繊維状物質セミナー報告−(2)
2001年7月16日に行われた、「『繊維状物質の生態影響に関する最近の研究動向』セミナー」(中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター主催、繊維状物質研究協議会協賛)に参加したのでその概略を報告します。
※ここでお伝えする内容は、録音テープと当日の資料をもとに、参加者が聞き取った内容をまとめたものです。聞き違いなどの間違いがある場合がありますので、どうぞご了解ください。
※あくまでも講演のおおよその内容をお伝えするためのものですので、詳細についてはご確認をお願いいたします。
『繊維状物質の生態影響に関する最近の研究動向』セミナー
(2001.7.16)
繊維状物質の生態影響評価の現状
(1)試験管内(in vitro)試験
森本泰夫(産業医科大学 産業生態科学研究所教授)
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述べるのは次の4点から
in vitro試験から見た繊維化と癌化のメカニズム、繊維化に関するin
vitro試験、癌化に関するin vitro試験、繊維の溶解。
はじめにメカニズムについて
試験管内(in vitro)試験の目的は、有害物質のスクリーニング、有害物
質による障害のメカニズムの解明、有害物質における障害の遺伝子の機
能解明。鉱物繊維や人造鉱物繊維の目的ははじめの二つ。
鉱物繊維のスクリーニングでは十分のものはない。鉱物繊維の比較を行
っているものが多い。メカニズムを視野に入れたスクリーニングが最近
は多くなっている。今回はメカニズムについて話す。
繊維化と癌化のメカニズムについて
繊維化とは、じん肺、肺の中に粉塵がたくさん沈着して、灰の中にコラ
ーゲン、たとえば髪の毛や皮膚のようなものがたくさん沈着することに
よって肺が呼吸できないような状態をいう。
繊維化のメカニズムはin vitro的に考えると、大きく分けて攻撃、防
御、細胞増殖の3つの段階に分かれる。
粉塵が肺の中に入ると肺を攻撃する。
粉塵自体が攻撃する場合と、粉塵を呑食した細胞、マクロファージとか
好中球と呼ばれる細胞が攻撃因子を出して肺を攻撃する場合がある。
肺胞や気道の上皮が攻撃によってダメージを受ける。攻撃によって防御
因子が少なくなる。ダメージを受けて本来の細胞がなくなる。その後に
繊維芽細胞が増殖し、コラーゲンを沈着させる。そうして以前と別の組
織に置き換わってしまう。これが繊維化のメカニズム。
癌化に関しては、アスベストの場合、二つのものがターゲットになる。
肺がん、悪性中皮腫。もととなる細胞が違う。
肺がんは気道や肺胞の上皮が癌化、胸膜などの中皮が悪性化するのが悪
性化して悪性中皮腫となる。
細胞の変異、細胞の増殖という二つの過程がある。
繊維化と癌化に分けて説明する。
攻撃因子、防御因子、細胞増殖因子について
増殖とは繊維芽細胞の増殖のこと。
攻撃因子について
培養に細胞、アスベストや人造鉱物繊維を入れる。出てきた攻撃因子を
測定する。これがin vitroの攻撃因子の測定試験。
代表的なものはTNF。一番多く測定されるもので、炎症細胞、肺胞マク
ロファージが産生するもの。この産生度をみる。アモサイト、シリコン
カーバイドは高い値、吸入試験と相関関係があるのではないか。
防御因子について
細胞の中に鉱物繊維を入れる。細胞がやられていると死んで浮いてしま
う。浮遊率を見ると、アモサイト、クロシドライと非常に高い値。
これは繊維の重さを統一した場合で、本数を統一すると順序が変わって
くる。ロックウール、スラグウール、セラミックは高く、アスベストは
低い値になる。
人造鉱物繊維と比べると重量あたりの本数が非常に異なる。アスベスト
は繊維が細く小さいため。IARCでも、維の本数を統一して繊維を比較し
ましょうということが行われているので、今後データとして示す場合に
は繊維の本数を中心に示す。
防御因子
マンガンSOD、この防御因子が少なくなると細胞が死んでしまう。この
因子が低下するかしらべている。クロシドライト、結晶性シリカでは低
