繊維状物質セミナー報告−(3)

2001年7月16日に行われた、「『繊維状物質の生態影響に関する最近の研究動向』セミナー」(中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター主催、繊維状物質研究協議会協賛)に参加したのでその概略を報告します。

ここでお伝えする内容は、録音テープと当日の資料をもとに、参加者が聞き取った内容をまとめたものです。聞き違いなどの間違いがある場合がありますので、どうぞご了解ください。

あくまでも講演のおおよその内容をお伝えするためのものですので、詳細についてはご確認をお願いいたします。



繊維状物質の生態影響評価の現状
(2)注入(in vivo)実験
 安達修一(相模女子大学学芸学部 公衆衛生学助教授)

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繊維状物質の生態異常を明らかにする目的でさまざまな動物実験をやっ ているが、当初は石綿、喫煙、ディーゼルなどについて埼玉医大でやっ ていた。

労働科学研究所のきむらきくじ先生がさまざまな粉塵について研究され ていて、どういう生態影響があるかまだ余り知られていない、動物実験 で検討してみないかということになり、たけもと教授といっしょにやり 始めた。

当初は11種、レスピラブルでないものもあった。背中に皮下投与、吸入 は想定せず、物性としてどういう影響があるかということをみていた。

急性試験では繊維化とか、石綿と違った特性が見えてきたので、肺内投 与とかシステマティックに検討しようということになった。

人造繊維(MMF)を対象とした動物実験では何がわかるか。 石綿の代替物質として開発されたものが多かったが、繊維増殖を起こす のか、胸膜を厚くしたり、中皮腫を起こすのか、肺がんを起こすのか、 溶解性、吸入されて肺にとどまっているのかそれとも動くのか、そうい うことを明らかにすることを動物実験で検討できるのではないかという こと。

実験方法
肺内投与にはシリアンハムスター、静脈投与、胸腔内投与では344ラッ トを使った。344ラットは毒性試験では一般的ラット。肺内投与にハム スターを使った理由は、ハムスターというのは肺が非常に強い動物、炎 症を起こしにくい。

ディーゼル粉塵の実験で、ラットでは発ガン性を示すがハムスターやマ ウスでは発ガン性を示さない。その原因は、ラットの肺というのは、粉 塵を多量に沈着した時に、オーバーロードエクスポジャーという、炎症 が慢性化してそれが引き金になって発がんするため。

10ミリグラムを5回にかけて投与した。
他のルートはどうか。血行性に行くのはどうか。肺から血行性に行くの はそれほど考えられることではないが、サイズが小さくなれば血行性に 行かないわけではない。血行性にいった場合の影響はどうか。

腹腔内投与はアスベストの暴露では、中皮腫が発生するのでターゲット になる。閉鎖性の中でどういう影響が出るのかということで行った。

使った繊維は、クロシドライト、ファイバーグラス、ロックウール、硫 酸カルシウムウィスカーなど、電顕で見てもかなり繊維それぞれの違い があることは驚き。
チタン酸カリウムウィスカー、非常に溶解性が高い硫酸マグネシウムウ ィスカーなどでも腫瘍の発生を見た。発生数と部位をすべてあげた。

腹腔内投与、静脈内投与の結果は、チタン酸カリウム、その処理をした もの、硫酸マグネシウムウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、メタ リン酸繊維。

肺内投与で腫瘍が発生した例はどちらかの投与で腫瘍発生。チタン酸カ リウムは肺内投与は見なかったが、腹腔内と静脈内投与で腫瘍の発生を 見た。

繊維の種類とディメンションを見た場合、スタントン、ポットが言って いるような、繊維の太さと長さと腫瘍の発生はどうか。重さで投与して いるのでディメンションではどうかということだが、少なくともスタン トンが言った危ない繊維は発ガン性があって、それ以外は発ガン性がな いということでもないということでもないことがわかった。

繊維化という癌以外の病変、胸膜の肥厚、それぞれの繊維でまとめた。 投与ルートを変えた場合、繊維化がないのにという特性それぞれある。 アスベストは繊維化、胸膜肥厚があって、発ガン性があってというフル コースだが、繊維それぞれ個性がある。

