〜絵に描いた餅の鑑賞〜
「絵に描いた餅」という言葉がある。
頭に描いているだけで何の役にも立たないことのたとえだ。
「絵に描いた餅」を「現実の餅」と勘違いしているだけでもおかしな話だが、本当に「絵に描いた餅」を壁に並べたてて、どの餅が一番うまく描けているか、大真面目に鑑賞していたらどうだろう?
昨年9月29日に環境省が発表した、「石綿(アスベスト)問題に関する環境省の過去の対応について −精査報告−」をみたとき、自分が感じた驚きと失望感は、まさにこのようなものだった。
過去の対応についての精査報告が、本当にこれなのか?
私にはどこから見ても、環境省がやっている「予防的アプローチ」についての講義にしか思えなかった。
そうしたら、「絵に描いた餅」を壁に並べたてて、みんなで集まって鑑賞している姿が目に浮かんできたのだ。
同時に、大きな失望と無力感がわきあがってきた。
そして、忘れられない一言が笑顔とともによみがえってきたのだ。
「自分たちは邪魔はしませんから。」
2003年7月、アスベスト(クリソタイル)禁止が目前に迫っていた頃。厚生労働省の意見募集も終わり、具体的に、何がどのように禁止されるのかに関心が集まっている時期だった。
部分禁止か全面禁止か、労働安全衛生法施行令はどのように改正されるのか。
それは、現実には、厚生労働省(の担当者)はどこまでがんばれるのか、(業界を擁護する立場の)経済産業省はどう動くのか、(建材の禁止に反対するだろう)国土交通省はどこまで圧力を掛けてくるのか、という、省庁の綱の引っ張り合いの結果でもあった。
その日、私は、石綿対策全国連絡会議(BANJAN)が行った、省庁交渉の場にいた。
環境省との会合がようやく終わったところだった。
別れ際に廊下で立ち話をして、今後の対応を頼んで帰ろうとしたとき、環境省の担当者が、別れ際にかけた一言、それがこの言葉だった。
「自分たちは邪魔はしませんから。」
私は、その言葉の意味はよくわかったが、それよりも、それが、「自分たちはあなた方の味方ですよ」という意味で言われていることの方に衝撃を受けた。
その言葉が、環境省のアスベスト問題に対するかかわり方を象徴しているような気がした。
自分たちには関係ない、邪魔もしないけれども協力もしない−それが味方という意味だったのだ。
3ヵ月後、労働安全衛生法施行令は改正され、主な建材等、10種類の製品の製造等が禁止された。昨年(2005年)夏、クボタ騒動が始まってから、厚生労働省が一心不乱に進めている全面禁止への動きが、この2003年の改正のとき、なぜできなかったのかをしきりに考える。
この時の動きについて、厚生労働省(の担当者)が話したいことはたくさんあるだろう。
特に、2003年10月の改正から施行まで、1年間という期間をおいたことについては、特別の事情があるのだろう(施行までの1年間に輸入したり製造した製品は、禁止の対象外とした)。
厚生労働省が発表した「過去の対応の検証」(2005年8月26日)には、その前の1995年の改正の際に、他の省からどのような反応があったかについて書かれている。
労働省は、クロシドライト・アモサイトを禁止し、規制対象の製品を、アスベスト含有率5%から1%に引き下げようとした。
その改正案に対して、通産省からは、周知のための猶予期間として、「施行日を少なくとも公布後6ヶ月としてもらえないか」という申し出を受けたこと、建設省からは、「石綿含有成形材料の取扱いにおいては、吹付け石綿と比べ飛散の危険性は低いと考えられることから、適切な取り扱いを担保する措置を付加して、石綿含有成形材料を適用対象外としてもらえないか」との申し出があったという。
(労働省は申し出を受け入れず、1995年1月25、26日に公布し、4月1日に施行した。)
環境庁からは特段の異論はなかったという。
「絵に描いた餅の鑑賞会」を見せられている私たちの目には、実態は何も見えてはいないのだ。
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※環境省等の過去の対応の検証については、後で詳しく触れる予定です。
アスベスト問題に関する厚生労働省の過去の対応の検証
平成17年8月26日
厚生労働省
つづく (2006.1.9)K.OUCHI