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「石綿障害予防規則案」についての意見



アスベストについて考える会

 (2004.11.8

1 意見募集のやり方について

1)何に対する意見募集か、はっきりわかるようなやり方で行ってほしい。

(理由)

 今回の意見募集は、タイトルが『「石綿障害予防規則案」について(募集)』となっているが、示されていたのは、「石綿障害予防規則案要綱」と「石綿障害予防規則案について」という説明だけだった。

 「石綿障害予防規則案」についての意見募集と聞けば、一般的には、規則案が示されていて、それに対する意見が求められていると考えるのが普通だと思うが、規則案は示されずに、規則案要綱と説明だけがつけられていたわけである。これでは、何に対する意見を述べればいいのか、意見提出をする方はよくわからなくなってしまう。

 「石綿障害予防規則案」についての意見募集なら、規則案を示して、それに対する意見を募集するようにして、意見募集で言っていることと示されている内容が一致するような形で行うべきである。

 意見募集に際しては、意見を提出する人の立場に立って、何に対する意見を求めているのかがはっきりわかるように、適切な配慮をした上で行ってほしい。

 (2) 案が作成されるまでの経過と、案の作成に関与した委員会や委員等の名前を明らかにしてほしい。

(理由)

 厚生労働省が、石綿の禁止に関して、平成155に行った意見募集(「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案」について)では、「石綿の代替化等検討委員会(以下、「代替化委員会」という。)」の報告書が参考資料として示されていた。

 その際の意見募集の趣旨には、平成1412月から「代替化委員会」が開催され、報告書が取りまとめられたこと、その内容を踏まえて意見募集が行われていることなどが書かれていた。

 しかし、今年(2004年)9月に、「代替化委員会」の設置、運営を委託した委託契約に関する文書を情報公開で請求したところ、11月になって開示された文書には、「代替化委員会」に関する記載は全く見つからなかった。そればかりか、「代替化委員会」とは全く異なる、高田勗委員長(中央労働災害防止協会)他7名の委員による検討委員会(「本委員会」という。)について記載されていた。

 現時点で、厚生労働省の担当者は、「代替化委員会」は「本委員会」のワーキンググループのような位置づけであり、それの設置や運営に関する文書はないとみられる、と説明している。

 平成155月の意見募集の際には、「本委員会」についての説明は全くなく、インターネット公開された「代替化委員会」の報告書にも、「本委員会」の存在をうかがわせる表現は一切見られなかった。

 以上のことから判断すると、平成15年の意見募集の際、厚生労働省が国民に行った説明は事実と全く異なるもので、「代替化委員会」の設置の根拠や運営について、何ら説明できない事態になっていることがわかる。

 このような意見募集に基づいて、私たちが意見を提出していたとすれば、国民の信頼を根本から裏切ることになるばかりか、意見提出制度そのものに対する信頼感までも損なう結果になってしまう。

 今後の意見募集にあたっては、このようなことが二度と起こらないようにするとともに、今回の意見募集においても、提案された規則案要綱の作成にかかわった委員会や委員等がもしいるのであれば、どのような委員によって、どのような審議を経て要綱が作成され、規則案が検討されているのかという点について、あらかじめきちんと明示した上で意見募集を行ってほしい。 

(3) 提出された意見がどのような形で今後の検討に反映されるのか、明確にしてほしい。 

(理由)

 今回提案につけられている「規則案要綱」は、意見募集に先立つ平成16929日、労働政策審議会で審議され、「厚生労働省案は、妥当と認める」との答申を得ている。

 今回の意見募集では、労働政策審議会により妥当と認められた要綱を示して、国民から意見募集をしているわけであるが、これだと、今後、提出された意見がどのような形で結果に反映される余地があるのかということが、非常にわかりづらい。

 要綱はすでに承認されているという前提の上で、その範囲内での規則の中身についての意見を求めているのか、要綱案の内容にまで踏み込んだ意見でも検討の余地があるということなのか、理解できない。

 提出された意見が、今後の経過においてどのような形で検討されるのか、あらかじめ示した上で意見募集を行ってほしい。

(4)提案の根拠となる資料を提示してほしい。

(理由)

 前述した平成15年の意見募集の際には、報告書はつけられていたが、それを作成した「代替化委員会」の議事録は公表されていなかった。「代替化委員会」の審議は非公開で、審議内容は、取りまとめた結果だけが公表されたため、具体的に何が検討されたのかということは、意見提出の時点ではわからなかった。

