トヨタスポーツ800のレストアにおける注意点


フル・レストア作業が完了し、純正のアメジスト・シルバーの
塗装も眩い1967年式トヨタ・スポーツ800。

御覧の通り、ボディーに無用の応力を与える足廻り等は、
全て取り外されているのが分かる。
また、
フロント・スカットルとドアの間がモディファイされ、
腐り対策の加工が施されている。
このクルマでは、更にサイド・ステップ内に補強が
組み込まれボディー剛性が著しく向上している。
フロント・フェンダーを、車体に取り付けたところ。
優れたプロの技術を持ってすれば、
御覧のようにピタリと一致する。
フェンダーとボディーの間にコーキングを流し込んで
「サビ対策」に必死な市井の板金塗装店とは、作業内容の
レベルがまったく違う事がお分かり頂けるだろうか?

車体の下に見えるのは移動用の台車。
勿論、ヨタのジャッキアップポイントに合わせた「アシ」が
取り付けられ、キチンと車体が乗るように加工されている。
全バラを行なった車体は、車内の塗装まで美しい。

このショップでは、ブラストによるサビの徹底除去と
パネルごとに分解したレストアを行っている。

目ざとい人は、ドア廻りのスポット溶接の跡が
無くなっていることに気づくだろう。
この様に、レストア=復元 がいかに難しいか
レストアを実際に経験しない限り、けっして
知ることは出来ない。
美しく仕上がったエンジン・ルームに、
完全にO/Hされたエンジンを搭載する。
クルマに命が吹き込まれる瞬間である。

見て分かるように、徹底的にオリジナルに
拘ったエンジンであり、補器類も全てリビルト
又は新品の部品に換装されている点が
素晴らしい。

モディファイなどはガキの遊び。
とレストアラーはよく口にするが、
なるほどと納得する仕上がりである。

 現在のトヨタスポーツ800の中でも、実際に稼動している車両は、その殆どが何らかのレストレーション作業を受けた状態であると考えられますが、その中で本当の意味での「レストア=復元」といえるレベルにまで手を入れられたクルマは、まだまだ数少なく、更にコンコース・コンデション(今まさに組立工場から出てきた状態にまでフル・レストアされたクルマ)にまで復元されたヨタハチは、ほんの一握りに過ぎません。

 ここでは、これからヨタハチのレストアに挑戦しよう。という方に作業における注意点や問題点、そしてレストアを行う上での心構えを御紹介します。


* レストアにおける注意点 *


 ヨタハチはモノコック・ボディーにタルガ・トップ(デチャッタブル・トップ)という閉断面構造で、ボディー剛性は新車時でも決して高いとはいえず、三十数余年を経た現在ではかなりのクルマが剛性不足となっています。

 特に強度部材であるサイド・シルやフロア・パネル、更にエンジンを支えるサブ・フレームは腐りやすく、酷いものはボディーのウエスト・ラインから下のあらゆる箇所が腐っている事もあります。

 例えば雨天時の走行中、フロアにどこからともなく進入してくる雨漏れがあったり、チョットした段差を乗り越えたときルーフが大きく軋んだり、車体が捻れたりといった症状がある場合には要注意です。

 また、過去に表面だけ取り繕ったような修理をされたクルマも多く、レストアの障害となっています。

*レストアにおける諸問題*


 パーツが欠乏している事もあって、特にフロント・マスクにクーリング・ダクトが付いていない物が多くあります。

また、年式違いのフロント・グリルや鉄製のボンネットが付いていたり、更には純正のアルミ・ボンネットでもシャシ番号と刻印の違う物が付いていた場合(オリジナルではボンネット,トランク,ルーフパネル、左インナーフェンダーに、それぞれシャシ番号の下3桁の刻印が入っている。)には、ほぼ間違いなく事故車と考えてよく、最悪の場合には車体が捻れていることもあります。

