“アスベストって怖いものだって聞いたことありますけど、それは、いったい、どういうものなのですか。すみません、そんなことも知らないで、恥ずかしいワ。”
アスベストというのは、天然の鉱物繊維です。つまり、岩を掘って砕き、その中にある繊維を集めて作るんです。日本にも、北海道の富良野市をはじめ、全国57か所のアスベスト鉱山の跡地があるんですよ。
このアスベストっていう繊維は、熱や酸、アルカリ、海水などにも強くて、繊維を織って布にすれば、耐火性の燃えない布にもなるし、セメントと混ぜて、これまでのどんな材料よりの丈夫な建材を作ることもできるので、20世紀の初めには「奇跡の鉱物」とか「魔法の鉱物」と呼ばれていたんだよ。
でもその頃からでもすでに、イギリスのアスベスト織物工場の女性労働者が、30代前半で次々に死亡して大問題になり、「アスベスト肺」という病気にかかっていたことがわかり、半世紀くらいのうちに強い発癌性を持つ、とても危険なものだということがわかってきたんだ。
アスベストはとっても細かい繊維で、太さは、10万分の3ミリ、髪の毛の5千分の1、何本も集まってはじめて顕微鏡でみることができるくらいなのです。
だから普通の掃除機を使っても、簡単に通過してしまうので、集塵機で集める時は、ヘパフィルターという特殊高性能フィルターを使って集めるんだね。
“がんとかの病気になるっていいますけど、どのような病気なんでしょう?”
(がんって、やっぱり聞くとガーンとなるからそういうんでしょうね。)
アスベストによってひきおこされる病気は、いろいろとあると考えられますが、はっきりしているのは、
1907年に、アスベスト肺、1935年に肺がん
1953、1960年に悪性中皮腫というがんが、
それぞれアスベストが原因でおこったとされました。
これらのがんは、最近急激に増えていて、アスベストの使用量と、10年から、30年、40年くらいの長い潜伏期間を考えると、今後もますます増え続けるだろうと言われているのです。
“まあ、それっておそろしいですけど、いったいどういったことでそうなるんでしょう?”
アスベストを吸い込むと、数百万の細い繊維が肺胞につきささり、そこに鉄を含むたんぱく質がついて、アスベスト小体といわれるものができ、それががんをひきおこすといわれています。アスベストによるがんで亡くなった人の肺から、多量のアスベスト正体が見つかるのです。
外国の動きはどうかってゆうと、1980年に、WHO(世界保健機関)の中で、「どの種類のアスベストも、アスベスト肺、肺癌、悪性中皮腫の原因になる」と結論しているし、ILOは、1986年、「アスベスト条約」を採択したけど、日本はまだ、これに批准していないんだ。
1980年代から、北欧とか、ヨーロッパ諸国でアスベストの使用が法律で禁止されはじめ、アメリカやイギリスでも、アスベストは危険ということが知れわたって、アメリカの使用量はピーク時の3%以下にまでおちているんだ。
その中で日本は、毎年、20万トンものアスベストを使っているのです。
皆は知らないと思うけど、昨年(1996年)7月、それまで中止して使えば安全としていたフランスでも、アスベストの使用が禁止された。
これは、大きなニュースになってもいいことだったけど、日本では、The Japan Times外には、朝日新聞で小さな記事が出ただけで、ほとんど話題にものぼらなかった。
もしこれと同じことが日本でも起こったら、大量に、スレートなど普通の住宅の屋根材などにもどんどん使われている今の状況からすると、とても大きな問題になっているだろうけど…。関心すらもたれていないということが恐ろしく感じたな。
この問題を考えていたら、こんなことが思い浮かんだ。
天国のペシミストと、地獄のオプティミストとどっちがほんとに幸せなんだろうってこと。
アスベストなんていう、危険物質として外国でうんと恐れられているアスベストに思いっきり囲まれて、周りでめちゃくちゃに壊されていたって、そんなこと全く知らなくて、できるだけ知ろうともしないで、平和に暮らせれば、その方がよほど幸せってことも大いにあるわけなんだ。
最悪なのは、地獄のオプティミストの人が、天国のペシミストの人から、あなたがたが今置かれている状況はとか何とかあれこれ説明されて、せっかく考えないで楽しく生きているのに、気がつきたくないことまで気がついて、考えたくないことまで考えなくちゃならなくなっちゃうことだよね。
だから、皆がアスベストのことなんか知りたくないんだって思う気持ちは、よくわかるんだよね。
だから私の言うことなんか、皆がぜ〜んぜん聞いてもくれないことなんかもよくわかるんだな。
だから、天国のペシミストより、地獄のオプティミストのほうが、絶対に幸せなんだ。知らないでいることのほうが幸せなんだ。皆本当は真実を知りたいなんて全然考えていないんだからな…。
まあいいさ。知る自由、知らない自由。
でも、皆が知らないで幸せに暮らしているとしたら、それを知らせる人は不幸をばらまいていることにならないのかな。ちょっとなる気がする…。
天国のペシミストはいつも満たされた場所にいて、何不自由なく幸せに暮らしているはずなんだけど、なぜ自分はこんなに幸せなんだろう、どうしてこんなに幸せな状態にずっといていいだろうとか考えて、いつまでも心の休まる暇がないけど、地獄のオプティミストは、地獄にいても、どうせここから抜け出せないんだったら、あれこれ考えたってしょうがないでしょとか何とか言って、結構幸せに暮らせるんじゃないのかな。
流れている曲は「遠くにみえる道」です。