中東の入り口のパキスタンとアフガニスタンへ行くこととなった。搭乗した飛行機は成田発スイスのチューリッヒ行きスイス航空のDC10型のジャンボ機である。

その頃は、中東のベイルートを拠点に世界各地でテロ活動を行っていた日本人の組織があった。中東はいわゆるパレスチナ・イスラエル問題が深刻であり、混迷と緊張の度合いをますます深めている。

成田発の東南アジア、中近東経由ヨーロッパ行きの国際線、いわゆる南回りヨーヨッパ行き路線は何度もハイジャックされ、日本政府の超法規措置により機内の人質釈放の交換条件として15億円という巨額の身代金と獄中の人物が釈放されるということがあった。

かかる事情を承知している人は細心の注意をもって南回り線に搭乗していた。(最近その組織の頭目と目される女性が逮捕されたが他のメンバーは未だ逮捕されていない。)

私は搭乗後直ちに自分で機内のどこにどんなものがあるのかを確認しようとした。すると私の行動を不審に思ったクルーのスイス人スチュワーデスが私の後をつけてきた。しかも二人がかりで何やらヒソヒソ話しながらついてくる。私がトイレに入ると、外からドアをノックし声を掛けてきた。ミスター何をしているのですか。ご用なら承りますと。
てっきり私が不審な人物で、ひょとしたらテロリストでトイレに爆弾か武器を隠しているのではないかと疑ったようだった。

私は不審者でもないしテロリストでもない。ただ機内を見て回っているだけだといったが彼女たちは強く私を疑い以後近くからまた遠くから私を監視し続けていた。

自分の席に戻った後、酸素マスクの所在を確認すべく上を見たがない。アレッ!と思ってあたりを見渡すと目の前のシートの背もたれの後ろに30センチ位のプレートがはめてあった。ここかなと思い触っていると突然そのプレートが外れ下に垂れ下がり、中から酸素マスクらしきものやその他の機材が出てきてしまった。

これにはまず私がビックリした。この様子を私を監視していたスチュワーデスがすぐに見つけ飛んできた。「オー!ノー」と言ったあと早口でしゃべりまくって(私には良く聞き取れなかった)一人をそこに残し、もう一人が操縦室へ走っていった。すると直ぐにスイス航空のフライトエンジニアらしき顔中ヒゲだらけの大男が手にツールボックスのような箱を持って近づいてきた。既にスチュワーデスから状況を聞いていたらしいその大男は私にゆっくりとこう言った

「ミスター、この酸素マスクは非常時には自動的にフタが開いて出てくるから無理矢理開いて出さないでほしい。飛行機のメカニズムは微妙に出来ているのでどうか壊さないでほしい。アンダースタン?」と。

「アンダースタン、アンダースタン。OK、OK、ソーリー、ソーリー、ベーリーソーリー」とただひたすら謝った。
ジャンボ機を壊して、テロリストに間違われスイス人に叱られてしまった。
私、 瀬良譲二が壊したんではありません。
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