 また、大きな事故を経験したクルマの中には二個一,三個一された凶悪なものもあります。

この様に、主に商品とするために車体強度を考えに入れず、強引に造られる悪意の改造を行ったクルマは比較的簡単に、その正体を看破されます。 

 但し、同じ二個一でも各パネルを完全分解し、ボディー剛性と車体の復元のために膨大な時間と費用を掛けて改修されたクルマもあり、その様なクルマは外見や乗り心地で簡単に正体を現したりしないですし、問題があるとも思えません。

 私見ですが、ヨタハチの事故車を復元させるには、クルマ1台を新たに造るほどの時間と費用が掛かると考えられます。

 ルーフ部分のABS製の脱着ボルト受けが折れていたり、また、交換しても暫く経つと又折れてしまうなどの症状の話を良く聞きますが、残念ながら相当ボディー剛性が低下していると考えられるか、もしくはルーフが車体とマッチしていない(別のクルマのルーフが付いている)と考えられます。

 ヨタハチの各パネルは生産時に入念に現場合わせが成されていますので、厳密に言うと一台一台パネルの形状が微妙に異なっています。

 これは、生産がラインではなく殆ど手作りに近い作業であった為で、総剥離をしてみると、その作業内容が良く理解できます。

 エンジンなどの機関部は、現時点においてO/Hされた形跡がないものは、その殆どが2U−B,あるいは2U−C(パブリカ・ミニエース等の低出力エンジン)にスワップされていると考えてよく、また、それに伴ってミッション・デフキャリアなどもパブリカ800からアッセンブリーで換装されている場合が多々あります。
(アクセル・リンケージの関係からヨタハチ用のエンジンにシングルキャブを付けるのは難しいが、その逆は可能である。)

 単に「ツインキャブだからオリジナル」と短絡的に盲信しているオーナーが多いのですが、パブリカのそれとは圧縮比の違いやハイカムの採用,クロスミッションや最終減速比の違いで全く異なった性格が与えられていますので、パブリカ800とたいして変わらない動力性能しか発揮しないヨタハチは疑って掛かる必要があります。

 この様な「身も心もパブリカ」なヨタハチはかなり大量に存在し、殆どの場合、オーナーはオリジナルと信じて所有しているか、現実に背を向けて乗ったりしています。

 こうした「パブリカなヨタハチ」の機関部をオリジナル・スペックに戻すことは、現在の部品供給状況ではかなり難しく、いまから部品を集めるのは殆ど不可能であると言えます。

 加えて、ステアリング系や足廻りの部品もかなりの部分が入手困難な状況にあり、中には重大なトラブルを抱えたまま走行している車両も少なく無く、近い将来には走行不能に陥る可能性があります。

レストアの完了したエンジン・ルーム

この写真では、重要な幾つかの情報を知ることができる。

まず、1965年式に基づいたレストアでありながら、67年以降の
ウォッシャータンクが付いている。
オーナーのリサーチ・ミスか、どうしても入手出来なかったのであろう。

また、ホーンも新品に変わっているが、純正ではカバーにメーカーの
プラークが付く。
ゼネレーターを搭載しているが、渋滞時に発電不足に陥らないのだろうか?

オリジナルを追求する事は、生半可な知識では到達出来ない。

*レストアの方法*


 不幸にして、その様なクルマで有った場合にはオリジナル・スペックに拘りさえしなければ、機関部のO/Hは辛うじて可能であり、また、ステアリングや足廻りなどの部品は中古部品や社外品、流用部品を加工して使用する事で、完調とはいえないまでもある程度までの機能回復は可能であると思われますので、問題は痛んでいるボディーのレストアをどの様に行うかでしょう。

 さて、ここからは本格的なフル・レストレーションを行うか、現状に甘んじて腐った部分のみを取り繕って満足しておくかの二者択一(なにも手を入れず腐るにまかせる方法もありますが・・・)を選択する事になります。

