前号(1994年6月発行)では、石綿含有成形材料を用いた建築物の解体や改修時における石綿粉じんの飛散の実態を紹介しました。今回は、石綿含有成形材料とは異なり、石綿粉じんの飛散が著しい「吹付けアスベスト」の処理方法について紹介します。
「吹付けアスベスト」は、鉄骨などの耐火被覆、吸音・断熱、結露防止を目的に、昭和30年頃から55年頃にかけて建築物等に施工されました。「吹付けアスベスト」の石綿含有比率はその用途により異なっており、吸音・断絶、結露防止の場合はアスベスト約70%に対してセメント約30%、耐火被覆の場合はアスベスト約60%に対してセメント約40%で構成されています。いずれも密度は
0.5g/cm3以下と軽く、特に吸音・断熱、結露防止用は、目に見える部位に多く施工されています。過去に行われた「吹付けアスベスト」には、有害性の低いクリソタイル石綿だけではなく、すでに使用を自主的に廃止している有害性の高いアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)も使用されています。
このような「吹付けアスベスト」が建築物に使用されているとしても、良好な状態であれば、アスベストの飛散濃度は一般大気中のアスベスト濃度(平均で1
f/l)とほとんどかわらず、環境・衛生面への影響を心配する必要はありません。しかし、「吹付けアスベスト」の状態が毛羽だっていたり、繊維がくずれていたりするなどの場合には、わずかずつ繊維が飛散し、気中のアスベスト濃度が、大気汚染防止法で定めている製造・加工工場の敷地境界線のアスベスト基準10f/l(0.01f/cm3)を超えるようなことがあります。したがって、「吹付けアスベスト」が何らかの理由で毛羽だっていたり、繊維がくずれていたりするような場合には、石綿粉じんの飛散を防止するために、後述する手引き書を参考に処理を施すのが望ましいと思われます。この点、通常の状態では石綿粉じんの飛散がない石綿含有成形材料と異なるところといえます。「吹付けアスベスト」が施工されている建築物を解体する際には、飛散しやすいアモサイト、クロシドライトが使用されている場合があることや、密度が軽く砕けやすいことなどにより、石綿含有成形材料の解体時と比べて、気中のアスベスト濃度は数10倍から数100倍以上になることも考えられます。そこで、これらの建築物を解体する場合は、あらかじめ「吹付けアスベスト」が施工されている部位を除去処理する必要があります。
「吹付けアスベスト」の処理について以下のような手引き書が発行されています。
ただここで、問題となることは、これらには「吹付けアスベスト」を処理する場合の適切な方法について記載されていますが、実際にそれらの方法で処理したとしても、確実に石綿粉じん飛散防止を達成できるとはなかなか言い切れないことです。
そこで、建設省では、昭和62年建設省告示「民間開発建設技術審査・審査証明事業認定規程に基づき、昭和63年に「吹付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術」を同規程の適用対象とし、除去工法については平成2年から、また、封じ込め工法については平成5年から認定を開始しています。
この認定取得に際しての審査基準の概要は以下の通りです。
現在、この審査基準に合致し、建設大臣の認定を受けている業者(
*注)は、除去工法で23工法33社、封じ込め工法で5工法12社となっています。(
*注) 認定業者については、(財)日本建築センター(Tel:03-3434-7166)、または(財)建築保全センター(Tel:03-3263-0080)にお問い合わせ下さい。これらの認定業者に処理を委託することにより、環境に影響を与えることなく、「吹付けアスベスト」を処理することができます。しかし、現在、この認定業者のみが処理を行うようにするという法的・行政的環境が整備されておらず、民間などで、費用の問題により認定を取得していない業者に処理を依頼することもありえます。そのような場合、環境面への配慮なしに処理を行うことにより、石綿粉じんの飛散を抑制できず、一般環境への汚染とともに、将来、その作業従事者がアスベスト関連疾患を患うおそれがあることは否定できません。
「吹付けアスベスト」は過去において施工されていましたが、現在では行われていません。しかし、過去に施工された「吹付けアスベスト」を含む建築物の解体・改修時には、今後とも環境・衛生面で問題を起こさないようにするため、日本石綿協会は、審査証明事業の認定を受けた業者に適切な処理を委託することが肝要であると考えています。