WTOの裁定−目次

WTOの裁定(4)−論点


WTO協定の解釈をめぐる論点

クリソタイルの危険性をめぐる論点



−WTO協定の解釈をめぐる論点−

・アスベスト禁止令(禁止規定と例外規定)はTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)の「技術的障害」にあたるか

 パネル(小委員会)は、TBT協定はGATTの一般原則の附属書一に属している協定であるからGATTの枠内で定められたものである、アスベスト禁止令の禁止規定がGATTの適用除外に該当しているならば、TBT協定で規定されている技術的障害の例外としても、初めから除外されていると解釈して、アスベスト禁止令はTBT協定の適用範囲に入らないとした。
 (アスベスト禁止令の例外規定の部分は、TBT協定の技術的障害にあたるが、カナダはそれについて異議を申し立てていないから、判断しないものとした。)

 上級機関は、そのような解釈を取ると、TBTの適用除外が広範囲に及んでしまい、事実上の効力をそがれる結果になることから、TBTの適用範囲をGATTの例外規定とは切り離して考え、TBT協定の適用範囲に含めて、アスベスト禁止が技術的障害にあたるものとした。

・アスベストとアスベスト代替物質(製品)は「同種の産品(like products)」にあたるか

 パネルは、過去の事例から、製品の特性、物性及び品質、最終消費者、消費者の嗜好及び習性、関税の分類コードなどの判断基準をあげ、それらの観点から検討を加えた。その結果、クリソタイルとアスベスト代替物質と、それらを含有するセメント製品は「同種の産品(like products)」にあたると判断した。

 上級機関は、ECなどから出されていた、健康に対するリスクが異なる物質は「同種の産品」とはなりえないという反論を受け入れ、クリソタイルとアスベスト代替物質、及びそれらを含有するセメント製品は「同種の産品(like products)」とはなりえないという判断をした。

・アスベストとアスベスト製品を禁止したことは、自国内の産品に対する差別的待遇にあたるか(内国民待遇の原則に反しているか)

パネルは、クリソタイルとアスベスト代替繊維、代替製品が「同種の産品」にあたるとした上で、さらに、アスベスト禁止令は、アスベスト繊維とアスベスト製品を、PVAやセルロース繊維、グラスファイバーやそれらを含有する製品よりも、より優遇的でない扱いをしているとして、GATTV条4の内国民待遇の原則(*参考)に違反しているとした。


−クリソタイルの危険性をめぐる論点−

・クリソタイルと角閃石(クロシドライト、アモサイト等)の発がん性の違いをどのように考えるか

科学専門家の見解では、クリソタイルと角閃石はともに発がん物質で、肺がんと悪性中皮腫を発生させるが、クリソタイルの発がん性は、悪性中皮腫の一方か、または、悪性中皮腫と肺がんの双方で、クリソタイルのほうが、角閃石に比べて、発がん性はおそらく低いだろうとの見解であった。

・クリソタイルの、肺がんと悪性中皮腫に対する発がん性の違いをどのように考えるか

科学専門家の見解では、クリソタイルは発がん物質で、肺がんと悪性中皮腫を発生させ、角閃石に匹敵する発がん性があるとの見方も出されているが、クリソタイルの悪性中皮腫に対する発がん性は、肺がんに比べて、角閃石の持っている発がん性よりは低いであろうという見方が多かった。さらに、肺がん、悪性中皮腫の双方で、クリソタイルの発がん性は角閃石よりも低いだろうとする見解もある。

・クリソタイルの低濃度暴露の危険性をどのように考えるか

クリソタイルの低濃度暴露に関する疫学的なデータについては、多くの職業について確立されたリスクがあるとする見解がある一方で、いくつかの研究では高いリスクを示さないことや、量反応関係を定量化できるデータはないとする見解が出されている。 しかし、量反応関係について直線モデルを採用することについて、肯定的な見解を取る以上は、疫学的なデータが十分とはいえないまでも、クリソタイルの低濃度暴露のリスクを理論上は認めることが妥当という結論になっている。

・直線モデルは妥当か

クリソタイルの暴露量と発癌のリスクの関係について、科学専門家の見解はすべて、「直線モデルは最も適切:他にこれに代わりうる信頼できるモデルはない」としている。
このことは高濃度暴露の場合に発生する発癌のリスクとの関係を、低濃度暴露の場合にも当てはめることを認める見解となる。

・閾値は存在するか

クリソタイルの暴露量に関して、これ以下なら安全な閾値が存在するかどうかという点について、科学専門家は、(アスベスト肺についての見解は分かれているが)閾値は存在しないか、その存在を示すことは不可能としている。
閾値の存在を認めない以上は、低濃度暴露の場合にも一定の割合で発癌の危険性が出てくることになる。

・代替物質の安全性(鉱物繊維、人造繊維、人造鉱物繊維、非繊維状代替物質の安全性)をどうとらえるか

非繊維状代替物質の安全性についての見解は明確には述べられていないものの、代替繊維について、科学専門家の見解は「すべての代替繊維はクリソタイルよりも危険性は低い」という点で一致していた。

・「コントロールドユース(管理下での使用)」の考え方は実際に有効に機能するか

カナダが、禁止に代わるべき措置として、クリソタイルを安全に使用できる方法があるとして提唱していた、「コントロールドユース(管理下での使用)」の考え方について、科学専門家の見解は、「大多数の状況において実際には不可能」という見解で一致していた。

WTOの裁定(6)−専門家の意見



(参考)
1994年GATTV条 内国の課税及び規則に関する内国民待遇

4 いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、その国内における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関するすべての法令及び要件に関し、国内原産の同種の産品に許与される待遇より不利でない待遇を許与される。この項の規定は、輸送手段の経済的運用にのみ基づき産品の国籍には基づいていない差別的国内輸送料金の適用を妨げるものではない。


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