管理濃度とばく露濃度の関係について
日本石綿協会は昨年、作業環境における石綿粉じんの自主基準値を設定しましたが、その際、管理濃度とばく露濃度の関係を経験的に、ばく露濃度=(
0.3〜0.4)×管理濃度としました。今回は、この関係式がどのようにして得られたかについて説明するとともに、これを検証するために協会が実施した調査結果について報告いたします。管理濃度とばく露濃度の説明
管理濃度とは、わが国が独自に定めた有害物質(石綿等72物質)に関する作業環境の状態を評価するための指標として使用されるものです。すなわち、作業場所の空気中に含まれている有害物質の濃度を一定のレベル以下に保つための基準で、これにより設備面での対応の必要性が判断されます。
一方、ばく露濃度とは作業者個人が吸収する有害物質の量をあるレベル以下に保つための基準で、許容濃度をベースとしています。許容濃度とは、1日8時間、週5日間程度の作業時間であらゆる場所で作業しても、有害物質に暴露される濃度がそれ以下であれば、ほとんどの作業者から疾病は発生しないであろうという濃度です。
下記は管理濃度とばく露濃度の比較を示すものです。
表1 管理濃度とばく露濃度の比較
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管 理 濃 度 |
ばく露濃度(許容濃度) |
目 的 |
個々の作業場所の濃度低減 |
個々の作業者のばく露量の低減 |
管理対象 |
個々の作業場所 |
個々の作業者 |
時 間 |
時間に関係なし |
時間に関係あり(1日8時間) |
評価方法 |
測定値の平均を使用して統計的に処理した値と比較して評価(例:管理濃度 1f/cm3の時…測定値の幾何平均 通常0.32f/ cm3以下で満足) |
測定値(8時間)とそのまま比較して評価(例:ばく露濃度 0.5f/cm3の時…測定値が0.5f/cm3以下で満足 |
管理濃度とばく露濃度の最終目的は、作業者を疾病から守るということで一致していますが、目的、管理対象などが異なっているため両方の数値をそのまま比較して論じることはできません。しかし、一定範囲の作業場所内で作業者がほぼ均一に作業を行っている場合は、管理濃度とばく露濃度を使用した評価方法に、ある関係が成立します。
管理濃度とばく露濃度の関係
一定範囲の作業場所内における測定結果(測定値の幾何平均とバラツキ)から推定されるその空間の平均濃度(E
E
2=10(1.151×LOG2σ-1.645×LOGσ)×E1*
σは幾何標準偏差(バラツキ)のことで、経験的に2〜3の範囲をとることが多い一方、一定範囲の作業場所内の平均濃度(E
2)とその場所の個人ばく露濃度(B)にはE2=B…(2)の関係があるといわれており、(1)と(2)よりB=(0.3〜0.4)×E1…(3)の関係式が得られます。昭和61年に慶応義塾大学医学部が、各種石綿製品を製造している7工場で測定した結果ではE
2=0.8×Bの関係が得られており(図1)、この結果からもE2=Bとの考えはむしろ安全側で評価したことになります。(3)式において、Bはばく露濃度に、E
1は管理濃度にそれぞれ対応することから、ばく露濃度=(0.3〜0.4)×管理濃度という関係になります。なお、E1と管理濃度の関係は、E1≦管理濃度の場合、作業環境が良いとの判定になります。図1 個人ばく露濃度とE
2の関係(昭和62年日本産業衛生学会発表)日本石綿協会では上述の関係をさらに確認するために、当協会のワーキンググループ会社7社において、平成3年4〜7月にかけて上記と同じ方法で測定を実施しました。この結果を図2(個人ばく露濃度とE
2の関係)、図3(個人ばく露濃度とE1の関係)に示しています。図1と図2を比べると、図2のほうがバラツキが大きくなっていますが、これは、昭和61年時点の作業環境状態に比べて、平成3年では作業環境が著しく改善され、低濃度になったためと考えられます。いずれにしても図3より、管理濃度
1f/cm3であれば、ばく露濃度0.5f/cm3を十分満足していることが分かります。図2個人ばく露濃度とE
図3個人ばく露濃度とE1の関係(協会)
<略>