トヨタ スポーツ 800 
の 
現在における状況と対策


オブジェ その1

O/H済みの2Uエンジンである。
いささか、オーバーデコレーション気味で
私の好みではないが、現在、これだけの
エンジンを新たに作ることはかなり難しいだろう。

こんなものが、自宅に鎮座するようになると、
いよいよクルマ趣味も泥沼の様相を呈してくる。

オブジェ その2

御覧の通り、ヨタハチの解体である。
これは、私が、ウィスキー1本と
交換で手に入れた物である。
余り利用価値はないが、それでも
取り敢えず持っているところが、
クルマ趣味の深淵なる世界である。

こんな物が、自宅の庭にあると、
家庭不和の原因となる。

 トヨタ・スポーツ 800の現在置かれている状況は、かなり厳しい物があります。

 このような生産されて30年以上経過した旧いスポーツ・カーを維持していく為には、概ね次の様な点が問題となりますが、現在においてはネガティブな要素が多く、個人で解決するにはかなりの時間と労力が掛かると思われます。

 オーナーの皆さんが将来に不安を感じない環境を得るためには、強力なサポート体制と維持・保存の為の情報の開示、全国的な連絡網の構築が必要ですが、最近のクルマと異なり個々の車両の置かれている環境が違いすぎるために、全てを補完する事は不可能です。が、ここに少しですがまとめてみたいと思います。


1.修理と整備

    

*  現在の状況 *

 トヨタ・スポーツ 800の専門店というショップは愛知県岡崎の某店が唯一であり、それ以外では同年代の国内外の旧車(スポーツ・カー)を扱うショップでも受け付けてもらえるが、大抵の場合、部品の入手難から満足な修理や整備を受けられない事が多い。

 また、専門外のショップではヨタハチに対するノウハウが無いにも係わらず、作業を行っている例も多く充分に機能を回復していないクルマも存在する。

当然の事だが、特別な例を除いて「トヨタ・ディーラー」では修理や整備、車検などに対応してもらえないのが一般的な状況である。

 地方で所有するオーナーで、尚かつ、周囲にマニア相手のショップが存在しない場合では、殆どの場合、市井の修理店での作業に頼るしかなく、故障個所の修理などは難しいのが現実で、整備・車検のみに対応しているようである。


*  注意点と対策 *

 まず、第一に信頼のおけるショップの開拓が最優先であるが、購入先が修理能力を有するショップであるのならそこに依頼するのも、ひとつの手ではある。

しかし、中古車販売が経営の中心となっているショップでは、往々にして修理関係に関しては外注で対応している店が多く、また、自社で修理ピットを持っていたとしても、修理技術は素人に毛の生えた程度という店や、顧客のクレーム対策としておざなりな作業しか行わない店もある。

 事実、某有名旧車ショップの販売車で酷い作業を目の当たりにした事もたびたび有り、私見ではあるが、販売が主体のショップに修理を依頼するのはお薦めできない。

 では、前述した専門店はどうかというと、過去にヨタハチに対する修理経験を持つ店であれば、まず、信頼しても問題ないであろうが、できれば常連客の紹介といった形で依頼をした方が得策である。

 この様な専門店は、その殆どが口コミで評判が上がっていった店が多く、不特定多数の顧客より限定された常連客によって成り立っており、顧客とは信頼という絆で深く繋がっており、その店の技術力を判断するのなら常連客の立ち振る舞いを見ていたら自ずと解ると言われるほどである。

 一言で言い表すのなら「いい感じ」の店であり、且つ、休日や夜に10年来の常連客等が「たむろ」していれば、一応”合格”であろう。

ただし、パーツなどの手配や準備は自分で行わない限り充分な作業は行ってもらえない事が多く注意を要する。 また、大規模なO/Hやボディーの修理などは前述した段取りが出来ていない限りは不可能であろう。

 その場合には「ヨタハチ専門店」に依頼する他無いわけであるが、いくら専門店でも無尽蔵に部品がストックされているわけではなく、相当の代価を支払わない限り(これが結構な負担となる)充分な作業は望めないであろう。

 ここでお断りしておくが、クルマの整備や機関部の修理とボディーの補修(レストア)は業種としてはまったく別物であり、その両方を扱うショップは日本国内でも数えるほどである。(あくまでも一流と思われる能力を持つ業者を対象にした場合)

従って、適材適所でスペシャル・ショップを利用するのが良い方法である。

 では、発売元であるトヨタのサービスを受けることは出来るのだろうか?というと、トヨタ・ディーラーに頼ることは現実には殆ど不可能である。

 私は車検等でディーラー(トヨタ・カローラ店)を利用していたが、これは信頼できるベテランのメカニックである友人が勤務しており、且つ、彼が責任を持ってクルマを見てくれていた上、クルマ本体もフル・レストアが完了していたからであり、一見さんが調子の悪いヨタハチで乗り入れても丁重にお断りのお言葉を頂くのが関の山である。

 これは、現代のディーラーで作業しているメカニックが(若い人が殆ど。)旧いクルマの整備を出来ないのでなく、整備するための資料や消耗部品の調達が不可能に近いからであり、それによって引き起こされるユーザーとのトラブルを恐れているに他ならない。

クラウンの新車でも買ってやれば、機嫌良く整備してくれるだろうが誰もそんな無駄使いをしてまで、ディーラーでの整備を求めはしないだろう。

 さて、最後に、地方で専門店やマニア向けのクルマを整備しているショップが見あたらない場合には、諦めてクルマを手放すのが1番良い方法かもしれないが、そんな聞き分けの良い子はこんなサイトを覗いたりはしないだろうから次の方法で整備するのが良いだろう。

