフガングは信じられないといった顔をして、目の前の人を見た。
「夢じゃない」男の軍服をぎゅっと握って、眼を見瞠る。
「私を覚えていたか」
頷き、ウォルフガングは、思い出したようにポケットを探る。そして、小さな袋を取り出した。
「お返ししようと思って…これ」布の袋から掌に、きらきらと光る金属板を取り出した。
「あなたのでしょう」にっこりとする。
男は、渡されたそれをしばし眺めた後、そっと小さな手に返した。
「これは、おまえにやろう」
「ほんとうに」興奮に頬を紅潮させる。「あ、でも、もらえません。だって、理由が無い」残念そうな顔をして徽章を男の手に戻す。
男は、その稀なる瞳を優しく緩ませ、ウォルフガングの手を取った。
「私がそれを望んでいる、というのは理由にはならんか。…このような物しか今の私には贈ることができないが…」うやうやしく額づこうとする。
「止めて、お願いだから」ウォルフガングは、慌てて男の肩を押し留める。
「では、もらってくれるか?」
ウォルフガングは男の首を抱き、こくりと頷く。そして、白皙の頬へと唇を寄せた。
「ありがとう」少年の蜂蜜色の頭髪を愛しむように、男はその長い指で何度も梳いた。