HSCの提案(3)

HSCの提案(uncertainties)


イギリスHSC(the Health and Safety Commission)が予測した、今後4000トンのアスベスト(クリソタイル)を使用することによって、40年間で、多くて357人、少ない見積もりで約20人とした死者数をもとに、我が国が18万トンを使用し続ける際に発生するかもしれない死者数を算定することは、不合理なことだろうか。

敢えて計算してみると、多くて16,065人、少なくて900人という数字が出る。
しかし、前回でもふれたように、我が国の労働環境における管理濃度は、現在のところ2f/ml(1mlあたりアスベスト繊維が2本あると考えられる濃度)となっており、これは今回HSCが算定の基礎としてしている0.2f/mlの10倍の値となっている。

これについては、(社)日本石綿協会では、自主規制として、クリソタイルの管理濃度を1f/ml、個人が暴露される濃度を0.5f/mlと定めているとしている。また、同協会は管理濃度と暴露濃度との関係を、一定条件下で、 暴露濃度=管理濃度×(0.3〜0.4)という数式をあげている。(これでゆくと、日本の基準は0.6〜0.8f/mlの暴露濃度にあたる。)

しかし、これらの説明が具体的な根拠に基づく説得性を持つものではないし、法的な規制ではないことから、この場合の濃度は2f/mlとして計算するべきであると考える。そうすると、多くて16,065人という数値は、計算上もっと大きな数値として算出されることになる。

これが多いのか少ないのか。

今回のHSCの提案の中で、最も多く使われている言葉は、もしかしたら「uncertain(明確ではない)」という言葉であるかもしれない。 このことが、一方で、コストよりもベネフィットもをずっと多くなると見積もりながら、クリソタイルの禁止提案をする、一つの理由にもなっている。
クリソタイルの発癌性をどう考えるのか、特に低濃度で暴露された際の発癌性をどうとらえるのか、果たしてこれ以下ならば安全ということができる閾値(threshold)は存在するのかどうか、それらの重要な問題にはっきりした結論は与えられない。

しかし、HSCはこうも言っている。・・・

「イギリスにおける現在の年間3000人の死者は、過去において、クリソタイルとは異なる種類(角閃石類)のアスベストに暴露したことが主な原因である。けれども、歴史的に、アスベストの危険性は過小評価され続けてきた。
発病までの長い潜伏期間を考えると、クリソタイルを今後も継続して使い続けることが、はたして正当化されるのかどうかということについて、一般大衆の懸念は続いている。
もしかしから、ここでクリソタイルの使用に対して、より積極的な制限を加える行動を起こすことが、将来において発生する被害者の数を減らすことにつながるかもしれない。」

そしてこうも言っている。

「クリソタイルの低濃度暴露の危険性については明らかになってはいないけれども、今まで世界中で続けられてきた研究によっても、現在のところ、安全と思われる閾値があるというはっきりとした証明は得られていない。」
「製造段階や使用段階における徹底的な管理が行われるとしても、それは、誰かが、気がつかないうちに、アスベスト含有の製品を取り扱うことによって、比較的高濃度の暴露を受ける危険性がないということまで保証することはできない。」

代替化によるコストは主に当初の年度に限られるものが多いが、病気は長期間にわたって発生する。10年間のコストはベネフィットを上回っているが、40年間で考えれば(74ミリオンポンドから264ミリオンポンドのまで上がり)、ベネフィットはコストの最大値を上回っている。

HSCは、代替品の安全性の評価についての見解を基に、主にこのような理由などから、アスベストの禁止提案をしている。

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    参考:
    管理濃度(労働環境の濃度)
     日本の測定方法。  日本の規制濃度は外国に比べて高くなっているが、その妥当性の根拠として、この測定方法の違いがあることが主張される。

    暴露濃度(個人が暴露される濃度)
     外国の測定方法。通常は作業者の肩口などに付けた測定器で測定する。


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