DNA傷害性
8ハイドロキシグアニンというDNA損傷の指標がある。グアニンが酸化さ れて、活性酸素の1種であるハイドロキシラディカルというもので酸化 を受けたときに生成するもの。

国立がんセンターのかさい先生が、DNAの損傷として活性酸素の役割 が注目されだした頃、面白い指標になるのではないかということで始め た。かさい先生は産業医大に移られ、その後8ハイドロキシグアニンの 修復酵素、OGG1とか、HOGG1とかの仕事でこの分野を切り開かれてい る。

繊維とDNAを混ぜてDNAがどれだけダメージを受けるかということと、 DNAを切る力、8ハイドロキシグアニンを電子スピン共鳴装置を使って捉 える、という3つの方法でDNAの損傷性を検討した。

MHは溶解性が高く数分単位で溶解する。にもかかわらず動物実験では 腫瘍が発生する。コンタミがあるのではないかとかいろいろと考えられ たが、そうではない。DNAの損傷性で見ると高いDNA切断活性を持ってい ることがわかった。

8ハイドロキシグアニンが試験管内でどれだけできるかということと、 動物実験の腫瘍の発生数をみる。相関係数を取ると0.839で優位な相関 関係がある。

アスベストとMMFという違いはあるとしても、DNAの酸化傷害性と発ガン 性には何らかの関係があるということを示唆するのではないか。

繊維はほとんど溶解しないものが多いのに、DNAを傷害するだけの活性 酸素を発生させるということは、繊維表面の化学的特性が発ガン性に関 係していると考えた。

石綿の繊維表面を化学的に変えて発ガン性が変わる可能性を考えた。 カナダ産の白石綿に2種類の化学的な処理をした。一つはシランカップ リング剤で処理、もう一つは有機ポリマーでコーティング。

肺内投与だとドーズレスポンスが取れない。肺内に入った時に偏りが生 じたりする。腹腔内投与の場合、おなかの中から出て行かない、ドーズ レスポンスがとりやすい。

腹腔内投与で腫瘍が発生すると血液がたまる。肺腫瘍だと解剖してみな ければわからないが、腹腔内投与の場合には早いうちからつかまえられ る。どの時点で発生したのかが見やすい。

ポリマーしたものは余分なものは洗い流して、電顕像でみてもわからな いくらいのまったく表面的な処理。

オリジナルのクリソタイルの場合、腫瘍の発生率が時間とともに高くな るが、ポリマー処理のものは、クリソタイルの表面が変わったことで腫 瘍発生率が変わることがわかった。

MMFについては、特性もサイズも違うもので話をしても埒があかない。 繊維状物質研究協議会、産業医大の田中先生、森永先生、神山先生など に標準繊維を作ってもらって、腹腔内投与をする実験をした。潜在的発 ガン性を観察。使った繊維はインダストリアルヘルスという雑誌に載っ ているので見てほしい。

2年間観察して標準繊維の発ガン性がどうかというと、UICCクリソタイ ルの発ガン性を基準としたときに、上回ったもの、下回ったものがあ る。

リスクアセスメントということが最初は言われていなかったが、最近は 定性的だけではなく、定量的なアセスメントが必要と言われる。in vitro、in vivo吸入試験が必要となるが、種類が多い、試験法が標準化 されていない。

UICCクリソタイルに対する発ガン性ということで評価してみると、暴露 期間で直線になると仮にした場合、UICCクリソタイルに対するdoseとい うのが、チタン酸カリウムの10ミリグラムがクリソタイルの何グラムに 相当するのか。

チタン酸カリウムの10ミリグラムはUICCクリソタイルの2.3ミリグラム に相当するだろうという外挿をした。

WHOのリスクレベル、EPAのリスクレベルをもとに計算。 管理濃度に反映させる場合、定量的なリスクからそういう計算をするこ ともできる。

動物実験には限界がある。吸入試験をすればわかるがお金も労力もかか る。もし暫定的にやるとすればこういう方法もあるのかなと思う。

発生のメカニズム、石綿の吸入実験をする必要がある。潜在的遺伝毒性 の解明のための手法も必要。肺がんと中皮腫は同じメカニズムで発生す るのか、喫煙との関係、本当のメカニズムはまだまだ解明すべきことが 多い。

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