 しかし、今年11月に、情報公開請求によって開示された議事要旨をみると、どのような点についての審議が行われ、どういう検討がなされたのかという具体的な内容がよくわかるようになっている。

 後になって、議事要旨を、情報公開請求に基づいて公開することが可能なのであれば、意見募集の際に、その議事要旨を示して、具体的な検討内容がわかるようにした上で意見を求めるのが、当然ではないかという気がする。

 今回の意見募集では、案作成の根拠となる資料は示されていないので、なぜこのような結論に至ったのかについての説明が不十分である。

2 「石綿障害予防規則案」についての意見

(「石綿障害予防規則案」は提示されていないので、何に対する意見を提出すればいいのか判然としないが、提示された要綱や説明から何らかの案があるものと考えて、それに対する意見を提出する。)

ア、総則関連

(1) 石綿の禁止の方針を明確にし、代替化の必要性を、その方針の中で位置づけるようにしてほしい。

(理由)

 意見募集の趣旨等の欄には、「大部分の石綿含有製品の禁止(建材、摩擦材、接着剤)の製造等が禁止され」と書かれているが、今回の禁止は、5種類の建材と、ブレーキ・クラッチに使われる摩擦材及び接着剤の、10種類の製品の禁止だけであって、石綿繊維や、10種類以外のアスベスト製品は禁止されていない。

 制定される規則は、何よりも、石綿繊維や、最盛期には3000種類にも及ぶといわれている石綿製品の大多数を禁止の対象に含めていない、という実態を踏まえたものとする必要がある。

 代替化の終着点であり目的でもある使用禁止(停止)に、今後どのようにしてつなげていくのかという、全体の施策の中での位置づけが示されずに、代替化についての義務付けだけが明記されることになると、「代替化に努めること」が何のために必要であるのかという意味が明確にならない。

 規則の中では、第一に、石綿の禁止の方向に向かって進めていく方針を示した上で、その中で、代替化が求められているということを明確に示してほしい。

(2) 企業や行政に、石綿製品や代替化に関する情報を提供する義務があることを明記すること。

(理由)

 石綿の有害性や、検討されている代替化の義務付けからすれば、企業や行政には、石綿の使用の状況や代替化の進捗状況に関する情報を、石綿を取り扱う作業者や一般国民に、積極的に提示する義務があると思う。

 この点について、厚生労働省は、他の省庁や企業、団体を通じて調査を行い、石綿製品や代替品についての情報を広く集めているのにもかかわらず、これらの情報を積極的に提供していない。それかばかりか、担当者に調査結果についての説明を直接求めても、説明されないばかりか、調査した事実すら隠そうとする姿勢がずっと続いている。

 そのような状況の中で、今回のような代替化のための政策が進められているということは、非常に悲しむべきことであって、制定される規則の実効性についても、かなり疑問を抱かせるものになっている。規則の実効性ある運用が期待できないことにもなるし、何よりも、必要な情報が適切に提供されないことが、石綿による障害を予防するための妨げになっている。

 一般的にみても、企業における石綿の使用状況や代替化の進捗状況は、国民の側から情報を得ようとしても、かなり難しいのが実情である。

 代替化の義務づけをするのであれば、それに関する情報の提供についても、積極的に行うことを義務づけ、それを、厚生労働省自らが率先して実行してほしい。

(3) 代替化の促進について、企業と行政、国民が、協力して行う旨の規定を入れてほしい。

(理由)

 今回の規則は、石綿に曝露する作業者等の障害を予防するために制定されるものであるから、それと目的を同じくする、国の省庁や地方自治体、企業や国民、特に、曝露防止や障害防止の目的で活動している市民団体や個人等との協力関係の中で進められるべきものである。

 この点について、厚生労働省は、これまで、石綿の有害性や代替品に関する委託調査の報告書ですら、情報公開の請求によってしか公開しないとして、市民団体に多大な費用の負担を強いてきた。他の省庁では、市民団体に、報告書の配布や貸し出しを行って、協力して施策の推進につなげようとしているのに対して、率先して行うべき立場にある厚生労働省だけが、このような対応をしているのは非常に情けない話である。

 委託調査による報告書は税金で作成され、何部か作成されるが、作成に関係した業界や団体等には、時には無作為に、無償で配布されている実態がある。石綿による被害防止に努め、被害者の相談や救済のために、私費を投げ打って活動する人たちに対して、不当な財政的な負担を強いたり、敵対視するようなやり方は、今すぐにでも改める必要がある。

 このような貴重な調査結果が、やがては被害者となる国民の側で、最も有効に利用できるようにするため、代替化の促進が、相互の協力関係をもとに進められていくことを明記してほしい。