 まず、ヨタハチに関する資料の収集。 
パーツ・カタログは言うに及ばず、修理書(トヨタ・パブリカ800/スポーツ800系)やヨタハチ関連の専門書(三樹書房のトヨタ・パブリカ/スポーツ800の書籍がお薦め)等、現在入手できる全ての資料を手に入れる覚悟で集めておく。

 そして、更にパーツの入手。

特に消耗部品(ブレーキのラバーブーツや各ダスト・カバーなどの一定期間で交換の必要がある部品)や摺動部品(ボールジョイントやベアリング,ラバーブッシュなどの動きに追従する機能を分担する部品)、及び各機関部の最低限のO/H部品の収集に常日頃から努めておく必要があるだろう。

 なぜならば、地方だからである。 田舎住まいだからである。

近郊に専門店も無く、信頼出来るプロ・ショップも無い地方都市の住人か、その周辺に生息している以上、不利は承知のはずである。(そこの人、怒らないように)

 でも、そんなに悲観する事はない。
実は地方であることの方が旧車趣味には有利なのである。

 まず、クルマをバラす場所がある。 
そして、特別な店では無いけれど、どんな種類のクルマでも取り敢えず修理してしまう、まるで町医者のような器用なオジサンの経営する自動車修理店や板金塗装店が必ず近くにあるはずだ。

そう、近所のオッサンの力を借りて直してしまうのである。 

確かに特別な技術や設備も無いし、修理の期間もはっきりしないけれど、蘊蓄ばかりで大した技術もないくせに、やたらと修理代は高い某ショップ(危なくて名前は出せない。Sの付くクルマの専門店)などよりずっと信頼できる筈である。

 面倒見の良いオッチャンと二人三脚で直していけば、あなた自身のクルマ整備の技術も上がり、ちょっとした故障程度なら自分で直してしまえるようになってしまう事でしょう。  

2.部品の入手

* 現在の状況 *

 メーカーから供給される「純正部品」に関しては、辛うじて重要保安部品と、他のクルマ(高年式の商用車や貨物車)との共通部品は供給されますが、外装品や内装関係に関しては、ほぼ絶望的であり、また、ブッシュやウェザーストリップなどのゴムの成型品に関してもメーカーからは殆ど供給が止まっています。(早い時期に製廃部品となった)

 ヘッドライト・カバーやウインカーレンズなどの各レンズ類は既に製廃部品となっており、今後とも生産される可能性は極めて低いと思われます。

 機関部に関しても部品供給状態は同様で専用部品はほぼ全滅で、どうにかO/Hできる程度の最小限のパーツが手に入る程度で、今後はベアリングやメタル関係の摺動部品でも順次欠品が出てくると思われます。

 足廻りやステアリング関連でも、 入手できるのはブッシュ類や一部のベアリング類,ボールジョイント類程度という状況であり、これまた再生産の道は極めて厳しいと言わざるを得ない。

 以上のことから、メーカーからの供給は「お寒い限り」であり、今後、メーカーが再生産を行って貰うにはかなりの努力とオーナー同士の団結が必要であると考えられます。 

*  注意点と対策 *

 幸いにして、ウェザーストリップなどは、トヨタ・スポーツ800・オーナーズ・クラブ(略してTSOC)で早い時期よりレプリカ・パーツが発売されており、これを購入すれば問題は無い。 また、現在欠品の部品に関しても、ある程度は専門店で在庫品を入手したり、そこで作られたレプリカ・パーツを購入する方法が一般的である。

 価格は、かなり高価な物が多いがこればかりは仕方ないであろう。 「そういうクルマに乗っている。」と思えば納得出来る筈である。

酷な言い方であるが、自分の収入を考えてクルマを選ぶという「基本的な判断」が出来ていれば、何とか出来る範囲の価格だと私は認識している。

 さて、上記の方法でも手に入らない部品の場合は、少し大変である。 

まず、旧車雑誌やクルマ関係のサイトなどをマメにチェックして欲しい部品を個人売買で購入するか、または、旧車関係のミーティングに足繁く通い、スワップ・ミートなどでお目当ての部品をゲットする方法が良く利用されている。

しかし、郵送による個人売買では常に「詐欺」の危険がつきまとうし、スワップ・ミートでは自分自身の見識眼を上げておかないと、「お目当ての部品」がどれなのか膨大な量の部品群から発見することは難しいだろう。

 これ以外の方法では、クラブに入り趣味の先達から部品を都合してもらったり、知り合いになったオーナーに御願いして他の部品との物々交換で入手する方法もあるが、部品目当てのクラブ入会は、他のクラブ員との軋轢や金銭面のトラブルを引き起こしたり、欲しい部品と交換するために、せっかく付いていたレアなオリジナル・パーツを手放す結果となる可能性が高く、あまりお薦め出来ない。

 最後に、少々荒技を紹介すると、部品取りとして駆動部分が共通しているパブリカ800を個人売買で購入したり、レストアに挫折したヨタハチを部品ごと購入し、後に必要な部品だけ取り外して転売する等の方法もあるが、往々にして自分が既に持っている物ばかりが集まってきたり、転売しようにも買い手が見つからず、最後は土に返すより他無かったり、と、ろくな結果に成らないかもしれない。
 
予備のエンジンやミッション,デフ・キャリア等は、単品で買うよりセットで買った方が安く上がる可能性があり、時には車両込みで買った方が良いときがある。

 但し、ミニ・エースのエンジン(フル・フローで無煙対策済みのもの)は、幾ら安くても車両込みでの購入は避けた方がよい。

 なぜならば、ミニ・エースはエンジン以外に使い道が無く、その上、エンジンの取り外しには大変な手間が掛かる上、残った車体は庭のオブジェと化す可能性が高いので、オブジェを置くスペースのない人は少々高くてもエンジン単体での購入をお勧めします。