公益法人の公益性(6)−変遷−

(1998.6)


 日本の高度経済成長が、公害問題という悲惨な現実を伴っていたように、石綿業界の繁栄もまた、一部の人たちの犠牲の上に成り立っていたことは否定の余地はない。

   アスベストが強い発癌性のある有毒な物質であるということは、すでに1960年代から明らかにされていた。その頃、世界では、アスベスト労働者だけでなく、衣服に付いたアスベスト粉じんが持ち込まれた家庭で粉じんを吸い込んだ家族が悪性中皮腫で死亡した例などが報告され、少量のアスベストでも危険があることが証明されていた。

 少しずつ「健康問題」という不安が表面化し始めると、アスベストに対する社会の評価も次第に厳しいものに変わっていかざるをえなかった。

 発癌性が明らかにされるにつれて、世界中で禁止や規制の動きが強まっていった。日本でも、1975年、吹き付けが原則的に禁止され、アスベストが危険な物質であるという認識は浸透しつつあるように見えた。

 この頃から、機関誌「石綿(せきめん)」には、「石綿と健康問題について」「石綿に関連した病気」などの記事が目立つようになって、徐々に健康問題が頭をもたげてきた様子が見て取れる。そして、これに呼応するように、「石綿に対する正しい理解を」求める意見が強く前面に出されて行く。

 「石綿の使用量はその国の科学の進展に比例する」「中皮腫の発生は我が国ではない」「クリソタイルは無関係」「長期重喫煙者でなければ肺癌にはかからない」

 1980年代に入ると、使用禁止を打ち出す国も出て、外国のアスベストに対する規制も次第に本格的になっていった。(社)日本石綿協会は、ドイツやアメリカで規制が強まる動きが出るたびに、外国の政府や機関に、アスベストを規制する法案に反対する抗議文を送っていた。

 一方、石綿の需要が減っているのは、「石綿は危険」ということばかり強調するマスコミ報道による制約があるという意見も強かったようだ。

 「最近のマスコミのように「石綿は危険だ」ということだけでは困るんですね。・・・」

 「・・・いまの世の中には生命や安全をおびやかすものが沢山ありますね。一般の犯罪は別にして、交通事故、大気汚染、河川汚染から着色食品、薬害などもまだ続いているんです。これに加えて最近はマルチ商法、キャッチセール、地上げ屋、暴力団といった大衆の生活をおびやかしている出来事が多い。そういう方面は手をゆるめずに追求してもらいたいと思いますね。そういう社会悪に立ち向かうことがマスコミの使命だし、また行政の責任だと思うんですけどね。」

 「石綿の場合には、そうした社会悪とは違いますね。正しく管理して安全使用に注意してゆけば、大へん有用なものなんです。その辺の理解を求めたいですね。」
(「せきめん」1987年9月号「座談会−機関誌『せきめん』の変遷と最近の世相について」より、抜粋)

 10年ほど前、(社)石綿協会のアスベストに関する認識はこのようなものであった。これは過去の記事である。しかし同じことを今言ったとしたら、それは大きな問題となるのだろうか。

 多分そうはならないだろう。
 なぜなら、(社)日本石綿協会が、現在、機関誌「せきめん」や私たちに対する回答の中で言っていることは、多少の表現の違いこそあれ、この当時言っている内容とほとんど全く同じことだからである。

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