下、ロックウールでは低下は認められない。
繊維芽細胞の増殖に関する試験
二つの実験系がある。アスベストの場合、細胞の分裂が少なくなった。
増殖していない。in vivo吸入暴露試験では増殖する。in vitroでは逆
の結果になっている。これはin vitro試験の限界か。
癌化に関する試験について
細胞変異、細胞増殖。変異を見るのは3つある。形が変わる、ガン化す
る、細胞の性質が変わる形質変化。染色体異常。癌に移行する遺伝子の
異常。
細胞形質転換試験
細胞が一列に並んでいる。鉱物繊維の暴露で細胞の形が変わる。細胞の
性質が変わると、普通は一列以上に増殖しない細胞が、一列以上に並ん
で固まってしまう。そうすると大きな塊に見える。コロニーができる。
それによってこのような形質変化があったかどうかがわかる。
クリソタイル、クロシドライト、細いグラスファイバーでは細胞の性質
が変わった。コロニーができた。太いグラスファイバーは形質転換が弱
い。
染色体異常、切断、断片化
クリソタイル、クロシドライとでも染色体異常が見られた。
細い繊維のほうが切断化、断片化を起こしやすい。
アモサイト、クリソタイル、セラミック、いくつかの繊維はアスベスト
と同等レベルの切断化を起こした。
染色体の数が変わる異常
数の異常、クリソタイル、クロシドライとはこのような異常を起こす。
気道上皮や中皮細胞についてはグラスウール、ロックウールでもこのよ
うな染色体異常を起こした。
癌化につながる遺伝子の異常
8ハイドロキシグアニン。突然変異で起こる物質で、肺がんその他の癌
で非常に多く見つかる。有用なマーカーになるのではないか。
遺伝子異常を修復する酵素がある。修復酵素についても、クロシドライ
ト暴露で増加する。修復酵素についてもin vitroのマーカーになるので
はないか。今後他の鉱物繊維でも研究をする考え。
癌化に関する細胞増殖、増殖抑制
一定の傾向が認められない。増殖に関与する遺伝子では、クロシドライ
トで昂進。石綿において高い活性を示す。細胞増殖スピードでは一定の
傾向は認められないが、増殖に関する遺伝子をフォローできるのではな
いか。
繊維の溶解
in vitroに関する溶解性の試験。硫酸マグネシウムウィスカー、一番溶
解性が高い。
in vivoと比較した。
解けにくいチタン酸カリウム、吸入性試験で10匹中10匹が繊維化。セラ
ミック、8匹中ゼロ。溶けやすい繊維、グラスファイバー、硫酸マグネ
シウムではこのような繊維化は認められなかった。in vitroの溶解性に
関する試験は、長期吸入暴露試験の結果を反映するのではないか。
まとめ
攻撃因子は、TNFを使った試験ではin vitroの結果との関連性が示唆さ
れた。
防御因子は暴露によって低下した。
繊維が細胞増殖試験に関してはin vitroは逆の結果になった。
癌化について。
細胞変異、アスベストのみならず人造繊維でも認められた。
in vivoとの相関性を見る必要がある。
細胞増殖に関しては、一定の見解が得られなかったが、増殖に関連する
遺伝子では使えるのではないか。
溶解性に関しても解けにくい繊維では繊維化が認められた。
溶解性はin vivoを反映する試験になりうるのではないか。
有害的な人造鉱物繊維の有害的な評価についてのシステム
物理化学的試験(ディメンション、サイズ、溶解性)→試験管内試験→
器官内注入試験→急性吸入暴露試験→慢性吸入暴露試験---------相互
評価、総合的に判断。
どういう風にすればin vitro試験を有効にできるか。
病理のエンドポイントとのin vivo試験との相関を検討、比較する。
暴露量の検討。試験管内試験は暴露量が多くなる。慢性吸入試験の暴露
量を想定して暴露する。IARAのほうで繊維の本数に関しては概観を得ら
れている。それらの量を想定して行う。
同じ繊維でもサイズとかいろいろ違う。
セラミックの場合、結晶性を持っているものと持っていないものがあ
る。単一の繊維でもそれぞれの繊維で有害性をしっかり検討する必要が
ある。
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