1.部分補修によるレストア

 まず、取り敢えず腐った部分のみを補修して乗り続けようという場合には、サイドステップやサブフレームなどの重要強度部材に対する腐りの補修には腐った部分を切り取り、切り取った部分に合わせた形に加工した鉄板の切り継ぎ溶接。

 フェンダーやドア・パネルの車体の強度に直接影響しない部分には、薄いステンレス板などを加工して腐った部分の上にアップリケのように貼り付けていく方法(勿論、溶接である)で修復してしまえば2〜3年程度は錆の発生が表面に出ることもないでしょう。

 もちろん、これらの方法では大量のボディーパテを車体に盛りつける事になりますが、下地処理さえ十分に行ってあれば最近のパテは性能も優れており、それほど毛嫌いすることではないと思います。

 某誌ではFRPの使用例も紹介されていましたが、これは手軽に出来る反面、強度的に劣り適材適所で採用するのがよいでしょう。

いずれにしろ、その気になれば自分で出来ない事もありませんが、溶接機の購入や作業場所の確保等の問題点があり、又、プロの作業に較べると仕上がりも「それなり」にしか成らないので、その点の覚悟が必要です。

 私は信用のおけるボディーショップに任せた方が結果的には満足できるものになると考えます。

2.フル・レストア

 もし、将来の伴侶としてヨタハチを選ぶ覚悟のある方は次の点に注意してレストア作業を行ってください。

まず、素人板金は絶対禁止。 重要強度部材はもちろんのこと、その他のパネルも極めてデリケートであり、きちんとした強度を得るには専門家の知識と経験、そして技術が必要です。

ボディーレストレーションに関しては、軽四輪もフェラーリも費用と時間、そして技術は同じであると肝に銘じておくべきでしょう。

 そして、実際に作業する職人と作業内容を検討するためにオーナー自身も、ある程度の板金作業のイロハやヨタハチに関するあらゆる知識を収集し勉強しておく必要があります。

 勿論、レストア作業に必要な部品類は確実に入手してある事はいうまでもありません。

 基本的にフル・レストアは、問題のある各パネルのスポット溶接を外してパネル毎に補修もしくは単品製作した物と交換していく作業が中心となりますので、オリジナルの形状を完全に把握せずに作業に入ると似ても似つかない物に成ってしまいますので、職人には充分すぎる程の資料を提供しておくことが大切です。

 また、当然のことですが、クルマは完全分解を行い、車体はホワイト・ボディーの状態にまでバラした上、必要に応じて車体治具に固定し、レストア時に起きるであろう「応力抜け」や「熱膨張」などによる車体の変形に対応でき、そして、必要であればボディー補強を行える程の経験と技術力の持った業者に依頼することが大切です。

 特に、フロア・パネルの総張り替えなどという「とんでも無い大手術」では、カー・バーベキューといわれる車体治具や車体の変形に対応した捻れ防止用のアンカーなどを総動員しての作業となるはずですので、大変な費用が掛かることを認識しておいて下さい。

 もしも、あなたが「コンコース・コンディション」のヨタハチが欲しい。と、望むなら、業者に丸投げのレストアは止めておくべきでしょう。

面倒でも車体のレストア以外の作業は別のプロフェショナルの技術を借りるか、もしくは自分自身で作業した方が満足いく物となるでしょう。

 何でも十人並みに出来る小器用な人は、逆に言うと、全て「それなり」程度の技術しか持ち合わせていません。

一流の技術を求めるのなら(ヨタハチの場合は特に一流の技術が必要)、それぞれの専門家にそれぞれの作業を行って貰うことが、一番大切であると考えます。

最後に、強度部材に何らかの手を加えるレストアは、一見すると最高のクルマのように錯覚されていますが、実際には「事故車」扱いとなります。(勿論、中古車ショップがヨタハチの存在を知らず現代のクルマと同じように扱った場合ですが)

本当に素晴らしいクルマとはレストア無しで現代でも充分に走ることが出来、又、オリジナルの姿を完璧に残している程、大切に扱われてきたクルマを指して褒め称えられるべきものであると確信します。