(4) 吹き付けアスベストを使用した建築物についての情報は、利用者や作業者に、常時提供する義務があることを、総則の中で明記してほしい。

(理由)

 吹き付けアスベストに、使用者や作業者が曝露する機会は、解体や改修工事の際のみならず、日常的な利用や管理の際にも発生している。被害を予防する観点からは、解体等の作業時に、事業者が作業者に対して情報を与えればいいわけではなく、所有者や管理者によって、日常的な生活の中で、吹き付けアスベストに関しての情報が適宜提供される必要がある。

 吹き付けアスベストを使用している建築物の登録制度を早急につくることを検討すべきだが、今回においては、最低限、利用者や作業者が、自分の生活や作業の場になっている建築物の吹き付けアスベストについての情報を、必要に応じて入手することができるような体制を整える必要がある。

(5) 知識の普及と教育についての規定を入れてほしい。

(理由)

 アスベストによる障害から身を守るためには、何よりも、アスベストやその危険性についての知識や情報が不可欠である。しかし、現状では、作業員に対する講習といっても、ごく一部の人に対して短時間の講習が行われているに過ぎず、中には、実際に作業に当たる人が参加していないことも往々にして見うけられる。そのため、実際に、天井に入り込んで、アスベストに直接触れる人は、アスベストという言葉すら知らないような状況が、今なお続いている。

 今までと同じようなやり方をしていれば、このような現状を改善することは期待できないのであるから、今までとは異なる根本的な対応を整えていかなければならない。規則が作られることによって、このような状況をどのように改善できるのかわからないが、そのための基礎となるような条項を総則に入れてほしい。

イ、総則以外の部分について、次のような内容の規定を盛り込んでほしい(順不同)。

・フィルター交換や電設作業等の日常的なメンテナンスを行う作業員が、吹き付けアスベストを使用している箇所では、マスクを使用しなければ作業ができないようにすること。

・作業記録等を保管する期間は、30年ではなく、50年とすること。(悪性中皮腫の潜伏期間は、一般に30年から50年程度の巾があるとされることから。)

・アスベスト作業者に対する禁煙教育を義務付けること。(または、喫煙者はアスベスト作業に従事させてはならない旨の既定を設けること。)

・作業場所の石綿濃度の測定に関しては、作業者の1メートル以内で行う等、実質的な測定結果が得られるような規定を入れること。(測定場所によって、測定結果はかなり異なることから。)

・石綿の使用状況を通知する義務は、発注者だけでなく、所有者、管理者も含めた義務付けとすること。

・代替化のための調査や検討が、今後も継続して行われ、その審議過程がわかるようにするため、広い範囲での参加者による常設の委員会等の機関を設け、意見や情報の交換を行い、その審議を公開すること。

・代替化のための政策については、国民の健康に直接かかわる問題であるので、特に透明性が重視されるように、行政の側の義務を明記してほしい。

3 用語の問題

 今回の提案で使われている言葉の中には、直ちに理解できなかったり、他の用語と混同されやすい用語が使われている。

「特定石綿等」という用語は、「製造等が禁止されていない石綿、及びこれを1%を超えて含有する製剤」を意味していることになるが、101日から禁止されているものが、1%を超えて石綿を含有する10種類の製品(特定されている10種類の製品)であることを考えると、この「特定石綿」という用語はかなり混乱を招く恐れがある。

 現状では、クロシドライト、アモサイトという特定の石綿繊維と、10種類の石綿製品が禁止の対象として特定されているのであって、他の、禁止対象になっていない石綿や石綿製品は、特定されていない範疇に入る。

 このようなことから、「特定石綿」という用語は現状とはそぐわず、他の施策との総合的な理解がしにくくなるため、「禁止外石綿等」とか「白石綿等」などの、意味がわかりやすい他の用語に置き換えてほしい。

 特に、大気汚染防止法には「特定粉じん」という用語があり、石綿を指しているが、この規則で特定石綿(の)粉じんなどという言葉が使われると、かなり混乱するおそれがでてくるので、このような点も考慮してほしい。

 「貼り付けられた」「吹き付けられた」の違いもわかりづらい。

 また、「特定元方事業者」という用語も理解しにくく、「自ら作業を行う元請け事業者」等に置き換えて、この規則だけで使われる用語が出てこないように工夫してほしい。

 実効性がある規則にするためには、わかりやすいものとすることが第一と考えて、不明瞭な用語を多用しないように、十分配慮してほしい。


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