公益法人の公益性(4)−被害者−

(1998.6)(2005.9.1更新)



 ここに一つのホームページがある。

 ASBESTOS UPDATE( http://www.mesothel.com/ )
 悪性中皮腫に罹った人やその家族達が、必要な医学上や法律上の知識を得たり、情報交換をするためのサイトである。悪性中皮腫と戦った人たち、今まさに悪性中皮腫に苦しんでいる人たちの必死の叫びが世界中から生々しく伝えられている。

 なぜ彼らは、病に冒されて苦しんでいる自分たちの姿を隠そうとはしないのだろうか。

 Gabe Hoz氏は、腹膜の悪性中皮腫(abdominal mesothelioma)のために、40歳で亡くなった。彼は死の2日前にカメラの前に立った。 (http://www.mesothel.com/pages/gabe.htm)
 死の直前、強い痛みのためにけいれん発作をおこすような状態にありながら、腹部の癌のためにボタンができなくなっている姿を、苦労して服を脱いで、エレファントマンのようにカメラの前にさらしてまで、彼が伝えようとしたことは何なのか。

 死の直前の彼の様子を伝えるべきかどうか、筆者は、伝えなければならないと思うと言っている。なぜなら、アスベスト会社の許しがたい不法行為が、現実に生きている人たちに対してどのような恐ろしい結果をもたらしたのかという真実を隠しておくことはできないからだと言う("We can't hide the awful truth of the all too real human consequences of the asbestos companies' outrageous misconduct." )

 John Kroemer氏は、胸膜の悪性中皮腫のために、32歳の若さで亡くなった。
( http://www.mesothel.com/pages/kroemer.htm)

それまで全く元気だった彼は、症状を訴えてから2ヶ月、診断が下されてからわずか6週間で亡くなった。
"Asbestos took John's life." 筆者は、そう言っている。

 ある人は夫と兄をともに悪性中皮腫で亡くした。作業服を家庭に持ち込んで洗濯をする時に家族がアスベストを吸い込み、それによって家族もまた犠牲者になることがある。"Asbestos killed my husband and took my oldest brother." 彼女はそう言っている。

 (社)日本石綿協会からの回答には、「肺がんおよび中皮腫につきましては、タバコ、化学物質、大気汚染などによると言われておりその中で、石綿が原因で死亡したという統計はありません。 」と書かれていた。

 我が国の死亡統計には、悪性中皮腫の項目はない(1989年頃までの調査で、過去の死亡届から悪性中皮腫で死亡したとされている死亡者が、数倍に増加しているという報告があるが、統計とは言えない)。その意味では石綿協会の言っていることは間違いではないが、他の物質の発癌性を強調して、アスベストの発癌性に言及せず、実質的には、アスベストによる被害者を認めていないような表現になっている。

 イギリスでの悪性中皮腫の発生は1982年に500人だったが、現在では年間1000人以上が亡くなっており、今も増加中であるという。1996年のフランスの悪性中皮腫による死者は750件と伝えられている。

 日本石綿協会がいかに日本での被害者統計がないことを主張しても、世界では、悪性中皮腫によって死亡した多くの人がいて、その人達はアスベストによる被害を訴えている。そして、アスベストによって悪性中皮腫にかかり、死亡したと認められている。その事実を否定することはできないだろう。

 しかし、日本石綿協会が1996年に発行した「せきめん読本」の「中皮腫」の説明の終わりには、「人種により発生率に差があると考えられている」と書かれている。

 世界中でいかに多くの被害者が出て、その人たちの悲しみや苦しみが死屍累々と巷に溢れても、私たちは日本人であるがために、その悲しみや苦しみを生かすことができない。ある日、死の直前に、癌ででこぼこになった体を世界中にさらして亡くなっていった人の悲しみと勇気は、私たちのために役立つ日はこない。

 情報化社会と言われ、これほど世界が身近に感じられるようになった今に至っても、私たちの目の前で、私たちと同じ日本人が何千人も亡くなって、それがアスベストのせいであるということが証明されて初めてその危険性が認められるのなら、科学や知識は一体何のためにあるのかと思う。

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    注:

 「せきめん読本」は、1996年3月28日(社)日本石綿協会から発行された(この本は、環境庁の大気規制課でも基礎資料として使われており、地方自治体でもアスベストについての解説書として利用されている)。

 「発刊にあたり」には、『石綿に関する知見も深まり、「その危険性はその種類によって異なること、又、吸入性の繊維状物質のもつ健康への影響度はその形状と耐久性などに依存し、単に石綿のみの問題ではないこと」も明らかになって来ています。特にクリソタイル石綿は、管理して使用すれば省エネルギーに役立つ有用な天然資源であると再認識されています。』とある。

 中皮腫に関する説明は「第5章 健康影響」の中にあり、この章は産業医科大学の東敏昭教授、津田徹助教授が担当した。



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