檸檬

作詩・作曲:さだまさし


 或の日湯島聖堂の白い石の階段に腰かけて
 君は陽溜りの中へ盗んだ檸檬細い手でかざす
 それを暫くみつめた後できれいねと云った後で齧る
 指のすきまから蒼い空に金糸雀色の風が舞う
  喰べかけの檸檬聖橋から放る
   快速電車の赤い色がそれとすれ違う
 川面に波紋の拡がり数えたあと
 小さな溜息混じりに振り返り
 捨て去る時には こうして出来るだけ
 遠くへ投げ上げるものよ


 君はスクランブル交差点斜めに渡り乍ら不意に涙ぐんで
 まるでこの町は 青春達の姥捨山みたいだという
 ねェほらそこにもここにもかつて使い棄てられた
 愛が落ちてる
 時の流れという名の鳩が
 舞い下りてそれをついばんでいる
  喰べかけの夢を聖橋から放る
  各駅停車の檸檬色がそれをかみくだく
 二人の波紋の拡がり数えたあと
 小さな溜息混じりに振り返り
 消え去る時には こうして出来るだけ *
 静かに堕ちてゆくものよ


 * シングルではこの行が以下のようになっている。

   消え去る時には こうしてあっけなく


誤審(さだまさよし)

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